【60】巨大狼男
鋭く尖った爪のゴツゴツした指が旋回する
「なんだ、コイツ!? どっから出てきた!?」
見れば、穴の中からニュルッとばかりに突き出る緑肌の上半身。
顔には黒い仮面、髪の毛は真っ黒な炎のように揺らめいていた。
そしてその頬に輝く真っ赤な逆十字。
狼のように突き出た口蓋からは、鋭く長い牙が突き出ている。
突き上げたその指先には、鋭く尖った鉤爪が月明かりに煌めいていた。
「狼男かよ!」
「これは、鬼獣化! シャムダーナの仮面男がライカンスロープに鬼獣化したみたい!」
「ふむ、面妖な」
周囲の建物を破壊しながら、ズーンとばかりに足をついた。
頭には獣の耳、腰からぶら下がるフサフサのしっぽ、喉から胸にかけて伸びる、ボサボサの紫色の毛。
そして両の腕をグンと左右に大きく広げて頭を仰け反らせると、狼の遠吠えの如く、唸り声をあげた。
「フオ~~~オオオオオオォォォォ……!!!!!」
周囲の空気がビリビリと震え、腹の底から恐怖にも似た感情を揺り起こす。
皇都のお祭り騒ぎが、一瞬にして鳴り止んだ。
そしてさざなみのように、恐怖に怯えるざわめきが広がっていく。
油断なく、巨大ライカンスロープに視線を走らせる4人に対して、
頭上を大きく旋回する晴矢に、巨大ライカンスロープがゆっくりと顔を向けてくる。
そしてグッと踏ん張ると、ブゥーンと唸りをあげて、右拳を振り上げた!
「フホオウゥゥゥ!」
「おっとぉ!!」
踏み出した大きな足が再びズーンと地響きを立てて、皇都の城壁を粉々に踏み砕く。
「お、皇都が……! おのれ、妖かしの巨人め!」
「晴矢くん、挑発しない方がいいかも。あそこで暴れられたら、皇都がめちゃくちゃになるわ。湖上空の、天空城に向かって」
「そ、そっか!」
ロコアの指示に従って、湖の方へと進路を向ける晴矢。
それを見た巨大ライカンスロープは、グッと腰を落とすと、両腕を顔の前でクロスさせた。
「フゴオオオオオオオオオオオオ!」
唸り声とともにクロスさせた両腕を開くと、頭上に黒い渦が巻き始め、その顔の前で真っ赤な光球が膨らみ始める。
「高エネルギー反応! 晴矢くん、敵の攻撃が来るわ!」
「くそっ、飛び道具かよ!」
「プォオウ! ポウ! ポウ! ポオオオオウッ!!」
甲高い叫びとともに、巨大ライカンスロープが真っ赤な光球に息を吹きかける。
すると、光球から真っ赤なレーザービームが飛び出してきた!
ヒュン! ヒュゥン、ヒュンヒュン!
「うわっとっと! おっとっと!!!」
飛翔する晴矢の横を、極太のレーザービームがかすめていく!
なんとかこれを錐揉みしながら交わす晴矢だが、4人がしがみついている状態では、あまり余裕がない。
「み、ミクライ……あまりこの状態が続くと限界が……」
しがみつく方も一杯一杯の様子だ。
「ミクライ殿! 巨人に近づいていただければ、拙者がヤツを止めるでござる!!!」
「ダメよ、インディラさん! あなたが行っても、皇都が破壊されるだけ!」
「クッ……!!」
「見えた! 天空城だ!」
一気に高度を上げる晴矢の背後で、巨大ライカンスロープが再び雄叫びをあげた。
「また来るわ!」
「このまま突入する!!!」
飛翔速度を上げて突き進む晴矢!
再び襲い来る、レーザービーム!
ヒュヒュン! ヒュドドドドドッ!
爆音を上げて、レーザービームが天空城の防護シールドにぶち当たる!
大波に漂うように、大きく揺れる天空城!
「晴矢くん、真っすぐ行ってはダメよ! レーザービームが天空城に当たっちゃう!」
「ま、マジか!!」
慌てて、グンと大きく右へと旋回する晴矢。
しがみつく皆の腕にもギュッと力が篭もる!
「みんな、しっかり掴まってろよ!! うおおおおおおおおおおおおおお!!」
「み、ミクライ殿ぉぉぉっ!!」
必死の雄叫びをあげるインディラのすぐ下を、何本ものレーザービームがかすめていく。
さらに襲い来るレーザービームをグルンと身を捻って交わし去ったその時、一瞬の静寂が訪れた。
「弾切れか!? 今のうちに行くしかない!」
全速力のままグイーンと反転する晴矢!
一気に天空城上空まで上昇していく。
雄叫びを上げる巨大ライカンスロープの前で、膨れ上がる真っ赤な光球!
それを尻目に、天空城防護シールドの穴目掛けて、真っ直ぐに突っ込んでいく!
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
インディラの雄叫びが尾を引いて、天頂の穴から防護シールド内に飛び込んだ!
冷たい外気から、ホワっとした涼し気に包まれる。
「────天空城、到着!」
甲板にフワリと降り立つ晴矢。
ロコアが軽やかに舞い降りる横で、インディラも皇子アフマドも、腰が抜けたと言わんばかりにフラフラと地面に降り立った。
「ひどい経験でござった……」
「空を飛ぶとは、生命の危険よ……」
「着いたよ、ウズハ」
胸に顔を埋めたままの雨巫女ウズハの身体をそっと地面におろした時!
ドオオオオン! ズガアアァァァン!
大きな衝撃音が轟いて、天空城がグラリと揺れた。
その衝撃に、手を緩めようとしていた雨巫女ウズハが、再びギュッと抱きついてくる。
「『防護シールド精霊力30%低下! 残り43%です! ウズハお姉さま、早く来てくださいなのです!』」
外部スピーカーから響く、マヨリンの切羽詰まった声。
その声に、雨巫女ウズハが慌てたように顔を上げて立ち上がった。
「し、失礼しました。空を舞うのがあまりにも恐ろしくて……」
その目一杯に浮かべた涙を拭いながら、キッと表情を引き締める。
「ウズハさん、急ぎましょ! 晴矢くんは、とにかくあの巨人を皇都から引き剥がして。あそこから動くつもりがなさそうだから」
「オッケイ、やってみる!」
「巨人を皇都から引き離せたなら、私が
「おお? そんなことできるの?」
「ああ、この
「そういうことか! よぉーし、やってやろうぜ!」
晴矢が右手をハイタッチのように差し出すと、アフマドは一瞬考えた後、これにポンとハイタッチを返した。
「行って来る!」
「気をつけて!」
再び天空城の天頂めがけて飛び出していく晴矢を見送ると、4人は操舵室に向かって駆け出した。
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