第二十九話 アズニア王

 アズニア城は街の北寄り、海近くの小高い丘の上に築かれていた。荘厳そうごん石造いしづくりの城である。

 幸村ゆきむら佐助さすけは、その巨大きょだいな門の前に立つ。佐助が門番もんばんはなししかける。

我々われわれはウェダリア国の使者ししゃ真田幸村さなだゆきむらさまとその家臣かしん猿飛佐助さるとびさすけもうすもの。国王こくおうにおり付き願いたい」

「聞いておる。そこで待たれよ」

 門番は城内じょうないの者たちに伝言でんごんする。そこでしばらく待たされた。


「ずいぶんと待たせますな」

 佐助は北側きたがわにひろがる海を眺めてった。おだやかな港には多数たすうの船が行き交っている。公益こうえきが盛んに行われているのであろう。アズニアが多数の兵力へいりょくを有するのは、この利益りえきのおかげであろう。

「うん。なんでだろうな?」 

歓迎かんげいされてないんじゃないですか?」

「フフフ……オレもそうおもうよ」

 幸村も潮の香りを嗅ぎながら言った。


 半刻は待たされたか。門番は言う。

「もうじき、迎えの者が来る。今少し待たれよ」

 幸村か、うなずくと城の門が重い音をたてて開いた。そこには端正たんせいな顔立ちの、背の高い男が立っていた。黒い仕立てのふくを着ている。門番はその男に言う。

「これはこれは、キリー・ガクレルさま。ウェダリア国の使者、真田幸村さまと申す方々が国王にお目通り願いたいとのことです」

 男は門番の言葉ことばを聞くと、幸村たちに言う。

「よく参られた。アズニア国王ダンジオ様のところへ、ご案内あんないしよう。こちらへ」

 男は、幸村たちを城の中へと招き入れた。

 幸村と佐助は、呆気あっけにとられた。佐助が小声こごえで話しかける。

「おい、才蔵さいぞう!これはどういうことじゃ!?何故なにゆえおまえがここに居る!?」

「だから言ったでしょう。いろいろと身辺整理しんぺんせいりがあるって」

 そこに優雅ゆうがな赤いドレスをまとい、同じく明るい赤い髪を巻髪の、若い女が通りかかる。

「あら、キリー。ごきげんよう」

 女は才蔵に微笑みかけた。その身につけている高価こうかそうな装飾品そうしょくひんから、身分みぶんの高い者だとわかる。幸村たちにも、会釈えしゃくすると通り過ぎていく。

「才蔵、今のは昨日きのうあの店にいっしょにいた方だな?」

 幸村が聞いた。

「はい、ダンジオ公の妹君いもうとぎみです」

 佐助がおどろきのこえを上げた。

「え!?おまえが転がりこんた女の家って、ここか!?アズニア王家おうけ!?アズニア城!?」

「しっ!佐助さん、声がでかい!なんだか、たまたまそういう事になっちゃったんですよ。うまく行き過ぎましたね……」

「うむ……我が家中かちゅうのものたちは、本当ほんとう器用きようなもんだな。ここに転がりこめば良い暮らしできるな。この発想はっそうかった……」

 幸村が、またしきりに感心かんしんしている。


 長い廊下ろうかをぬけ、王の広間ひろまへと通された。豪華ごうかな赤い絨毯じゅうたんのひかれた広間中央ひろまちゅうおうに、金細工のかがや玉座ぎょくざが置かれている。

 そこに引き締まった筋肉質きんにくしつ身体しんたいつきの歳の頃三十ほどと思われる男が、横柄おうへいに座っていた。身に着けている白いシャツは胸まではだけ、その肌は浅黒あさぐろく、顔は短い無精ぶしょうヒゲを生やし、目は鋭い眼光がんこうはなっている。


 才蔵が玉座の前に進みでる。

「ダンジオ様、ウェダリアの使者、真田幸村殿さなだゆきむらどのです」

「ふむ、そうか」

 ダンジオは言った。玉座に立て掛けてあった大剣たいけんを、何気なく引き寄せた。

「で、用は?」

 ダンジオは退屈たいくつそうに幸村に聞いた。

「我らが主人しゅじん、ミラナ女王陛下じょうおうへいかよりの文を預かっております」

 赤い封蝋ふうろうがされた手紙てがみを、幸村は取り出した。才蔵が、それを受け取るとダンジオに渡した。

 ウェダリア王家の鷲の紋章もんしょうがおされた封蝋を手早てばやくはずすと、ダンジオは手紙を開き、目を通しだした。

「うん……思った通りの内容ないようだな。退屈な話だ。なぜ援軍えんぐんを送ってくれなかったのですか?だとよ……フフ」

 ダンジオは、薄く笑って言う。

「なんでだろうなぁ?なんで援軍を出さなかったのかなぁ?なんでだと思うよ、真田幸村殿?」

「……」

 幸村は黙った。歓迎されないだろうと思ってはいたが、予想外よそうがい対応たいおうだ。出かたを探るように言う。

「さて……兵の支度したくがととのわなかったということですかな?」

「いや?ハズレだな。アズニアの兵はつね準備万端じゅんびばんたんだ。その証拠しょうこせてやろう」

 ダンジオはニヤリと笑うと声を張る。

「おい、衛兵えいへい!!」

 よろい長剣ちょうけん、盾で武装ぶそうした騎士きしたちが、王の広間へ駆け込んで来た。百人ひゃくにんはいるだろうか。。幸村たちの背後はいご、広間の入り口も騎士たちが固めている。

「囲まれましたな……」

  佐助が、小声で幸村に言った。

「な、どうだ?兵はいつでも動かせる。アズニアを舐めてもらっては困るな」

 ダンジオは言った。

「ふむ、結構けっこうな事ですな」

 幸村は、周囲しゅういの騎士たちを見回して言った。

「武装も手入れが行き届いている。練度れんど士気しきも高そうだ」

 幸村、ち着いた声で言った。

 ダンジオは言う。

「フフ……冷静れいせいだな。もう一度聞こうか?何故アズニアは、ウェダリアに援軍を出さなかったのであろうか。どう思われる、幸村殿ゆきむらどの?」


 幸村は息を深く吸うと、言う。

「わかりました。それは───

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