第四十二話 斥候

西国さいごくナギアが魔物まものたちの……ガイロクテイン侯爵こうしゃくの手にち、ナギア王は殺されたとのことよ。ついにシナジノア島でジュギフに対抗たいこうする勢力せいりょくは、我が国だけになったわ……」

 アズニア城の一室で、ミラナは幸村ゆきむらにそのことがげた。幸村はう。

「ジュギフの軍勢ぐんぜいは、地理的ちりてきにアズニアを攻めることは難しい。南のウェダリアに来るでしょう。短いアズニア訪問ほうもんでしたが、ここはダンジオどのにまかせ、ウェダリアへもどり決戦けっせんに備えねばなりますまい」

「そうですね。急ぎ出立しゅったつしましょう」

 一通いっつうりの出立準備を昼にはえると、兵とともに新街道しんかいどう南下なんか人質ひとじちのナウロラと、その世話役せわやくとして才蔵さいぞう同行どうこうする。

 ウェダリアへ到着とうちゃくしたのは、翌日よくじつとなった。


「さて、佐助さすけよ。どのような情報じょうほうが集まっている?」

 ウェダリア城に着くと、幸村は佐助の元を尋ねた。

 佐助は机に向かい、その筋肉質きんにくしつな腕で集まった情報の書かれた手紙てがみをめくっている。髭面ひげづら眉間みけんにシワを寄せて言う。

「あまり好ましいはなしはありませんな。まずはナギアを併合へいごうしたジュギフぐんの総兵力は六万ほどと考えられます」

「そうか……おおいな」

「アズニアを併合し、我らの兵力へいりょくも増えていますが……とはいえ三万ほど」

「ふむ……ガイロクテイン侯爵の本軍ほんぐんは、今何処にいるの?」

現在げんざいはナギア制圧せいあつ一部いちぶの兵を残しウェダリアの南、カヌマへ移動中とのことです」

「ならば、ここに来るな」

「でしょうな」

 佐助は、うなずく。

 

(しかし、ガイロクテイン侯爵とは、どのような人物じんぶつなのであろうか?)

 幸村は疑問ぎもんおもっている。戦うことになるならば、もっと情報が欲しい。

 ガイロクテイン侯爵については、断片的だんぺんてきに次のような情報が得られている。


・十年前に魔神島まじんとうに急に現れた。そして魔神島の魔物をまとめあげ、ジュギフという国を作った。

・それ以前は、シナジノア島を放浪ほうろうする流れ者だった?

部下ぶかには非常ひじょうに厳しい。

・優れた手腕しゅわんと、いくさの腕をっている。


 だが、今ひとつ情報が少ない。

に行ってみるか………)

 自分じぶんの目で、その人物を見たい。すでに南の隣国りんごくカヌマに向かって移動いどうしているならば、できるのではないだろうか。


「佐助、見に行ってみようと思うが、どう思う?」

「ん、何をです?」

「いや、だからもうすぐカヌマに来る御仁ごじんのことよ」

「え……ガイロクテイン侯爵ですか!?」

「そう」

「うーむ、なるほど……カヌマとウェダリアの間の行き来は、ジュギフによって関所せきしょが設けられています。ここで通行税つうこうぜいおさめれば入国にゅうこくできるようですが………」

「そうか。ならば行けるかな?」

御館おやかたさまだと、気づかれなければ入れるとは思いますが……気づかれれば、ただでは済みますまい」

「ふむ、そうか……」

 幸村は考える。まずは、佐助のはな間者かんじゃたちに情報を集めさせるという手もある。だが、これはどのみちやる事だ。やはり自分の目で相手あいてを見ておいたほうがよいだろう。捕まるかもしれないが、相手をく知らずに戦うほうが危険きけんだろう。

「決めたぞ、佐助。行くよ」

 佐助は、長い溜息をつく。

「はぁ……行かれますか」

「佐助はここに残って諜報ちょうほうと、いくさ支度したくつづけてくれ。目立ちたくない。才蔵だけ連れて行こう。ただ才蔵を連れて行くとナウロラさまが困るだろう。世話せわしてやってくれ」

承知しょうち

 幸村は才蔵をび出すとミラナのもとへ向かった。


「え!ガイロクテイン侯爵を見に行くの!?」

 ミラナは目を通していた書類しょるいから顔をあげると、おどろきのこえを上げた。メガネを掛けている。

「ミラナどの、声が大きいです!ご内密ないみつに」

 幸村は言った。才蔵をつれ、出発しゅっぱつする前にミラナの執務室しつむしつ挨拶あいさつに訪れたのだ。

「そう……それなら、私も行こうかしら?」

 幸村と才蔵は、驚き顔を見合わせた。幸村が言う。

「え!ミラナどのも行かれるということですか!?」

「そうよ。どうせ幸村がこれで捕まったら勝てないもの。負けたらきっと殺されるわ。つまり私はここに居ても安全あんぜんじゃないの。あなたがかえってくるかどうかに懸かってる。それなら一緒いっしょに行って見たほうかいいじゃない。ガイロクテイン侯爵を」

 ミラナは、きっぱりと言った。

女王じょうおう仕事しごとは、大丈夫だいじょうぶですか?」

「大丈夫よ。二三日なら留守るすにしても。さて、これで終わり」

 ミラナは手早てばやく、手元の書類に白い羽根はねペンでサインした。眼鏡めがねを外し机に置くと、椅子いすから立ち上がり言った。

「私も行くわ!ご内密にね!」

 ミラナは、幸村と才蔵に笑って言った。


その日の深夜しんや───


 幸村、ミラナ、才蔵は闇夜やみよにまぎれ、うまで南へと向かった───

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る