世界征服はしないけど暇だから秘密結社作ってみた
平朝臣
第1話「プロローグ」
どこにでもある授業風景。ここはこの国で二番目に高偏差値大学への進学率が高い学院であった。すぐ近くにはこの国で一番目に高偏差値大学への進学率が高い学園がある。両校はライバル関係と世間では思われているがライバル視しているのはこちらの学院のみであり今まで一度たりとも立場が逆転したことのない学園側は学院のことなど意識していなかった。
実質この国で二番目の進学校である九条学院では厳しい順位争いがある。成績上位者はたった一問、一点の差に数十人がひしめく過酷な競争の中で勉学に励んでいる。そんな中真面目に授業を聞くでもなく自習するでもなくただ窓の外を眺めている生徒が一人。
教室中の生徒達が勉学に励む中、改太だけが授業も聞かずにただただ青い空を眺め続けている。しかし教壇に立つ者は改太を注意したり不意に問題を解答させたりはしない。これまでそのようなことをしたことがある。だが改太は授業を聞いていないようでスラスラと正解を答える。授業態度が悪いことを注意しようにもきちんと聞いていることが他の生徒の前で証明されてしまうため怒る名分がない。
だからと言って改太が学年一位の成績というわけでもない。決して低くはない。理系は得意だが文系はケアレスミスのような間違いが毎回あり、この学院の成績上その数点の失点ために大きく順位が下がってしまっている。教員達にとっても非常に扱い難い生徒であった。
改太(あ~ぁ。暇だなぁ。さっさと終わらないかなぁ。)
改太は授業が終わるのを今か今かと待ち構える。この九条学院に入学し、順位は多少下がるとはいえ高い点数を取っている改太は高偏差値大学のほとんどを選びたい放題のエリート候補だ。だが改太は勉強も進学も就職も何の希望もない。普通の者が考えるような平凡な未来は改太には耐え難い退屈でしかない。
改太には今は別の楽しみがあった。その楽しみの時間を今か今かと待ち続けている。
キーンコーンカーンコーン
学院中に授業の終わりを告げる鐘が鳴り響く。教員が立ち去り今日の授業が全て終わる。
改太(やっと終わったっ!さぁ帰るぞっ!)
聖香「九条君ちょっと待ちなさい。」
改太に声をかけたのは
改太「何?俺急いでるんだけど?」
聖香「急いでるかどうかは知らないけど今日は九条君が掃除当番でしょ?帰らずきちんとしなさいよね。」
改太(あぁ~。今日掃除当番だっけ…。早く帰りたいなぁ。)
静流「九条君。一緒にがんばろ?」
改太に新たに声をかけてきたのは
改太「祁答院さんも一緒だったのか。だったらちゃんとやってから帰らないとな。」
聖香「九条君それってどういう意味か説明してくれる?私だけならサボってもいいって意味?」
改太「え~…。いや~…。そんなことはないよ?さぁ早く終わらせて早く帰ろう。」
聖香「ちょっと!逃げる気?ちゃんと説明しなさい。」
静流「二人ともほどほどにね。」
逃げる改太に追いかける聖香。遊んでいた二人のせいで掃除が終わるのが少し遅れたのは当然の結果であった。
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改太「やっと終わったぁ~。それじゃ今度こそ帰るぜ。」
聖香「遅くなったのは九条君のせいでしょ!もう終わったから帰ってもいいわよ。」
静流「お疲れ様。それじゃあまた明日ね。」
二人に別れを告げて改太はすぐに家に帰る。学院からそれほど遠くない巨大なビルの隣に改太は向かう。そのビルはこの世界の者なら誰もが知っていて当たり前の超巨大複合企業。その始まりとなった九条製薬の本社ビルである。
九条ホールディングス。ありとあらゆる事業を展開しており九条グループの製品やサービスなくして世界経済は動かないとすら言われている。某国では独占禁止法で訴訟まで起こされた巨大企業である。その原動力はあらゆる学問の天才である創業者、
