05.社長への裏口入学Ⅲ
「来たわね」
「お、おう」
上原は俺のカバンをガシっと奪い、付いてこいと言わんばかりにアゴで合図する。
いや、カバンを持ってくれて案内してくれたというか。
こいつ、結構ガサツというか男勝りだね。
「保険証!」
「へ?」
「保険証出してってゆってるの!」
俺嫌われてますか……?
言われるがままに出した瞬間、上原は奪うように俺の手から取る。
保険適応がどうのの説明から、問診表書けとか。
とにかく俺は、従順な奴隷と化した。
「じゃ、呼ぶまで待機!」
「イエスマム!」
敬礼のポーズをとる俺を見て、心なしか口元がニヤける上原はS女か。
椅子に腰かけ、あたりを見回す。
入り口から目の前に受付カウンター、左手に靴箱、右が俺のいる待合スペース。
全体的に白と薄いオレンジの清潔感ある雰囲気。
椅子は七つ。
俺以外には主婦っぽいおばちゃんと小学生ぐらいの女の子が座っている。
漫画、雑誌、テレビ。
少年誌を手に取り、時間をつぶことにした。
上原を横目でチラチラ見ながらね。
二十分ほどして俺は上原に呼ばれた。
どうやら順番が来たらしい。
奥に案内され、診察スペースっぽいところに座る。
壁際には机、パソコンと人体模型、保健室にあったような茶色の台。
レントゲンの写真を貼り付けるような白い窓みたいなのもある。
前には先生が座る用の椅子か。
他にも謎の機械が置いてあるが、触っちゃいけないよな。
「さあ、お待たせ。百瀬くんですね?」
センセー来た。
心臓の音が少し高鳴る。
「は、はい」
向かいに座った先生は、想像より遥か若く、知的メガネの爽やか好青年タイプ。
「こんにちは、院長の
爽やかな笑顔で挨拶される。
「ど、どもです」
半そでタイプの白衣に薄茶色のチノパン。
長い白衣よりも動きやすさ重視なところが今の時代、出来る先生って感じだよな。
「だいたい上原さんから聞いてますが、改めて聞かせてもらっていいですか?」
俺は無言で頷く。
「痛いのは右足ですね?」
「ういっす」
「見せてくれますか?」
俺は青紫に腫れている足首を出した。
「おお、これは痛かったですねー」
うん、そうなの。
「怪我したのは何時ごろ?」
「一時間ぐらい前です」
「どうなって?」
「階段を踏み外して」
「どうゆう方向に捻りました?」
こんな感じで、とんとんと問診が続き、足首の模型で解りやすく症状を教えてくれた。
「まあ、骨は折れてないけれど、靭帯が部分断裂してますねえ」
「断裂!?」
「全部じゃないですが。こことここを繋ぎとめてる靭帯がこう――」
どうやらショパール関節捻挫というものらしく、あとあと痛みが残ることが多いから一ヶ月は通いなさいと。
固定後、自宅での対処法を教えてもらって今日は終わりだった。
上原がやってくれた応急処置も、判断が良かったようで先生に褒められていた。
嬉しそうな上原。
笑ってたらさらに可愛いな。
彼女には色々聞きたいこともあったが、忙しく走り回っていたので、さっと会計を済まし、また今度にすることにした。
明日も通院しないといけないそうだし。
学校でもまた話せたらいいなぁ。
「しっかしなんか大げさな感じになった」
固定はギプスを半分に切ったようながっちりしたもので、足首は全体を包帯でぐるぐる巻かれた。
だが、固定してもらった足は地面に付けてもそんなに痛くなくなっていたのだ。
明日はアイツとの約束も中止だな。
スネるかな。
まあ仕方ない。
身から出たサビだ。
帰って大人しくしておこう。
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