CoffeeBreak 08 - c.wonder(Pair(hacker, boss));

 ピカピカ。キラキラ。


 いろんな色の光が雨みたいに降ってきます。まるで夜空の星がお祝いしてるみたいで、シィはすっごく楽しくなってきました。ジャンプしてキラキラを手でつかもうとしても、つかめません。


「あはは、シィちゃん。残念だけど、この光は触れないんだよ」

「うー、キレイなのになぁ」


 降ってきた光は少しずつ色を変えながら、ふわふわとシィ達の周りを回るように浮かんでいます。他の人達もビックリして口を大きく開けています。やっぱり、おにーちゃんのマギはスゴイなぁ。


「え、えー、ゴホン、それではこれより、新郎と新婦による誓いの言葉を――」


 前に立っている神父さんが咳をしてから、結婚式の続きを始めました。新郎と新婦っていうのは、結婚する二人の事なんだって。神父さんの前に立ってるのは、教皇って呼ばれてる男の子のフォマ君と、とっても優しいおばーちゃんのエイダさんです。

 おにーちゃんが言ってたんだけど、このフォマ君とエイダさんが結婚するんだって。シィは結婚の事はよく知らないけど、シィみたいな子どもでも結婚できるんだーって思ったよ。でも、おにーちゃんによれば、フォマ君は実はおじーちゃんなんだって。小人族って不思議だね。

 白いスーツを着ているフォマ君は、まるで本当にお人形さんみたいです。でも、もっと驚いたのは、エイダさんが白いドレスを着ていてとってもキレイなんです。普段は教会の黒いローブばっかりだけど、白いドレスを来たエイダさんはピカピカと輝いて見えました。


いにしえの盟約に従い、神に誓いを捧げます」


 フォマ君がエイダさんと手をつないで、空に向かって話し始めました。神様とお話してるんだ。シィもお空に向かって話したら、おとーさんに届くかな?


「我、フォマ=ビティフィアは、このエイダ=ラブレシアを妻とし、幸も不幸も、富も貧しきも、共に分けあい、共に支えあい、共に生き、死がふたりを分かつまで愛し続ける事を誓います」

「私、エイダ=ラブレシアは、このフォマ=ビティフィアを夫とし、楽も辛苦も、良きも悪きも、共に分けあい、共に支えあい、共に生き、死がふたりを分かつまで愛し続ける事を誓います」


 二人がお空に向かって大きな声で言いました。

 愛し続ける事を誓います、って、どうして神様にわざわざ誓う必要があるんだろう? だって、仲良しの二人ならずっと仲良しに決まってます。シィには難しくてよくわかりませんでした。でも、手をつないだ二人はとっても幸せそうな顔で笑い合っています。

 シィは思わず、手を叩いて拍手してしまいました。だって、本当に良かったなぁ、って思ったんです。怒られちゃうかと思ったけど、他の人達も少しずつパチパチと拍手し始めました。最後にはまるでザアザアと雨が降ってくるみたいな拍手の音で、教会の中が一杯になりました。

 二人はシィ達の方に振り返ると、ペコリとお辞儀します。それでますます拍手が大きく鳴り響きました。


 いつまでも鳴り止まない拍手の中、ふと気がつくと辺りをフワフワと漂っていた光が動き始めました。また、おにーちゃんのマギに違いないです。動き始めた光は、少しずつ教会の天井に向かっていきます。ちょうど、新郎新婦の二人が神様に向かって話しかけていた辺りです。

 色々な光が一か所に集まっていくと、まるで教会ではなくて光のトンネルの中にいるみたいです。とってもキレイな光景に、拍手をしていた皆も拍手をやめて見とれています。


「あ、あれ?」

「キレイだね、おにーちゃん!」

「う、うん……。あれ、おかしいな……あんな動きはプログラムしてないんだけど……」


 おにーちゃんが何かブツブツとつぶやいてますが、シィはたくさんの光が集まっていく様子に夢中で、よくわかりませんでした。だって、すっごくキレイなんです!

 天井に向かっていく光は、少しずつ一か所に集まっていきます。いろんな色の光が重なりあって、白色の大きな光を作っていきます。みんなもシィも、口を開けて天井を見上げてしまいます。


 一か所に集まった大きな光は、何だか少しずつ形を変えていきます。


 あれは……誰かの顔?

 それはキレイな女の人の顔のようにみえました。どこかで見たような気がするけど、シィには思い出せません。でも、とっても優しそうな女の人で、見ているだけで心が暖かくなってホッとします。

 優しそうな女の人の顔はニコリと微笑んだように見えました。そして、次の瞬間にはパッと明るく輝いて、フワリと溶けるようにして消えていきました。

 光が消えてしまってからも、しばらく誰も口を開きませんでした。静かな教会の中に、シィたちはぼんやりと立っています。まるで皆でお昼寝をして夢を見ていたようでした。


「ねぇ、おにーちゃん。あの女の人はだぁれ?」

「さ、さぁ……誰だろう……」


 おにーちゃんも知らないみたいです。あれ? おにーちゃんのマギじゃないのかな?


