今日も彼らは迷宮へ潜る。

彩葉陽文

設定集

歴史

●光の時代 -3000年???


 様々な神々がいた時代。

 主に二つのグループに分かれていたという。

 神母ヒユを中心としたアテマリス神群。

 神王ロイズを中心としたティオリア神群。

 二つのグループは互いに争うこともあったが概ね共同して遍く大地を支配し、人間たちを守護した。

 二つの神群の統治は、ヒユの末娘エアと、ロイズの息子リオズの婚約により頂点に達そうとしていた。

 だが、地下の悪鬼たちと組んだ魔女たちが、リオズを殺害し、それにより生まれた誤解から神群はかつて無い戦争を行うようになる。

 魔女たちの企みはウルンという名の一人の魔法使いにより看破されたのだが、互いの神群に生まれた憎しみの種を消すことはできなかった。

 このままではこれまでのように世界を統治することはできない。

 そう考えた神々は、地上を去り、銀盤の彼方の世界へと旅立つことに決めた。

 神々により世界を託されたウルンは、自らが頂点に立つことはせずに、一人の少年にその地位を託した。


●騎士の時代 -2500年?


 騎士王アルトリオと光輝の騎士団による統治の時代。

 それより始まる、騎士の戦いの時代である。

 いくつもの国が乱立したという。

 神々により地上を託されたウルンが見出した少年アルトリオ。

 世界を託されたはずなのに、なぜか物語はアルトリオがウルンに見出され、やがて騎士団に入り、数々の戦功を打ち立て、国の王女と結婚し、王となり、国を大きく広げていくという話になっている。

 王となるまでの前半は神話の時代と重なっているとも言われているが、原初の物語に神々の存在はない。

 魔法使いや妖精たちは頻出するが、それも後半になるにつれて減っていく。

 大陸一の強国を作り出し、安定した統治を続けるのだが、最後にアルトリオは自らの手で平和を崩し、新たに現れた少年ユギルにより打倒され、物語は終わる。


「少年よ。希望に満ちあふれた新たなる英雄よ。汝は私だ。かつての私だ。私の曇った目には、汝は眩しすぎて見えない。汝の光もいつしか曇ることがあるやもしれぬ。それが人間……それが迷い多き、神ならぬ身の人間なのだ」

