アイドルのぷろでゅぅさぁってのに就任したんだがいろいろチカ過ぎた件

東利音(たまにエタらない ☆彡

第1話 プロローグ

 夕闇が迫りつつある公園に人影がふたつ。いや、ひとつは間違いなく人間であるが、もうひとつは人にあらざる者である。


 二足二腕であることは確認できるが、纏っているぼろ布のような衣服から覗く四肢は緑がかった茶色であり、人とは一線を画している。


 若干猫背気味の姿勢で、のそりのそりと動くかと思えば、瞬時に身をかがめて猫のように跳躍する。

 豚を擬人化したような顔の下半にある大きな口からは牙が覗き、人語とも思えない呻きを漏らす。

 呻きながらもう一つの影を執拗に追いまわしてる。


 そのような異形を涼しい顔であしらっているのは一人の少年。

 日本に幾つあるかすらわからない、怪士あやかしをうち滅ぼすことのみのために脈々と続く血脈の後継者が一人。

 若干高校生にして、公神きみがみ家の当代、公神きみがみ悟流さとるである。


 近隣の子供たちの遊び場であるはずの公園には怪士と悟流以外の姿は見えない。

 悟流が時空を操作し、彼ら専用の戦闘空間を作り上げたのである。

 ここは公園であり、異空間。いわば世界の裏、あるいは内なる別次元。

 

 悟流の手には何かの柄のような木片がただ握られている。

 彼が作った空間の中でのみその力を出すことができる公神家の本尊ともいうべき逸品。

 口伝ですら由来は明らかではないが、怪士を切り捨てられる唯一の刃。


 悟流は物心の付く前から時空を操る術を叩き込まれ、そしてその刃を扱う技術を磨いてきた。

 刃というには語弊があるのかもしれない。

 今の段階ではそれはただの柄でしかないのであるから。


 悟流は怪士の振るう両腕を、時に繰り出される蹴撃をいともたやすく回避する。

 

 怪士もまた、武器という武器を所有していない。厳密な意味では。

 が、素手で戦っているのとはまた異なる。

 怪士の握り込んだ両の拳(こぶし)からは光る刃が伸びている。長さは30cmほどであろうか。

 怪士の一族に伝わる彼ら特有の能力である。精神の力で作り上げた刀身。触れてしまえば全てを斬り裂く万断の刃。


 振りかざされた刀身が悟流の身に迫る。

 それを悟流は無造作に柄の先、本来であれば刀身があるはずのその空間で受けとめる。

 悟流の手にした柄からもまた、同じような長さの光の刃が出現し、ぶつかりあった二つの刃から花火のようなまばゆい光がこぼれ出る。

 一瞬均衡した二つの刃であったが、悟流が少し力を込めることで拮抗が崩れる。

 怪士は体ごと弾かれたように後退する。


「ぢいぃぃぃぃぃゃぢゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


 怪士は、己の攻撃が受け止めらた悔しさからか呻き声を漏らす。

 反対の腕にも刃を生じさせ、それをもって悟流を斬り裂こうと腕を振りあげる。

 が、その試みはそこで途絶えた。怪士の両腕から力が抜け、ぶらりと垂れ下がった。


「終わりだ……」


 悟流の光の短刀が怪士の額に深々と突き刺さっていた。


 ぐったりとした緑土色のなにかが動きを止めたのを確認すると悟流は背を向けて歩き出す。


 戦闘空間を解除し、現実世界への帰還を果たす。

 

 その存在を知る者のいない、どこから何のためにやってくるのかすらわからない異種族――怪士との戦い。

 それは、悟流にとってほんの日常の一コマに過ぎないのであった。

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