 それから結婚式の続きが始まりましたが、シィはずっと女の人の顔が頭から離れませんでした。おかげで、新郎新婦の二人がチューするところを見逃してしまったのです。後から聞いた話だと、フォマ君の背が小さくて届かないので、フォマ君がエイダさんの手の甲にチューしたらしいです。


 あーあ。あの人は、誰だったのかな?


//----


 新郎のフォマ君と新婦のエイダさんは、最後までとっても幸せそうでした。

 どちらかと言えば、エイダさんの方が顔を赤くして嬉しそうです。でも、フォマ君だって、そんなエイダさんの様子を見てニコニコと笑っていました。


 やっぱり結婚って良いことなんだって思いました。どうして結婚するのか、最初はよくわからなかったけど、好きな人と『いつまでも一緒にいようね』って言い合うのはきっと嬉しくなるに決まってます。

 おにーちゃんとボスに『二人は結婚しないの』って訊いたら、ふたりとも顔を真っ赤にして黙りこんでしまったけど、どうして結婚しないのかな? ふたりともお互いが大好きなはずなのに、不思議です。結局、その時はジャイルおじさんが来ちゃったから聞けずじまいでした。むー。


 おにーちゃんもボスも答えてくれなさそうなので、キャロルちゃんと一緒に遊んでる時に聞いてみる事にしました。キャロルちゃんは『社員食堂』って呼ばれてるお店の女の子です。お料理がとっても上手で、シィが知らない事でも良く知ってるスゴイ子なんだよ。


「ねぇねぇ、キャロルちゃん」

「なぁに? シィちゃん」


 お料理の練習をしている時は、ちゃんと手元を見ないと危ないです。前に比べたら、お野菜を切るのも上手にできるようになったけど、キャロルちゃんやキャロルちゃんのおとーさんに比べれば、まだまだ下手っぴなんです。

 トントンとお野菜を切り終わってから、キャロルちゃんに聞いてみました。


「あのね、キャロルちゃんは結婚って知ってる?」

「けっこん? ああ、結婚ね。もっちろん知ってるよ! まさかシィちゃんが結婚とか言い出すなんて思わなかったよ。なになに? シィちゃんは誰かと結婚したいの?」


 なんだかキャロルちゃんがいきいきとしています。キャロルちゃんは誰かが誰かを好きとか、そういう噂話が大好きみたいなんだ。


「え? シィは別に――」

「あ、わかった! ランド君かな? 子ども塾で友達になったって言ってたけど、もしかして好きになっちゃった? ヒュー、シィちゃんも女の子だもんね!」


 ランド君は、シィが通っている子ども塾で同じクラスになった男の子です。最初はシィに文句ばっかり言ってきたけど、おにーちゃんの言う通りにしたら仲良くなれたんです。えへへ、はじめての男の子のお友達なんだよ。


「ランド君と仲良くできて嬉しいよ? シィ、ランド君と結婚した方がいいのかな?」

「えーと、シィちゃんはランド君の事を考えると、胸がポカポカしたり、ドキドキしたりしない?」

「うーん? 別にしないよ?」

「うーん、そっか。やっぱりシィちゃんにはまだ早かったよね」


 キャロルちゃんは腕を組んで、何かわかったように頷いています。キャロルちゃんだってまだ子どもなのに、時々こういう風に大人みたいな事を言うんです。変なのー。


「あのね、おにーちゃんとボスって結婚しないのかなーって思ったんだ」

「あー! あの二人ね! そうそう、さっさと結婚しちゃえばいいのにねー!」

「え? キャロルちゃんもそう思う?」

「うんうん! どう見ても相思相愛……お互い大好きって感じだもんね! すっごくじれったいよ!」


 キャロルちゃんは、そう言いつつもすっごく楽しそうです。


「どうして結婚しないのかな? 二人に聞いてみたけど、教えてくれないんだー」

「え、シィちゃん……まさか二人ともいるところで、それを聞いたわけじゃないよね?」


 キャロルちゃんの大きなキツネ耳がピクリと動きました。


「え? 二人ともいるオフィスで聞いたよ?」


 そう答えたら、キャロルちゃんは顔に手を当てて天井を向きました。どうしたのかな? なんだか、シィはよくない事を聞いちゃったみたいです。


「あのねシィちゃん。結婚っていうのは、人にいわれてするようなものじゃないんだよ? まずはお互いに『好きです』って伝え合って恋人になってから、自然に『結婚しましょう』ってなるものなんだ」

「こいびと?」

「うん。確かに、ルビィさんとバンペイさんはお互いの事を好きだと思うけど、あの様子だと、きっとまだ相手に『好きです』って伝えてすらないと思うな。結婚して夫婦になる前に、まずは恋人にならないとね!」


 キャロルちゃんによれば、結婚する前にまず『恋人』にならなくちゃダメなんだって。でも、おにーちゃんとボスはとっても仲良しだし、別にわざわざ言わなくても『好き』っていうのは伝わるんじゃないのかな?