「僕はお前とは違う! お前のようにはならない!」


 だが、アルトリオの予言のような言葉通り、ユギルも晩年は迷い、新たなる英雄に討たれることとなるのだ。

 しかもアルトリオと違い、その時のユギルは醜く抵抗を繰り返したために、大地は荒廃し、世の中は乱れることとなる。

 騎士たちによる戦乱の時代は、この時にこそ始まったとも言える。


●真人王朝(黄金の時代)-1700年


 騎士たちによる戦乱の時代を終わらせたのは、北より現れた魔法使いの集団だった。

 彼らは自らを神々より真に地上を任された『真人』であると称し、世界を統治した。

 その魔法技術はすばらしく、様々に作られた魔宝具により人は自由に空を飛び、遠く離れた場所と一瞬にして通信し、ついには星の海にまで到達したという。

 何より一番大きいのは、騎士たちの時代には存在した悪鬼や魔物を完全に地上から駆逐したことだろう。

 その恩恵は魔法使いでない者たちにも当然ながらやってきたのだが、魔法使い(真人)たちが特権階級であることには違いなかった。

 その終わりがどういった経緯で起きたのかは諸説有り、よくわかっていない。

 魔法の源であるマナが枯渇し、魔法を思うように行使できなくなった真人たちの一部は【銀盤の扉】を潜り、マナに満ち溢れる新天地へと旅立っていったとされている。

 気づけば真人たちは少しずつ姿を消し、人々には魔法技術の遺物だけが残された。


●架空王朝(銀の時代)-900年


 豊かな真人王朝を経て、地表に人々は溢れた。

 人口問題が出てきたため、人々の王や土地の支配者たちは、自らの都市を空に浮かせて土地を増やそうと試みた。

 宙に浮いた土地の跡をさらに開拓し、土地問題は解決したかに思われた。

 各国の王たちは競って都市を空へと浮かせた。


●墜落の時代(鋼の時代) -700年


 やがて都市同士の戦争が起こり、架空機関の根幹を失い、墜落する都市も出てきた。

 そこで人々は気づく。真人――魔法使いたちの技術の遺産を使って浮かせていた都市。

 真人たちがいない今、何かがあって故障した時、誰もそれを直すことができないのだと。

 真人たちの捜索が行われ、わずかに残った魔法使いたちは狩られるように集められた。

 だが、長い年月が経ち、経年劣化した魔法機関は少しずつ故障を繰り返した。

 都市は一つ、また一つと落ちていった。

 かつてあった場所はすでに開拓され、戻ることはできなかった。

 海に沈む都市もあり、かつてあった場所へ強引に降り立ち、同胞と争う都市もあった。

 いくつかの都市は運良く海岸線に根付き、新たなる生活を始める所もあった。

 魔法機関は徐々に失われ、人々は真に、真人時代の終焉を知った。


●緑目王朝(鋼の時代)-630年


 その後の時代を征したのは、魔法技術に頼らない独自の技術を開発していた極東の島国だった。

 元より真人たちの支配の薄かったその島では【絡繰り】と呼ばれる独自の技術を発達させていた。遙かなる真人の時代から磨き上げていたその技術はこの時代に至ってついには自ら思考して動く自動人形をも産み出すまでに進化していた。

 衰退期にあった大陸を瞬く間に制圧し、天子(緑目王朝における「王」の呼び名)がすべての頂点に立った。

 だが、元より極東の島国だった緑目王朝に大陸の風土は合わなかったのだろう。

 緑目王朝の技術を吸収した大陸の人々により徐々に土地を奪われ、東へと戻って行った。

 緑目王朝自体も特に支配にこだわらなかったようで、波が引くように、わずか三代、五十年でその時代は終わる。

 しかし、世の中の技術の根幹を変えてしまったその王朝が後世に与えた影響は大きく、計り知れない。

 墜落の時代後、衰退するだけだった世界に新たなる風を導いた功績も、大きく評価されている。

 後々の時代にも、この王朝は大陸の人々に対して涼やかな風のように好意的に捉えられている。


●封土王朝(回帰の時代)-580年


 そんな様子を快く思わなかったのが、封土王朝の王ディルダーグであった。

 彼は緑目王朝の後退に乗じて支配地を広げたのだが、その手応えの無さを憎んでいた。

 彼は戦争をしたかったのだ。

 鬱憤を晴らすように彼は周囲の国々に戦を仕掛け、その土地を奪っていった。

 緑目王朝と碌に戦いもせずに土地を得ることに成功した各国は、その急襲に耐えられなかった。

 瞬く間にリドフィリア大陸を支配してしまった。

 そうしてすべてを支配したディルダーグは、悪名高い暴挙に出る。

 緑目王朝を憎んだ彼は、緑目王朝の技術をすべて憎んだ。かつての栄光の象徴である真人時代の技術も憎んだ。

 ディルダーグはすべてを収拾させ、巨大なゴミ捨て場に封じて、土に埋めてしまったのだ。

「神話も伝説も伝統も、すべて土に返れ!」

 彼の憎しみは徹底された。

 逆らう者は物と一緒に土に埋めて封じられた。

 かつて無い暗黒の時代が訪れたかのように思われた。

 その封土の作業はディルダーグの死後も続けられた。

 そして、八十年。

 天変地異により、唐突に封土王朝は滅びる。


●天変地異(再生の時代)-500年


 山が火を噴き大地は振動し海は荒れ空は乱れた。

 何の偶然が重なったのかわからない。

 あまりにも愚かな封土王朝を見て、神々が嘆いたのだ。

 そうとも言われた。

 緑目王朝の再興を願う声も大きかったが、緑目王朝もまた、小さな島国ということもあってか、天変地異の余波を受け、大陸に出てくる余裕などなかった。

 人口も激減し、滅びる国や都市も多かった。

 天変地異を経て、人口はかつての百分の一に減ったとも言われた。

 すべてを失ったと言っても過言ではない。

 打開に、封土王朝が封じた技術を求めた者たちも当然いた。

 だが、その場所は――世界に五カ所あると言われているものの――失われてしまった。

 英雄も現れなかった。


「一から始めよう」


 誰が言った言葉なのかはわからない。誰でも言いそうな言葉でもあった。

 平凡な、ごく普通の人々の時代が、ゆっくりと始まった。


 ――そうして五百年の時が流れる。


●塔の時代 0年


 やがて塔の時代と呼ばれる――時代の始まりを築いた、一人の少年が、世界の中心、神々の神意が遺る地――迷宮都市ミドルアにて生まれる。

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