第23話 強化した力
午前七時の五分前。太陽が昇り、光が街を照らしていた。
「良い景色だ」
雄平は警察署の傍にあるマンションの屋上に来ていた。昨日木崎に襲撃された中庭もしっかり見えている。これは彼のステータスに変化が生じたおかげでもあった。
――――――――――
名前:奥井雄平
評価:B
称号:魔王を殺した勇者
特異能力:
・課金ガチャ
・観察眼
魔法:
・炎魔法
・透視魔法
・五感強化
スキル:
・狙撃(ランクB)
・剣術(ランクC)
能力値:
【体力】:130
【魔力】:130
【速度】:150
【攻撃】:130
【防御】:130
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雄平は新たに『五感強化』の魔法と『狙撃』『剣術』のスキルを保持していた。これは課金ガチャで手に入れたアイテムのおかげだった。
『Bランク:狙撃スキル習得』
ランクBの狙撃スキルを習得できる。弓や銃など遠距離武器を使った攻撃の命中率が向上する。スキルランクが高ければ高いほど補正が大きい。
『Aランク:五感強化魔法習得』
五感を強化する魔法を習得する。消費魔力量が多ければ多いほど強化される。
『Cランク:剣術スキル習得』
ランクCの剣術スキルを習得できる。スキルランクに応じて剣技が向上する。スキルランクが高ければ高いほど補正が大きい。
得られた能力の中でも特に『五感強化』が便利で、雄平は遠く離れた位置にいる敵を強化した視力でしっかりと見つめていた。
「五分前にきちんと待ち合わせの場所に現れるあたり、几帳面な性格らしいな」
仲間になれば戦力になっただろうという思いと、敵になったときの脅威を考えると、ここで殺せて良かったという思いが、雄平の中にはあった。
「さてと、人生初射撃で人を撃つことになるとはな」
雄平はスマホの中から狙撃銃を取り出す。警察の押収品の中に含まれていたものだ。黒い銃身とずっしりと手の平に広がる重みは人殺しの道具であることを強調していた。
雄平はマンションの上で這うような姿勢を取り、狙撃銃を構える。
初めて行う狙撃だが、慣れ親しんだ動作のように雄平の身体は自然と動いていた。距離を読み、風を読み、そして地球の重力まで考慮に入れた精密な狙撃技術を彼は取得していた。
それはすべてランクBの狙撃スキルによるものだった。
「俺の都合で殺して悪いが、邪魔なので死んでおけ」
時間が待ち合わせの時刻丁度になった瞬間、雄平は引き金を引いた。銃弾が放たれ、木崎へと向かう。
狙いは木崎の頭部だった。確実に着弾するはずのコースだった。だが雄平の放った弾丸は、偶然にも木崎の頭を掻く動作に阻まれ、頭ではなく腕に命中する。
「な、なんなんだこれはっ!」
木崎が苦悶の声を漏らす。腕からはおびただしい血が流れ、放っておいても出血多量で死にそうである。
だが雄平は攻撃の手を緩めない。次弾をもう一度頭部めがけて放つ。放たれた弾丸は、木崎の頭を守る動作に防がれてしまうが、今度は着弾の衝撃で腕をまるごと吹き飛ばした。
「これでもう守るものはないな」
雄平はもう一度木崎に狙いを付ける。すると木崎は今度こそ殺されると悟ったのか、必死に大声で叫んだ。
「ま、待ってくれ! 僕を殺さないでくれ!」
雄平は引き金に手を掛けたまま、木崎の断末魔に耳を貸す。
「僕は役に立つ。君たちの仲間になれば必ず戦力になる。だから助けてくれ!」
雄平はため息を漏らす。木崎の最後の言葉が有益な情報であればと願ったが、口から出てくるのは命乞いの言葉だけ。生かしておく価値がないと雄平が判断するのに時間は必要なかった。
「き、君だって勇者なんだろ! なら助けろよ! 正義の味方なんだから助けるのが当然だろっ!」
「悪いな。俺は勇者だったから、モンスターや魔人を何人も何人も殺してきたんだ。だからお前一人殺すのは、始まりの平原でスライムを殺すのと何ら変わらないんだよ」
雄平は引き金を引いた。放たれた弾丸は今度こそ木崎の頭に着弾する。彼の身体は血の池で満たされた地面に倒れこんだ。
「なんだあれは……」
視界の端の人影に雄平は気が付く。人影は木崎の死体に駆け寄り、身体を物色していた。
「仲間か……」
そう口にするも、雄平の直感は違うと告げていた。
「あれは……死体を食っているのか」
謎の人影は木崎の死体を食い始める。パーカーで顔を隠しているため、顔は分からない。
「まぁ良い。俺には『観察眼』があるんだ」
雄平はステータスを確認しようとする。だが表示された結果は予想しないものだった。
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名前:不明
評価:不明
称号:不明
特異能力:
・不明
魔法:
・不明
スキル:
・不明
能力値:
【体力】:不明
【魔力】:不明
【速度】:不明
【攻撃】:不明
【防御】:不明
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「なぜステータスを確認できない!」
雄平は初めての事態に動揺する。『観察眼』には確認できるモノに条件があるのか、それとも相手が何らかのスキルを保持しているのかは分からないが、ステータスが分からないことは雄平にとって死活問題であった。
なぜならステータスが分かるということは、勝つか負けるかが勝負の前から分かるということである。つまり雄平があの正体不明の敵と戦うならば、一か八かの賭けをしないといけないということだ。
「そんなリスクは取れないな」
雄平は正体不明の相手から銃口を外し、様子を観察する。木崎の死体を完食すると、ノソノソと歩き、警察署の塀を飛び越え、どこかへと消えたのだった。
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