28.背中が、むずがゆい。Ⅲ

 翌日の土曜日は接骨院の日――


「どうですか、コネは作れましたか?」


 院長から宿題の進捗しんちょく状況をたずねられる。


「作れたような、作れてないような……」

「楽しみにしてますから、頑張ってくださいね。さて、今日は四つ目の裏技伝授ですよ」


 キタキタ龍玉!

 えっと、一つ目が『褒めキング』だろ。

 二つ目が『あいづち』で。

 三つめが『印象』だった。



「四つ目は……下心付きで夢を追え! てろりろん! ゆめアルバムぅ!」


 急に叫び出した院長。


「院長が壊れた。上原呼んで来なきゃ」

「いやいや、青ダヌキさんの真似ですが」


 どうしてドラ○もんの真似は誰がやってもこう似てないんだろうか。

 そのくせやりたくなるんだよな。


「で、なんすか? 夢アルバム?」

「そうです。夢を追うには下心したごころてきなにかを身近に置いとくのです」

「なんすかそれ?」

「例えば目標を達成して手に入れたいものの写真を、スマホの待ち受けにするとか。僕も欲しい車の写真をよく待ち受けにしたものです」


 なるほど。

 要するにご褒美を決めて、それを眺めて頑張れってことか。

 エリカ、写真撮らせてくれねーかな。


「欲望の下心を持って夢を追うんですよ」

「なんか院長の話はアニメじゃ放送できなさそうな内容ばっかっすね……」

「そうなんですか?」


 だって、アニメなら『八方美人だった奴が本当の自分をさらけ出して、本当の友情を見つける』とかじゃん?


「うわべの信頼を得るために八方美人になれとか下心を持てとか、聞いたことない」

「ん? 君には少し勘違いをさせてしまっているようですね。上辺のコネを作るってゆうのは八方美人になれってことではないですよ」


 そうなのか?

 てっきり俺は、褒めて好感度アップして、うまく合わせて生きていけってなもんかと思ってたのだが。 


「誰にでも合わせてたらしんどいじゃないですか。あくまで自分の考えは捨てないでください。最終的には自分の考えを納得させ易くするための同調であり、自分を認めさせるための印象であり、自分を見てもらうための褒め言葉ですよ」


 ふむむ……最初の距離を縮めるためだけの裏技ってことか?


「だからいつかは喧嘩になる場面も出てきますし、対立する日も来ます。その時に自分を信じて進めるかが大きなターニングポイントになるでしょう」

「あながちアニメも嘘じゃないってことっすか」


 自分の考えを持つ。

 簡単に言うけど一番難しそうな気がするが。

 残りの龍玉がなんとかしてくれると信じて、今は言う通りやってみよう。


「では次の宿題です。コネを使って何かしてみてください」

「ネコを使って何かをしてみます」

「それはそれで可愛いでしょうが黙れ・・ください。今はコネを使って何か企画してみてということです。こう、誰かに利益がありそうなことを。見返りは期待せずにね」


 企画って……

 生まれてこのかた、俺が中心になって何かをやるなんてこと一度も経験がない。


「てか、見返りを期待せずって、夢アルバムはいいんすか?」

「ああ、それも期待せず眺めているだけでいいんです。じきに分かります」

「はあ」


「企画っていっても難しく考えないで、別に合コンとかでもいいんですよ?」

「それこそ出来ねーっすよ……人見知りナンバーワンなのに」


 とりあえず知り合い集めてみっか。

 俺のコネクションを辿って、全員集合だ!




 episode『背中が、むずがゆい。』 end...

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