29.第一回、百瀬ゆうまを社長にしようの会

「やあ諸君。君たちは選ばれし者だ! 俺の手となり足となり、その命尽きるまで、ともに戦おうではないか!」

「……帰る」


 反動もつけずにすくっと立ち上がり、疾風の如く立ち去ろうとするエリカを俺は腕で遮り、壁ドンする。

 その振動で五月のカレンダーが揺れた。


「待ちたまえ。最後まで聞いてくださいなエリカさんや」

「なんなの!? あたしはバカに付き合ってるほど暇じゃないわ」


 今度は玉ドンしてこようとするエリカを手で遮る。

 スカートごしに柔らかい太ももの感触。


「ごめんなさい俺が悪かったですどうか聞いてくださいお願いします」



 今日は日曜日。

 悪友である箕面の家で企画会議。


「それでは改めまして、第一回、百瀬ゆうまを社長にしようの会、企画会議をはじめます」

「いえーい」


 箕面が拍手する。

 エリカは呆れた顔でやれやれといったポーズをとっていた。



 本日の会議参加者は――

 まず、もうすぐ社長の俺。

 幼なじみの箕面。

 デンジャラスハニーのエリカ。

 そしてブラコン妹のりぃ。

 へっ、どうだい!

 俺の知り合いだって、こんなにいるんだぜ!

 しょぼーん。


「で、なんの会議? 早くしてよね」


 エリカはなんだかんだで誘ったら来てくれた。

 口では悪態ついていても、基本おせっかいな良い奴だ。

 知ってる。


「コネを使って誰かに利益のあるような企画を立てたいんだよ」

「ネコたんを使うの?」

「りぃ、残念だ。そのネタは昨日院長とやったからもういい」


 余談だが、最近りぃは拾ってきた黒猫を可愛がっている。

 そんなことは今どうでもいい。


「まず何をしたいか、だよな」

「へー。ほんと、ゼロからなんだねー」


 箕面がとしながら言った。


「お前、何かしたいことないか?」

「んー、みんなでアニメが見たい!」

「いってよし」


 目をキラキラさせている箕面だが、純朴少女にはアイデア力などは無さそうだ。


「りぃは……」

「歌いたいの」

「だろうな、歌ってよし」


 最近の路上ライブには例のギャルギャル達も盛り上げてくれてるおかげで、聴きに来てくれる客が出来ている。

 りぃも楽しくてしょうがないようだ。

 愛い奴め。

 よしよしと頭を撫でてやる。


「シスコンね……」

「違う。こいつがブラコンなだけだ。エリカは何かねーのか?」


 腕を組んで背筋せすじを伸ばし、誰も寄せ付けないオーラを出している、まぁエリカさまだ。


「したいことってゆーか、あたしは美咲ちゃんの結婚披露宴のことで頭がいっぱいなのよ」

「美咲ちゃん……?」


 結婚披露宴……?

 ふむ。

 ふむむむむ!!

 そうか、したいことを考えるからダメなんじゃないか!

 院長は、誰かの利益になることを見返りは期待せずにって言ってた。

 つまり誰かのために何かできないか、それだけを考えてみればいいんじゃないか!?


「俺が馬鹿だった!!!」

「知ってるわ」


 興奮気味の俺は声を荒げるも、エリカは目を細くして引き気味でこっちを見ている。


「……オホン」

「で、なに?」


 息を整え、俺はエリカに尋ねる。


「エリカさんや、美咲ちゃんの披露宴では何か一芸をするのかね?」

「手紙を贈ろうと思っているわ。芸なんてしないわよ」


 結婚式なんて小さい頃にしか参加したことがない俺にとって、どんなことをするのかもよく知らないわけだが。


「俺たち全員で、歌でも歌いに行くとかはどうだろ?」

「それは難しいと思うわ。招待席とかももう決まってるでしょうし」

「そうか……」


 ベタで良い案だと思ったのだが。


「でも、歌を贈るのは素敵ね……」

「だが、そもそも俺らの出番がねーなら、コネとか関係なくなっちまう」

「ボクたちに何か手伝えることないのかなー。保健の先生にはよくお世話になってるから」


 青アザ女王の箕面がそう呟く。


「コネを使って何か……か。とりあえず繋がりコネをもっと書き出してみるぞ」


 そう言って俺はペンと紙を取り出す。


「えっと、まずこの四人以外だと……」


 アホの才川だろ、鶏のコケコさんだろ、後藤ひきいる吹奏楽部も一応書いとくか。

 あとは路上で知り合ったギャルギャル先輩たち、そして魔界の女ナオミ。


「こいつらを使って何か……」


 書き出した紙を見つめながら、俺たちは考える。


「うーん……」

「うむむ……」

「うむう……」

「うむむ……なの」


 だめだ!

