第21話 抹殺眼
「何でありますか、あいつは」
安藤が中庭に仁王立ちする青年に対して不快感を示す。
「さっそく手に入れた拳銃を試すであります」
「待て、あいつは自分を勇者といった。迂闊に行動するのは危険だ」
雄平は『観察眼』を使い、青年のステータスを確認する。
――――――――――
名前:木崎琢磨
評価:C
称号:魔王を殺した勇者
特異能力:
・抹殺眼
魔法:
・爆発魔法
スキル:
・なし
能力値:
【体力】:10
【魔力】:30
【速度】:11
【攻撃】:12
【防御】:12
――――――――――
木崎という名の青年のステータスはさほど高くはなかった。魔力が少し高いのと『爆発魔法』があるため、一般人よりは間違いなく強いが雄平なら瞬殺できるはずだ。
雄平はそう思っていた。木崎の特異能力である、『抹殺眼』を見るまでは。
『抹殺眼』
視界に入った人間を殺す。この効果は相手の強さに依存しない。魔王や勇者、果ては神が相手でも有効。
「なんだこれ。チートじゃねえか」
視界に入っただけで殺せるなら、雄平は近づくことすらできない。
「まずは互いの自己紹介をしよう。僕は木崎だ。君は何という名だ?」
「…………」
「反応なしか。だったら同じ土俵に引き釣りこむとするか」
木崎は魔力の弾を飛ばす。その弾は警察署のコンクリ壁にぶつかり、盛大に爆発する。雄平たちと木崎を遮る壁がなくなり、彼らは姿を晒すことになった。
「さて、もう一度聞く。君の名前はなんだい?」
「奥井雄平だ」
「雄平君か。僕の部下になる男にぴったりの名前だ」
雄平はゴクリと息を呑む。彼は今木崎の前に姿を晒している。つまり生殺与奪権を完全に握られていた。
「さてもう一度聞く。僕の部下になれ」
「断ると言えば?」
「君たちには死んでもらう。言っておくが、君とは勇者としての実力が違う。なんといっても僕は最強の勇者だからね」
現状では木崎が圧倒的に優位だ。雄平は上辺だけでも仲間になると回答すべきだと判断を下す。
「分かった。部下に――」
「いや、君から部下になると言ってもらえても、この場を取り繕う嘘かもしれないのか。その後逃げられると僕としても悔しいからね。保険が欲しいな」
「保険?」
「僕は美醜が逆転していない世界の出身だ。だから君の仲間の女性三人が全員美人に見える」
「それで?」
「僕も男だ。君から離れようとしない黒髪ロングの女の子か、日本刀を持っている女の子を僕の慰み者として献上してくれ。それなら君のことは信じよう」
「ちょっと待ってよ! どうして私を除くのよ」
高木が候補から外れたというのに、文句を漏らす。
「君は僕の好みじゃないからね。なんというか君は美人だけど下品だ」
「なっ!」
高木は顔を真っ赤にして怒るが、木崎が一言、「殺すよ」と告げると黙り込んだ。
「さて雄平君。勇者である僕が仲間になるメリットは分かるよね」
「強い仲間がいれば、その分安全を得られるからな」
「うん。で、君はリアリストだろ。何の戦力にもならない女性一人と交換で、僕のような強大な戦力が手に入るんだ。悪くないだろ」
「……すぐには回答できない」
「なぜ? 君の回答は一つしかないと思うけど」
「ここで即答すると禍根が残る。綺麗に清算してから回答したいんだ」
「ふ~ん、まぁいいか。なら明日の朝七時にここに来てよ。そこで答えを聞かせてもらうよ」
「分かった」
「ただしもし時間通りに現れないなら僕は君を地の果てまでも追いかけて殺すから」
木崎はそう言い残し、夜の街へと消えていったのだった。
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