君の顔色を窺って、生きていく。
秋雨あきら
『0』
『3』
その〝数字〟って、一体なんなの? お父さん。
気になったが、今はしかられている最中であることを思いだし、聞けなかった。
「次からは気を付けるんだぞ。わかったな?」
「……うん。わかった」
結局、最期まで聞けなかった。
『1』
父親の顔に〝数字〟が見えてから、三週間。
四月に入ったばかりの上旬だった。純也は小学校の入学式を終えて、父親と手をつないで帰路についていた。
「良い天気だな」
桜の咲いた並木道を通り抜け、横断歩道の前で立ち止まる。土手沿いの橋を渡ったふもとで、信号が変わるのを待っていた。
「なぁ、ジュン」
「なに?」
「家に帰って着替えたら、弁当を作って、花見にいこうか」
おまえの母さんは、花が好きな人だったよ。
昔を懐かしむように、こっちを見て笑う顔を捉えた。
『0』
「そうなんだ」と、顔を見上げたのと同時だった。道路の向こうから、自動車の音が近づいていた。音はいつにもまして大きく、不審に思った父親も振り返った。
「ッ!?」
二人の目に映ったのは、まっすぐに突き進んでくる、トラックの影。
「ジュンっ!」
一歩も動けず、黙って棒立ちになった純也は、とっさに突き飛ばされた。
にぶい音。目の前で誰かが宙を舞う。数メートル先の欄干を超えて落下する。
連日の日照りで水位は浅く、大きな身体は乾いた地面に打ち付けられ、即死した。
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