【61】夜の空中戦


「ちっくしょう、好き放題撃ちやがって! 見てろよ……!」


 悪態とは裏腹に、晴矢はれやは余裕の笑みを浮かべていた。


「俺一人、自由に飛べるとなったら、さっきのようにはいかないぜ!」


 天空城の天頂から防護シールドをすり抜けて、全速力で離れていく。

 そんな晴矢に向かって、すぐに放たれる5筋のレーザービーム!


 それをひょいひょいと交わしながら、サンダードラゴンボウを握りしめると、晴矢はクンっとばかりに反転した。

 そして一気に、巨大ライカンスロープ目掛けて突っ込んでいく。


 巨大ライカンスロープは、光球を膨らませている最中だ!


「そのガム風船、無事に膨らむと思うな!────スパイラルショット、連射モード!!」


 言うなり、力の限り光の矢を解き放つ!


 ヒュドドドドド、ズドヒュン!! ズドバゴフォオオオオオオオンッ!!!!


 数本の光の矢が光球を貫いて、爆音が轟いた!


「グガホオゥ……!!!」


 爆炎に包まれた巨大ライカンスロープが、大きく仰け反り、大社脇のうまやを踏みつぶす。


「『晴矢くん、変に攻撃すると皇都に被害が出るわ!』」

「ヤッベ、そうだった!」


 晴矢は全速力のまま、体勢を崩した巨大ライカンスロープの背後に素早く近づくと、その腰にピタリと取り付いた。


「皇都から離れろ!!!!!!!!」


 バサリバサリと力強く、サンダードラゴンウイングを羽ばたかせる!

 すると、巨大ライカンスロープの足がフワリと浮き上がり、地表の皇都周辺に陣を張る軍勢から「おおおおっ」とどよめきが上がった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 雄叫びとともに一気に上昇!


「湖に放り込んでやるぜ!」


 抱え上げていた巨大ライカンスロープの身体を、ブゥンとばかりに湖に向かって放り投げつけた!

 しかし!


「グホオオオオオオ!」

「キヒィィィィィィィィィィィィィ!!!」

「へっ!?」


 巨大ライカンスロープが低い唸りを上げると、頭上の黒い靄が膨れ上がり、悲鳴のような甲高い声を上げる!

 同時に、巨大ライカンスロープの身体がグンと風を切って旋回した!


「まさか飛んでる!? そうか、コイツも飛べるのか!」


 赤髪の仮面男が飛んでいたのを思い出し、ハッとなる。

 上空高くへ持ち上げてしまえばこっちのもの、と思っていたが、今回ばかりは話が違うようだ。


 宙でヒラリと反転して、晴矢に向かって突進してくる巨大ライカンスロープ!

 晴矢はサンダードラゴンボウを構えると、バサリと大きくサンダードラゴンウイングをはためかせた。


「脳筋特攻は禁物だぜ! ────ライトニングショット!!」


 ズドシュウゥゥゥンッ!


 雷矢が、電撃を撒き散らして飛んで行く。

 ヒラリと素早い身のこなしでこれを交わしさる巨大ライカンスロープ!

 そのままグングンと晴矢に向かって突進してきた!


「グガオオオオウッ!」

「思ったより身軽だな! 飛翔術なら負けないぜ!」


 ニヤリと笑みを浮かべてクンと旋回する晴矢!

 その背中を巨大ライカンスロープの鉤爪がビュンと風を切ってかすめていく。

 突進を上手くやり過ごした晴矢は、すぐさまその後を追いかけた。


「『晴矢くん、アフマドさんの方は準備完了よ。超虹雷砲スーパーグライキャノンはいつでも撃てるわ。なんとかがんばって、巨大ライカンスロープの動きを止めて』」

「オッケイ! ────ライトニングショット!!!」


 サンダードラゴンボウに横たわる雷矢。

 その気配に感づいたのか、巨大ライカンスロープが右に左に大きく旋回して飛び回る。


「ちょこまかと!!」


 晴矢も負けじと追いかけるが、なかなかに狙いが定まらない。

 戦闘機モノのフライトバトルゲームのように、巨大ライカンスロープと晴矢は湖の上空を駆け巡った。


「チッ! 埒があかないぜ!」


 晴矢が何かいい方法は無いかと、頭を巡らせたその時だった!


