第32話 イッタンエピローグ
玲奈先輩を、ご両親の家に残し、俺達三人は家路に着いた。
十数年ぶり? の再会だ。つもり話もあるだろう。お邪魔虫は退散。それが良い。
「ところでさ……」
作戦実行中、置いてけぼりを食らわされていた俺は、武藤さんに、三月に尋ねる。
「今日一日の行動、なんとなくわかったよ。三月がテレパシーで送ってくれたからな……」
つまるところはこういうこと。
なんだかんだと理由をつけて、子犬のペロなんてのは妄言もいいところ、そんな子犬は存在しない。いや、どこかで可愛い子犬は元気に生きているんだろうが、今回の件とは関係ない。
それらしい目的指針を作るため、首輪とリードに三月が念を送った。その残留思念を玲奈先輩は読み取った。
「いやな、ヒャッキン、ダメ元でやってみたんだが、それはできなかったんだ」
「えっ? それじゃあ……」
「わたしが念を送るのに失敗したのか、玲奈さんのサイコメトリーがうまく動作しなかったのか……」
じゃあ一体……? 彼女の頭に浮かんだ子犬のイメージは……?
「それも、ミーちゃんが送ったテレパシーなんだよ。ミーちゃんは画像も送れるんだよ」
なるほど……。初手からいかさまだったわけだ……。
「で、その後、公園から……駅まで行くように、駅でも電車にのるようにメッセージを送ったんだよな?」
「ああ、一応手掛かりは用意していた。それぞれの分岐点でわたしが事前に念を送って、進むべき道のイメージを刷り込んでおいたんだが……」
「失敗しちゃった……」
なるほど。なんだかんだで事前準備は万端だったわけだ。
しかしすべて思惑通りに行かず。
「そうなの。全部ミーちゃんの機転なの! ほんとなら先輩が手掛かりを見つけ出して自分で進んでいくはずだったんだけどね……」
神からのメッセージ。しかし、今回の神はペテン師、三月だったわけだ。
主演女優賞を贈りたい。
「じゃあ……あの時……」
俺の脳裏に浮かんだのは、自分の小さい頃の写真を手にして態度を一変させた玲奈先輩。あれも……ペテンだったのか……。
三月は、
「それがだな……。確かにあの時、わたしはこう考えた。両親の心を読み取って、それを玲奈先輩に送ってやったら……とな」
「でも実際にはしなかった?」
「正確に言うとできなかったんだ。ご両親の心は読めた。だが、戸惑いやら申し訳ない気持ちやらで混乱しててな。うまくメッセージを拾えなかった。拾えたとしても玲奈先輩に伝えられるようなイメージ、思念じゃあなかった。わたしは……、そこまで具体的に人の心は読めないし、まあ、さっきのヒャッキンのように明確にこっちに向けて発信してくれてたら別だけどな。それに、伝えるには、言語化、あるいは映像化する必要がある。漠然としたイメージを伝えるのは得意じゃないんだ」
なるほどね……。
「だけど……、三月が玲奈先輩にメッセージを送れたのは事実だろう? ってことはやっぱり先輩は超能力者である可能性が高いんじゃないのか?」
「うん! サイコメトラー!!」
と武藤さん。
「だから……、だからファーちゃんはその能力に賭けたんだろう?」
「そう! サイコメトラーなんだから、その能力が安定してなくても、力の使い方、制御方法がわからなくても……」
武藤さんは立ち止まる。俺達を追い越して、俺達に向き直る。
「自分への愛情がいっぱい詰まったあの写真。両親の想いが込められたあの写真さえ手に取れば……、そこから絶対に何かを感じるはず!!」
「まあ、結果を見ればうまくいったんだろうな。玲奈先輩の心はわたしには読めない。だから、彼女が何を感じ取って、どういう風に受け止めたかは想像するしかないが……」
「きっと……、優しい愛情に包まれたんだよ!」
「雨降って地固まるか……」
ぽつりと漏らした俺に対して、三月が、
「この場合の使用は不適切だな……、『揉め事の後は、かえって良い結果や安定した状態を保てるようになることのたとえ』なんだから……」
「わかった、わかったよ。前もそうだったが、三月が博識なのはわかった。歩くことわざ辞書とでも任命してやろう」
「たしかに……歩く辞書……なんだろうな」
と三月はスマホを取り出した。
「ヒャッキン、ことわざでもなんでもいい。適当に難しい言葉を言ってみてくれ」
「えっ? どういう……」
「なんでもいいんだ。単なる実験だ。ヒャッキンは疑問に思ってるだろう? どうして今日、私たちが玲奈先輩のお父さんとお母さんが住んでいる家に真っ直ぐに辿りつけたのか?」
「ああ、それが一番の謎だ」
「それが……わたしの能力なんだ。その証明を今からやる。だから……、小難しい単語なりなんなりをヒャッキンが思いついたものなら何でもいい。できれば自分でもよくわからないような言葉が適切なんだが……」
俺は、頭を巡らせた。で、なんとなく浮かんだとあるロボットの名前をポツリと口に出す。
友達から聞いたことがあるだけで、実際には俺はその姿を見たことはない。そのことも告げる。
すると……、頭の中にロボットの姿が浮かび上がる。想像していた以上に不格好な姿。
三月は、さらに……
「宇宙世紀00XX年、××粒子散布下の戦場での有視界での近接戦闘の有効性が明らかになったことを受けて、○○軍当局は△△軍との物量差を打破しうる新兵器の開発をXXX社、△△社、~~社に委託した。これに応えて……………………」
なんて暗誦し出した。
「全部ウィキペディアからの引用だけどな」
とスマホを取り出して俺に画面を見せてくる。
「一体どういうことだ?」
「電脳世界とのリンク。要は……、テレパシーの派生なのか、透視能力の派生なのか……、ある時、スマホさえ持っていれば操作しないでも検索、情報が得られることに気づいた……」
なに? それ? 超能力を利用した……検索能力? g○○gleいらずじゃねぇか!
