2-4 ウォッチメン

 町に黒の馬が帰ってきた。

 どうやらドワインが放った刺客は殺されたらしい。

 岩陰に隠れ、望遠鏡でその様子を伺う女が一人。

 黄土色のフードは遠目で見れば岩戸同化して見分けがつかない。その下に着こまれているのは同じく黄土色の軍服。

 艶やかな金髪に、片目にかけたモノクルが特徴的な身長の高い女。

 ロナルド・カーラソンの秘書にして用心棒。名をベルマニュ。ベルマニュ・アルジャンヌ・クレイターという。

 ロナルドの命令でエンジェル・アイが任務を遂行するかを見届けている次第であるが、今のところ着々と任務はこなしているようだ。

 もっとも、違和感が無いと言えば嘘になるとベルマニュは思うのだ。

 彼女ほどの狙撃の腕、冷静な判断力があればドワインを殺すことだけを考えればかなり楽なはず。

 なのに、時間をかけ、じっくりと甚振るように相手の戦力を削っている……効率が悪い。

 そうは思えども、彼女の性格を考えればとも思う。

 弱者を甚振ることが趣味といううわさも聞く、ならば、問題はないのかもしれないが……。

 ベルマニュはしかし黙して観察を続ける。

 彼女に課された任務は飽くまで観察。エンジェル・アイが妙な動きに出れば──それでいてロナルドの損になるならば──攻撃をし、彼女を始末するよう言付かっているだけだ。

 今のところ、彼女にはその動きが見られない。

 故に、今は観察をするだけだ。

 そう決め込み、彼女は再び望遠鏡を手にエンジェル・アイの観察を続けようとしたその時である。

 突然の銃声。

 ベルマニュはハッとして足元のライフルに手をやる。

 彼女のライフルはボルトアクション式のモーゼルM1893だ。それも、メキシコで出回っている安物のスペイン産スパニッシュモーゼルなんかではなく、ドイツで造られた純度の高いレプリカなのだ。

 一説には古のドワーフの設計図をもとに、ドワーフがこしらえたとされており、レプリカと言えどもその制度はオリジナルと引けを取らないという。

 ライフルを片手に辺りを見回すベルマニュ。

 見やれば遠方に黒のポンチョを着た男が銃を掲げているではないか。

 そこで思い出す。

 奴らはああやって連絡を取り合っていたのだという事を。

 ベルマニュは自分への危害が無いことを確認すると、再び息をひそめて観察を続ける。

 しかし、いくら自分に危険が無いとはいえ、体が銃声に反応してしまう。

 なんとも嫌な癖だ。

 静かにため息を落とすと、彼女は町の中ほどでにこやかに笑うエンジェル・アイを見るのであった。

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