九条巌。改太の祖父である。あらゆる学問の天才と謳われ数々の賞を受け世界から賞賛された偉人。だが同時にマッドサイエンティストとして学会を追われた狂気の奇人とも言われている。その原因となったのが魔法の研究。これだけ聞くと研究者にあるまじき奇行と言われてもやむを得ない。
だが本当は少し違う。九条巌が研究していたのは魔法科学という名の現代では解き明かせていないオーバーテクノロジーの研究だったのだ。ただその呼び名があまりにファンタジー要素を含んでいるような名だったために誰にも理解されることなく『魔法などという眉唾物の研究をしている』という噂だけが一人歩きして闇に葬り去られた。
学会を追われた九条巌はその技術力を活かし取得していた特許を使い起業した。その結果爆発的に成長し今では世界の中心と呼ばれる大企業に成長した。九条学院も九条巌が建てた学校法人である。しかし学院では改太が巌の孫ということは誰も知らない。
改太は幼い頃からその天才巌に学びある才能を開花させていた。確かに理系が得意なのも巌の影響ではあるが改太が開花させた才能はそんなものなど何の価値もなくなるようなとてつもないものだった。それは魔法科学への理解であった。魔法科学はその特殊性故に誰にでも扱えるものではない。巌には四人の高弟がいる。各分野において最高の知識を持った天才達。物理学、生物学、化学、そして普通の人は知らない魔法科学。この四つの分野の高弟を指して
改太は九条製薬の本社ビルの隣にある一見極普通のマンションに入る。マンションのエレベーターに乗るとコンソールを一定の順に操作する。するとコンソールが開き別のコンソールが現れる。指紋、虹彩、静脈ありとあらゆる方法で確認をとり万全のセキュリティをクリアして初めてエレベーターは動き出す。
そのエレベーターはこのマンションには本来ありえない遥か地下へと降っていく。そして一度横に動きをかえて暫く進み、更に下へと進み、最後にもう一度横へと動く。エレベーターが到着したのは九条製薬本社ビルの地下深く。上の本社に勤める社員達のほとんども知らない秘密の地下施設である。
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俺はエレベーターに乗っている間に眼鏡を外す。度は入っていない。ただのカモフラージュだ。だけど侮るなかれ。この眼鏡は俺の魔法科学によって作り出された認識阻害の効果のある眼鏡だ。これをかけているとほとんどの人は俺に対してほとんど意識しなくなる。今の学院で俺の顔を思い出せる人は誰もいないだろう。俺が九条という名だからじいちゃんと何か関係があるんじゃないかとか、どういう顔だとか、成績がどれくらいだとか、そういうことを一切気にしなくなる。もちろん存在自体が消えるわけじゃないからプリントを忘れられて貰えないとか出席を取られないとかはない。今日だって帰りに掃除していけと呼び止められた通りだ。
それじゃその不思議アイテムを作り出した魔法科学ってなんだ?っていうとこれは簡単に言うと想いの力だ。例えばだけど現代科学でも質量保存の法則だのエネルギー保存の法則だのがある。これは簡単に説明すると水を熱して水蒸気にしても水蒸気になった分を全部集めると元の水の量と一緒ってことだ。これが質量保存の法則。物の形を変えても元々あった量から減りも増えもしない。
エネルギーも実はこれと同じことが起こる。火でお湯を沸かすとしよう。もし仮に火のエネルギー全て完全に水に渡ってお湯になったとしたら、火から出たエネルギー=お湯が持っているエネルギーとなる。そしてお湯が冷めるとお湯の持っていたエネルギーがなくなったということだがこの時お湯からエネルギーは移動したためにお湯は冷めているがエネルギーは周りの空気に移っただけでなくなったわけじゃない。ということだ。つまり空中に逃げたエネルギーを全て集めると=火から出たエネルギー=お湯が持っていたエネルギーとなる。