「ヒヤオウゥゥッ!!」


 巨大ライカンスロープの頭上で黒い渦が甲高い叫び声を上げたかと思うと、無数の小さな赤い光球が宙に現れた。

 そしてまるでまきびしを撒くかのように、晴矢目掛けてボロボロと降り注いでくる!


「うわっと! うわっとと!!!」


 ズドンズドンと弾ける赤い小さな光球を、避けるのに精一杯だ。

 爆炎を潜り抜けて上昇する晴矢だが────!!


「ど、どこ行った!?」


 気づけば、前を飛んでいたはずの巨大ライカンスロープの姿が無い!!


「『上よ、晴矢くん!!!』」


 ハッとして見上げるはるか上空!

 両腕を広げて胸を張る巨大ライカンスロープの姿が!

 その頭上では黒い巨大な渦がとぐろを巻き、その胸前では赤い光球が見る見るうちに膨らんでいる。


「ヤバイ!!」


 すぐに逃げなければ、と思ったものの、晴矢の背後は────皇都だ!!!

 自分一人、逃げるのは簡単だが、放たれた瞬間、皇都に大ダメージが!


「────ライトニングショット、フルバレットブースト!!!」


 咄嗟にサンダードラゴンボウ引き絞る晴矢!

 二の腕に伝わる、フルバレットブーストの横暴なパワーのうねり!


「来いよ、バケモノ! 俺はここだ!!!!」

「『無茶よ、晴矢くん! 射程距離外じゃない!』」

「何してるロコア! 超虹雷砲スーパーグライキャノンを!!!」

「キシィィィィアァァァァァァァヒィィィィィィィィィィ!!!!」


 黒い渦の、怒りと喜びと狂気が混ざり合った金切り声。

 辺りを真っ赤に染めて、バチバチと火花を散らす真っ赤な光球!!


「ホワオウゥゥゥウッッッ!!!」


 長い髪をなびかせて、巨大ライカンスロープがズンとばかりに両腕を交錯する!!

 瞬間、巨大な光球が「ヒュゥン!」と音を立てて、晴矢目掛けて放たれた!!!


 一拍遅れて、「シュドンッ!!」と音がして、青い閃光が巨人の身体を貫く!

 天空城から放たれた超虹雷砲スーパーグライキャノンだ!!


「ゲボグヘェッッ……!!」


 真っ二つに引き裂かれた巨大ライカンスロープの身体から、吹き出すドス黒い血。

 そして、その巨体にボコボコと丸いコブが浮き上がっていく。


「『そのままじゃ爆風に巻き込まれるわ、晴矢くん!!!!』」

「まかせろおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」


 迫り来る真っ赤な光球!

 ブワッと降り注ぐ高熱が晴矢の全身を覆い尽くしたその時!!!


 光球に狙いを定めたまま、晴矢が斜め上にビュンと大きく羽ばたいた!!

 そして────!


「ぶっ飛ばせッッッッッ!!!」


 「バヒュゥン!」と風を切り裂き、極大の雷矢が放たれる!!!


 ズガドシャァァァァァァァァァンン!!!! ズドゴホオオオオオオオォォォォォォンンンン!!


 轟く雷鳴と、巻き起こる大爆発。

 強風に久地湖の水がザバンとうねり、皇都に暴風が押し寄せる。

 暴風に押し付けられるようにして地面にかがみ込む皇都の人々。

 家々の戸をギシギシと掻き揺らし、城壁の外まで爆風が駆けて行く。


「うっひょおおうっ! やったぜ!」


 爆風に乗って、天高く舞い上がる晴矢。

 ヘッドセットの向こうからは、胸を撫で下ろすロコアの溜め息と、操舵室の皆の歓声が耳に届く。


 遥か眼下では、モウモウと広がる黒煙と、肉塊と化して湖に落ちていく巨大ライカンスロープ。

 爆炎はキラキラと瞬きながら広がって、やがて音もなく、湖畔に舞い落ちていった。


 ヒュウと吹き抜ける優しい夜風。

 そしてゆっくりと、厚い雲が皇都の上空を覆っていった────。





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