「まあ、そういうことだ。で、試してみたら……通常ではアクセスできない情報にもたどり着くことができた。ネットにさえ繋がっていればな……」
そりゃすごいことだけど……。
と、そこで武藤さんが割り込んで、
「でねぇ、市役所に住民基本台帳ネットワークシステムの端末あるじゃない?」
「ああ、俺たちの個人情報が登録されているってやつだろ?」
「そう、それ、そこに侵入してもらったの……」
って、ハッカーじゃねぇか!
「確かに違法だが……証拠は残らん」
無感情に言い切る三月。
「そんでねえ、あとはあれよね」
「ああ、キャッシュサービス……というかカードローンとかの会社だかの端末にもアクセスしたな」
「夜逃げ同然で逃げたっていうからね、多分借金だろうって。それだったら、住民票とかも移していないかもっていちかばちかだったんだけど……」
首尾よく見つけ出せたわけだ……。
「うん! 多分借金ももう返済していると思う。お父さんもお母さんもちゃんと働いてるみたいだし」
「それも……三月の能力で?」
「ああ……」
なんとまあ。便利な能力が備わってしまったようで。近代社会において……、情報がすべての価値を持つといっても過言ではないこの世の中で……。
無敵じゃない。
「もちろん悪用するつもりはないよ」
そりゃそうだろう。悪用されて困る奴は全人口に等しい。
「でね、玲奈さんのお父さんもお母さんも……、やっぱり玲奈さんに会いたくなったんだと思う。一応借金も返し終わって、なんとか生活が軌道に乗り始めた。それで今年からこの町に引っ越してきたの。いつか……」
「なかなか自分達からは玲奈さんの元へ出向いていけないだろうな……。あの人たちの心の中は後悔の念でいっぱいだった。不安が大きかった……」
「それでも娘の近くに……少しでも近くに居たくなったってことか……」
「そういうこと! 近くに引っ越してきてくれててラッキーだったよ! 全然遠いところに住んでたら……、二泊三日とかの旅になっちゃったからね!」
武藤さんは軽く言うが、それでも実行しただろう。人助け。玲奈先輩の過去の障壁を取り除くべく。
「で、ファーちゃんたちはどうするんだ?」
三月が突然話題を変えた。
「なんのこと?」
武藤さんが聞く。
「つまり……あれだ。証拠は掴んでいないが、玲奈さんはサイコメトラーである可能性が高いのだろう? わたしが心と読めないこと、わたしからのメッセージを受信できることと心細い根拠だが、そういったことも、彼女が超能力者であることを仄めかしている……」
「ああ、えすぱあ集団にご入団いただかないとね!」
「いや、それより……、ファーちゃんたちが心霊現象研究会に入信するのが……」
そうだった。そんな約束をしてたような……。
「だって、玲奈さんは霊能力者じゃなくって超能力者じゃない!」
だからって約束はご破算になるのかっていうと不安は残る。心霊現象研究会が解体したとして……、オカルト研究会が残っている。
あそこに入部させられて……、安藤部長の実験動物? そんな未来もほの見える。
だけど武藤さんは、あくまでポジティブシンキング。
「大丈夫! ヒャッキン! ミーちゃん! 明日は明日の風が吹く! 風とともにゴーイングマイウェイだよ!」
と、駆け出した。
俺達もそれに続く……。
超能力でつながった俺達……、絆はまだ浅いけど……。
この先どんな運命が待っているのか……わからないけど……。
武藤さんが居れば……、仲間がいればきっと乗り越えられる……。
そんな気がした。もちろん俺に未来予知能力はない。唯一の能力だったファイアストッパーの能力も活動停止中。
だけど……、そんなことはどうだっていい。
仲間がいれば大丈夫! こんな俺でも武藤さんは仲間として扱ってくれる。
これまでも……そしてこれからも……。
そうだよね、武藤さん……。
俺の目の前で武藤さんの背中が弾む。夕陽に照らされ溶け込んで……。
えすぱあっ! 東利音(たまにエタらない ☆彡 @grankoyan
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