難しいと思った人は無理に覚えなくてもいいぞ。簡単に言えば物でもエネルギーでも増えたり減ったりしない。一見減ったりなくなったりしたようにみえてもそれは形を変えたり移動しただけでまったく同じ量だけどこかに存在しているってことだ。
なんでこんなことを言い出したのか。それが魔法科学のポイントだからだ。魔法科学は想いの力。想いにだってエネルギーがあるんじゃないのか?っていうのが始まりだ。『想う』ということにエネルギーが必要なのだから『想い』にはエネルギーが含まれているんじゃないかってことだ。例えば物凄い目標があってその気持ちを持って目標に向かって努力すればその目標が叶うことがある。それは想いのエネルギーなんじゃない?じいちゃんはそう考えた。そしてそのエネルギーを取り出して利用できないか考えたんだ。
それを実現させたのが魔法科学。そしてこの魔法科学はエネルギー源にした想いによって様々な現象を起こせる。それこそ現代科学では魔法と思うような不思議なことをね。この認識阻害の眼鏡もそう。俺が『これを掛けていると人に注目されず目立たない』って想いをかけて作ったからこんな効果があるってわけだ。
麗「おかえりなさいませ。改太様。」
エレベーターを降りると俺の美人秘書さんが待っていた。
改太「ああ。ただいま麗さん。」
この人は
麗「………。」
俺がよからぬことを考えているのがバレたのか睨まれたのでさっさと移動する。
俺は麗さんを連れて自室へと向かう。まずは着替えだ。俺専用の格好良いスーツに着替える。スーツってビジネススーツじゃないぞ。ちょっと肉襦袢みたいなやつだ。鎧やアーマーみたいな呼び方した方がしっくりくるようなものだ。なんでこんなの着てるかって?もうすぐわかるよ。その上からマントを羽織る。最後に鼻から上をすっぽり覆い隠すマスクをかぶる。よし。準備オッケー。着替えて麗さんを部屋に入れてからデスクの上に溜まってる書類を処理する。
それが終わると俺は時計を確認する。そろそろ皆が待ってる時間だな。
改太「それじゃ行こうか。」
麗「はい。改太様。」
改太「おいおい。今の俺は改太じゃないよ。今の俺は………。」
麗「申し訳ありません。承知しております。デスフラッシュ大佐。」
中二っぽい恥ずかしい名前だがもう決めてしまったものは仕方ない。名前を決めて組織を作った時はまさに俺がその病気の真っ最中だったのだ。これも俺の黒歴史というやつだ。
デスフラッシュ「わかっているならいい。麗さん。」
麗「違います。今の私は………。」
デスフラッシュ「ああ。すまない。わかってるよ。キラーレディ。」
キラーレディ「はい。それでは向かいましょう。皆様お待ちかねです。」
俺達二人で長い廊下を歩く。大きな扉の前に辿り着くと光が俺達をサーチして認証すると自動で扉が開いた。俺が扉の中へと進むと左右に化け物の格好をした奴らが並んでいる。
様々な昆虫や生物をモチーフにしたかのような不気味な姿。それは世に言う怪人と呼ばれる者達だ。そいつらが俺に頭を垂れている。俺は真ん中を歩き一番奥まで進み数段高くなっている椅子の前で後ろを振り返る。それまで頭を垂れていた者達が一斉に顔を上げる。
デスフラッシュ「よくぞ集った。コンクエスタムの優秀なる怪人達よ。」
怪人達「「「「「はっ!」」」」」
デスフラッシュ「さぁ今日も我らが偉大なる目標達成のために活動を始めよう!」
怪人達「「「「「コンクエスタムばんざーい。デスフラッシュ大佐ばんさーい。」」」」」
今の俺はデスフラッシュ大佐。秘密結社コンクエスタムの日本本部最高司令官。そしてさらに裏の顔はこの秘密結社コンクエスタムを作り上げた首領デミシオネでもある。
そう。ここは九条製薬を隠れ蓑としてその地下に極秘に造られた秘密結社コンクエスタムの秘密基地。学校の勉強も就職も将来の夢もつまらなくて暇だ。だから俺は………。
世界征服はしないけど暇だから秘密結社作ってみた!
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