 俺たちだけじゃらちがあかねえ!


「ちょ、りぃ。あのナオミって人に相談してくれないか」


 バンドのボーカルやってる人だっけか。

 五月の空の下、クリスマスキャロルを歌った二人の姿は忘れられない記憶。

 ああいった発想が出来る人は、なかなかいないだろう。

 アイデアがないなら、ある人を雇えばいい。

 院長もそう言ってた。


「わかったの。電話するの」

「頼むぜ」


 りぃは買ってもらったばかりのスマホで、ナオミに電話を掛けてくれる。


「もしもし、なおたん」


 繋がったようだ。


「結婚式でネコを使うにはどうすればいいの?」

「ちょいちょいちょい、りぃさんや」

「間違えたの。ネコを結婚させるには? だったの」

「代わりなさい」


 りぃのスマホを奪い取る俺。


「あ、サーセン……りぃの兄っす。はい、はい……」


 こうして俺は今の状況と、今あるコネクションで何か出来ないか、アドバイスをうた。


 これが功を奏した。


「ほほう! 姉さん、サイコーっす!!」


 彼女が斬新なアイデアを出してくれたのだ。

 なるほど、ナオミはなかなかのアイデアマンではないか。

 将来俺の会社で雇ってやってもいいぞ。



 そう、その企画とは――

 ふふふふふ。

 俺は電話を切ったあと、三人に企画内容を話す。


「それでは改めまして、第一回、もごごごご――」

「うるさい! 題名いらないから!」

「なになに? 早く教えてー!」


 隣に座っていたエリカが俺のアゴを鷲掴みした。

 だから近いっつーの……


「ナオミが提案してくれた企画はこうだ――」


 内容と計画を話すと箕面やエリカ、りぃの三人も、目を輝かせていた。

 さっそく役割を分担していこう。

 結婚式当日までにやることはいっぱいだ。

 明日から忙しくなるぞ。

 スリルとサスペンスかもん!




 そして翌日から俺は、柄にもなく走り回った――

 主に舎弟の箕面を連れて動く。

 だって目つきの悪い俺にとって、人気者と一緒にいたほうが交渉とかし易そうじゃん。

 虎の威を借る狐。

 箕面は虎というより小鳥系だが。

 猫じゃらし役、もとい、コネじゃらし役。


 この計画でまず一番重要なのは吹奏楽部だ。

 サックス部長に、出演を依頼せねばならぬ。

 顧問の後藤には……とっても嫌だが、俺から交渉したほうがいいか。

 そばにいてね、箕面ちん。


 あとダンサーのギャルギャル先輩がたに、りぃから聞いてみてもらってだな。

 才川は箕面から交渉してもらえば一瞬で落ちるだろ、ステージからも。


 こうして俺は、みんなを引き合わるところまで

 自分で言うなよってか。

 だって頑張ったんだよ、人見知りなんだから。

 誰か褒めてくれ。

 しかし時間ってのはいくらあっても足んねーようだな。

 だらだらアニメ見ながらポテチ食ってるのとは大違いだ。

 みんな練習や打ち合わせに明け暮れている。

 つっても、みんなを引き合わせた後、俺だけ実は何もすることねーんだけどな。

 これだよこれ、社長は楽でいいよ。

 俺の手となり足となり、その命大切に頑張ってくれたまえ。



 そして時は経ち――

 流れる雲のように、五月は校舎の窓を過ぎ去っていった。


 俺たちは披露宴当日を迎える。


『結婚式フラッシュモブ計画』を携えて……



 episode 『第一回、百瀬ゆうまを社長にしようの会』 end...

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