えすぱあっ!

東利音(たまにエタらない ☆彡

武藤芙亜

第1話 ヒトリガタリ

 偉人アイザック・ニュートンは、林檎が木から落ちるのを見て重力を発見したという。

 かの有名なガリレオ・ガリレイは、大小二つの金属の玉を落とすという実験で何か重要な発見に繋げたとか。

 それは『重力』や『万有引力』といった言葉で表されている誰でも知っている概念。科学的に立証されている力。地球が林檎や金属球を引き付ける力。

 俺は科学には詳しくないが、厳密には林檎だって地球を引っ張っている。ただそんなちっぽけな力では地球の公転軌道に影響を与えたりすることはない。

 世の中のほとんどすべての事象は科学によって説明が付く。あえて『ほとんど』と付け加えたのは例外について俺自身がしっかりくっきりはっきりと認識しているからだ。

 話を元に戻そう。地球は大きな力で林檎を引っ張っている。林檎も小さな力で地球を引っ張っている。引き合う力。惹きあう力。

 それは何も物質に限った話ではない。

 人間だって惹かれるあう。

 とある漫画で能力者は能力者に引かれあうなんて設定が描かれていた。漫画の中のご都合主義。そういうことにしておけばこの広い世界、数少ない異能の持ち主たちが局地的に集まってあれやこれやの事件、イベントを繰り広げるのにもっともな理由になるだろう。

 そんなことを思ったのは、この先、未来、それもごく近い未来に俺自身が同じような体験をしていくことになるからだ。

 もちろん俺は未来を見通せる力なんてもっていない。俺にあるのはごくごくちっぽけな、利用価値もないような、それでいて科学では説明できない、証明しようのない不思議な能力。

 そんなちっぽけな能力でも俺の人生を狂わすのには十分だった。

 若干十五歳にして、既に母を失い――死んだわけではないし、会おうと思えば何時でも会えるの――、父との確執を築き……。

 それでもやっぱり普通が一番と、ごく普通の公立高校で平凡な生活を送ろうと淡い期待を抱いていた。その幻想は藻屑と消えることとなる。

 これまで俺は自分と同じような”非科学的な”能力を持った別の人間と出会わなかった。単に偶然だったのか。それとも俺ごときの力は、小さな赤い林檎のごとく、引きつける力が弱かったからなのか。それとも、ここにきて出会うのが必然で今までは単なる準備期間に過ぎなかったのだろうか。

 一人の少女との出会いが俺の人生を大きく動かす。言うなれば彼女こそが、地球。能力者を引きつける力を持った巨大質量。

 少女の名前は武藤芙亜。物語は大きく動き出す。彼女を中心に据えて。

 さっきも言ったが俺には未来が見えない。今のところそんな都合のよい能力を持った奴は現れていない。

 だが、その他の様々な能力、俗にいう超能力。言葉にすれば極端に安っぽくなるが、常識では測れない特異な能力の持ち主たちがちらほらと集まり出す。

 それは、偶然なのか必然なのか。設定上のやむを得ない事情によるのか。俺にはわからない。

 ただ……。予感……。

 超能力なんていう便利で都合の良い能力がもたらす信頼できる情報ではなく、単にそんな気がするって程度の。

 俺達は……いや、武藤芙亜は、普通じゃ語れない。なにか大きなことをなしえるだけの器の持ち主であるような気がするような……しないような。

 ただ単に俺の願望だったり、危機管理をつかさどる第六感的ななにがしが警鐘を鳴らしているような。

 上手くは言えない。

 ひとつ言えるのは……、これから俺が経験するのは、ごくごく普通の高校生活とは一味もふた味も、一色も二色も毛色が違う特別な経験。

 通常ではありえない、フィクションのような。ありきたりとは違う。異常といえば異常。ただし……フィクションとしては二流。

 そんな予感。事実は小説より奇なりとはよく言われるが、小説としては平凡。だけど事実としては誰も信じてくれないような。

 日常が始まる。非日常のスパイスを添えて。非凡なるエッセンスを効かせた……。

 結末はわからない。経緯も今のところ不明。

 希望的観測的には、できるだけ楽しければいいな。とは思う。どうせ逃れられない運命であれば。それが『さだめ』であるならば……。

 

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