4
リタがアンデッドの群に突撃をかましたようだ。
ウィルはその様をスコープ越しに眺めていた。
月明りだけじゃ、少しばかり狙いにくいが、そうも言ってられないよな。
ウィルはとりあえず群を覗く。
吹き上がる血飛沫から、リタが跳びあがる。
なんて身体能力してやがるんだあの女は……。
ウィルはとりあえず彼女の足場になりそうなアンデッド以外を狙撃していく。
イエローボーイのほのかな射撃時の振動は、心地よいものだ。
そうこうしていると、リタが群を抜けた。素早く角を曲がり、倉庫の方に駆けて行ったリタはウィルの視界から消えた。
残された群……いや、その時には既に群とは言えない程に数を減らしていた。片手で足りる程度しかアンデッドはいない。
援護したとはいえ、ありゃ間違いなく三十体は殺してる。
アイツの銃、二つ合わせても弾は十二発だぞ……どんな戦い方すりゃあんだけ殺せるのやら。
まいどまいど、あの女には驚かされる。
ウィルは「ふん」と短いながらもリタと旅してきた道中を思い出し、笑みを浮かべた。
「ぬわぁああああああ!」
リタの悲鳴にウィルは急ぎ目を向ける。
彼女は先ほどとは比にならない速さでこちらに戻ってきた。
何やってんだ、アイツ──と、ウィルが思う間もあったか。彼女の背後に迫るのは五十体以上のアンデッドの群だ。
「まだあんなに居やがったか」
ウィルがイエローボーイを向けると、ふとあることに気づく。
リタの顔が近い……いや、近くなりつつあるというのが正確だ。
あの女……こっち来てないか?
ウィルの背に嫌な汗が伝う。
「おい馬鹿! 撃て! 撃てよ!」
気付けばリタが給水塔の下で喚きつつ、給水塔に登ってきているではないか。
「馬鹿はお前だ! 何やってる!」
「こっちのセリフだ。あのまま逃げ回れってか!」
両の肩で激しく息を整えながらリタは給水塔の屋根に上って来た。下を見れば、アンデッドの群が給水塔の下にたむろしている。
「やってくれたな。おかげで逃げ道が無くなった」
「るせえ! つべこべ言な! だったら、撃ちゃいいだろうが!」
そう言ったリタが揺れた。
いや、リタだけじゃない。ウィル自身も揺れて、立っていられず、片膝ついてその場にしゃがみ込んだ。
その拍子に手にしていたイエローボーイが転がり落ちた。
ああ、イエローボーイを落とすのは何度目だろう。ウィルはため息もついでと落とす。
「あーッ! 何やってんだ馬鹿!」
「待て待て、それどころじゃない! 奴ら、給水塔を倒す気だぞ!」
ウィルがそう叫んだ途端、バキバキと下から音がする。
「「あ」」
二人の声が重なり、ぐらんと視線が落ちる。
そのままぐらんと給水塔が斜めに倒れ、ウィルは耐えきれず、給水塔の屋根から落ちかけてしまった。
「おい馬鹿!」
リタが咄嗟にウィルを掴み上げた瞬間、給水塔は地面に叩きつけられ、溜められていた水が噴き出した。
彼女はウィルを掴み、木片に飛び乗るや、そのうえでバランスを取って噴き出した水を利用してアンデッドから距離を取った。
ずさりと木片は地面を擦り、着地した。
「ふぉーーー! 良いね! 今のちょー気持ち良い!」
「言ってる場合か!」
背後からは叫んだリタめがけ、アンデッドの群が襲いかかる。
「「ぬぅおおおおおおお!」」
リタとウィルは横に並び、全力で走り出す。
「何なんだよ、こいつらぁ!」
「俺が知るかぁ!」
二人が後ろを振り返ると、追いかけてくるのは腐りかけの化け物ども──アンデッドだ。
「お、お前、ご自慢のライトニングはどうしたぁ!」
「るせぇ! 弾切れだボケェ!」
追ってくる化け物どもはアンデッドにあるまじき速さで駆けてくる。その数は40から50体。彼女の手にする二丁のコルトライトニングが撃てる状態であったととしても、到底かなう数ではなかった。
「クソったれめ、何だってこんなことに……」
「おい、あれ見ろ!」
ウィルが指差す先には伽藍と広がった本通りと、その先にある倉庫であった。
「あと少しだ! 走るぞ!」
そう意気込んで駆けるウィル。
「言われなくても分かってるってんだよ、バカ!」
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