キリトリセン
誰もいない初夏の駅に
ひどく感覚を狂わされる
桜もなければ
ただ目の前に
キリトリセンがあるだけの
たわいない不調和
キリトリセンのこちら側
一匹の猫が腹を見せ
何かを要求している
どうぞこちらを向かないで
キリトリセンのこちら側で
あなたに愛は渡せるけれど
そんなものじゃ
腹は膨れやしないでしょう?
私たちばかりが吼えている
それにすがってばかりいる
キリトリセンをどうにか繋げて
それを分かち合いたいと
ねえ、見知らぬあなた
愛の持ち合わせはあるけれど
キリトリセンのこちら側には
ひとりと一匹がいるばかり
遮断機が下りて
キリトリセンをなぞりながら
迫る電車で
愛を運んでみたくても
もうどうもならないわ
愛では猫缶すら買えないのよ
それなのに
鞄に入れるには重すぎる
初夏の日差しを浴びて生きて
手に入れた私の愛を
夕暮れすら待たずに放るのは
いささか忍びなく
猫と共に
電車を見送ろう
猫が鳴く
ああ
まだ独りの少女でいたい
この愛は
何も目指さない
猫が鳴く
電車が出るわ
キリトリセンをなぞりながら
いつしか
桜も蝉噪もない季節に
大人になった私が
少女の私を切り離すの
愛もろとも
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