 シィがそれを話したら、キャロルちゃんは指を立ててチッチッと振りました。


「ふふふ、シィちゃん。それじゃダメなんだよ。ちゃんと『好きです』って言葉で言わないと、恋人にはなれないんだ。それで、お互いの思いを確かめあって、最後は結婚……あー、私も結婚したいなぁ」


 キャロルちゃんは話している内に、夢の世界へ飛んでいってしまいました。


「そっかぁ……。じゃあ、シィが『結婚しないの?』って聞いちゃったら、順番がおかしくなっちゃうんだね。まだ恋人にもなってないのに、結婚できないんだもんね」

「あはは……。まあ、バンペイさんってヘタ……奥手っぽいし、シィちゃんが背中を押してあげるぐらいがちょうどいいかもしれないけど……」


 うーん、おにーちゃんはボスにちゃんと『好き』って言えるのかな? 好きって言うぐらい、そんなに難しくないと思うんだけどなぁ。


 そういえば、キャロルちゃんに聞きたい事がもう一つあるんでした。キャロルちゃんなら、きっと本当のことを知ってるはずです。


「あ、そうだ。ねぇねぇ、キャロルちゃん」

「なぁに?」

「赤ちゃんってマギで作るって知ってた?」

「ブッ!」


 シィが赤ちゃんの作り方を聞いたら、キャロルちゃんはなぜか吹き出してしまいました。そのあと、顔を赤くしてアタフタしています。大丈夫かな?

 その後キャロルちゃんは「う、う、うん! そ、そうだよね! 赤ちゃんはマギで作るんだよね!」と言ってブンブンと頷いてました。やっぱり、ボスの言う通りだったみたいです。


 料理ができあがるまで、キャロルちゃんは顔を真っ赤にしたままだったけど、なんでだろう?


//----


 その日の夜、シィは作った料理をおにーちゃん達と『社員食堂』で食べました。


 キャロルちゃんは、おにーちゃんとボスの顔を見てシィとの会話を思い出したのか、「きゃー」と言いながらお盆で顔を隠しました。それを見ておにーちゃんもボスも、不思議そうにしています。


 ボスがに席を立ったすきに、おにーちゃんにコッソリと話しかけます。キャロルちゃんの話によれば、二人が一緒にいる時に聞くのは良くないと思ったからです。


「ねぇねぇ、おにーちゃん」

「ん? なんだい、シィちゃん」


 シィが小声で話しかけると、おにーちゃんは顔を近づけてくれました。シィは、おにーちゃんの耳元に手を当てて、ナイショ話で話すことにしました。


「あのね、おにーちゃんは、ボスと恋人なの?」

「ブッ!」


 なぜだか、おにーちゃんも食べていた料理を吹き出しそうになっていました。ギリギリで口に手を当てていましたが、とってもお行儀が悪いです。

 おにーちゃんは、なんとか口をキレイにすると、シィに向かって笑顔を向けてきます。


「シ、シィちゃん? 僕とボスは恋人じゃないよ?」

「うーん、キャロルちゃんの言う通りかぁ」

「キャロルちゃん……」


 なぜか、おにーちゃんはキャロルちゃんのいる厨房を恨めしそうに見ています。


「でも、おにーちゃんはボスの事が好きでしょ?」

「う……うん……そうだね、好き、だよ」

「じゃあ、どうしてボスに『好き』って言って、恋人にならないの?」

「……うん、僕もそうしたいんだけどね……。男が女の人に『好き』って言うのは、とっても勇気がいる事なんだよ。僕にもう少し勇気があればいいんだけど……」


 おにーちゃんは、すっごく優しいしカッコいいのに、時々こうやって暗くなっちゃうのは良くないと思います。でも、シィと初めて会った時だって、おにーちゃんは一人で『バグ』に立ち向かっていたし、勇気がないなんて嘘だと思いました。

 そこで、一つ良い事を思いついたのです。


「あ、そうだ! あのね、あのね、勇気が足りないなら、勇気を出すマギを作ればいいよ!」


 それを聞いたおにーちゃんは、キョトンとした顔をしていましたが、ふっと笑ってシィの頭をなでてくれました。なんだか、おとーさんを思い出します。


「あはは。そうだね。勇気を出すマギ……作れるといいね」


 おにーちゃんなら、きっと作れるよ。

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