begin again from the ending



それはとうに終わっていて

誰にも届かない祈り

本当に届けるべき相手を見失った祈り

自由であろうとして

ルールの上にいることに気づく

奔放にやろうとして

調和のうちから出ていないことを知る

唯一の流儀すら失った祈りは

けれどすでに終わっているので

不完全であれ

積み上がってしまう


begin again from the ending


孤独が嫌だった

寂しさが嫌だった

ひとりが嫌だった

誰かに祈りを宛てた時

僕は僕だけの世界を壊すことができた

ただそれだけのこと

書くことに理由なんていらないと

ただそれだけが残された流儀

形骸化して

血の通っていない流儀

僕は宛てない

孤独を抱えて

終わってしまおう

そして再び始めよう

間違ったスタートラインから

ゴールテープのない旅路

ひとりは嫌だな


begin again from the ending


間違った明日を選ぶ

ただそれだけが今ここに残された矜持

置き忘れたり

捨ててきたり

間違いの果てに回ってきたつけ

僕は僕でいるために

誰にも宛てたくない

けれど

どことも繋がらない僕はそもそも誰になるのか

間違った明日を選ぶ

ただそれだけが今ここに残された真理

過ちは過ちのままに

始めからやり直すことなどなく

痛みを抱えて前に進む

ちょっと重くなりすぎた

これじゃ終われない

始められない

捨てられない

きみにつけられた傷を消したくない

たとえどの祈りを葬ろうとも


begin again from the ending


祈ること

隠者として

罪人のように

俗人として

咎人のように

生者として

聖人のように

人間として

人間のように


begin again from the ending


宛先のない手紙を

きみが拾った

だから

もう数々の手紙は宛先不明で返ってこなくなった

ささいな奇跡を喜びながら

僕の間違った明日は少しずつ変化を始めた


begin again from the ending


さあ

自由であることだけが流儀!

矛盾を通して光る世界にいる蛙のコーラス

不調和であることだけが至高!

壊れたガラスを通して見た世界のきめこまやかさ

さあ

祈りをやめないで!

宛先は覚えてる

けれどその場所はもうどこにもない

だから

さあ勇気を出して!

宛てない祈りを届けよう

さあ決意して!

宛先を空欄のままに

ポストに入れるんだ

どうか返ってきませんように?

間違いなく返ってきますように?


begin again from the ending


アイロニーだと

薄く笑って言ってみた

どこからどこまでも軽薄だった

僕たちが思うより

もっとずっと僕たちは幸せで

とっくに手を繋いでいて

生きることを賛美している

僕らが思うよりもずっと

美しくはない

アイロニーだと

薄く笑って言うことが美だとは思わないけど

さあくじけないで

繋いだ手を離している暇はない

賛美を否定している余裕もない

さあ勇気を出して

宛先が空欄の祈りを投函しよう

とんでもないアイロニーだなって

むしろとんだオプティミストだよなって

薄く笑いながら

繋いだ手はそのままに

幸福の一切を捨てることなく


begin again from the ending


もういちどであえたら

ぼくはなにをするだろうか

たぶんキスとかそういうんじゃなく

あはは

けっきょくやっちゃうかもしれないけど

ほんとうにやりたいのは

きみといっしょに

いきをすること


begin again from the ending


午前一時

祈りが乱暴に放り投げられて

カラスがそれをくわえて飛んでいく

どこへ届くともしれない

宛先のない祈り

誰のためでもないはずの祈り

僕は僕のためのみならず

誰かのために祈りたかった

宛先のない祈り

どっかで腐るとか

やっぱり返ってきちゃうとか

そのほうがよっぽどいいかもしれない

午前一時

決して優しくない祈り

フクロウは見向きもしなかった



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る