俺とじろさんと布丸と

「じゃあ、授業はここまでです」


「位置に付いて」


「ちょっとまてっ。位置に付いてってなんだ」


「よ~~い」


「いや、よ~いじゃないってっ。小僧島(こぞうじま)さん掛け声おかしいってっ。ねえっ」



「礼」


“ありがとうございました”


「いや、お前ら礼儀正しいけどちょっと待てってっ。挨拶の始まりおかしいってっ」


ああ……ようやく昼か……。


「ふう~……」


なんか教師の奴が騒いでやがるな。まあ、どうでもいいけど。


「いやぁ~久っ々に今まで起きて授業を聞いたが、全くわからんなっ。はっはっは」


英語の文法とかごちゃごちゃ説明しだした時点で何度意識を失いかけたことかわからん。

まあ、なんであれ終わりよければなんてやらだ。



「ご飯が待っているっ」


「もうっ。ご飯が待っているじゃないですわ、まったくっ。久しぶりにしてはわかっていなさ過ぎではありませんこと」


「いやぁっ、はっはっは。助かったよ、中島。ありがとな。お前名前からして野球しかできないのかと思ってた。はっはっは」


当てられた時、何気にこっそり答えを教えてくれるという中島の優しい面を見れただけでも、今日はこの席でよかったと思うぞ。感謝、感謝の雨が降るだ。


「磯野の友達ではありませんわ! それに、野球ができませんわ!!」


「うむうむ。ありがとう。ありがとうっ。はっはっは」


中島の頭を軽くポンポンすると、俺は皆に笑顔で手を振りながら教室を後にする。


「これからじろの野朗を締め上げないといけないからなぁ」


幸せだなぁ~。はっはっは


「待ってろよ、くそ野朗っ。はっはっは」















―――正門前。


「あぁ……百太郎ぉけぇ。行きたきゃいけぇ。門は開いてらぁ」


うわぁ~……くさい。


「重症だな……」


どうせじろさんは昼間の門番をしていると思い学園の正門へと来てみたが……やはり居た。

ただ、いつものように門を背にして仁王立ちしているわけではなく、木陰で腐っていた。


「おいおっさん。どうしたんだ? 柄にあって」


「柄にあってってなんだこの野朗! 俺っちの気持ちも知らないでぇ! もう馬鹿っ!」


じろさんが近くにあったからの酒ビンを投げてきたので素早くかわす。


「お前危ないだろ!! 流石の俺でも大怪我するぞ! 死ぬぞっ!」


「うるっせっ! 死ねっ!」


お次は手のひらサイズの石を投げてくる。


「うおっ―――とぉおおおおおっ!! お前馬鹿っ! マジで危ねえわっ!! 誰かに当たったらどうす―――」


「うがっ…………」


ぅ当たったぁああああああああああああっ!!!!????


「まじかおいぃいいいいいいっ!!」


「ぎゃははははははははははっ!」


俺とじろさんは急いで数メートル先で倒れている人物に駆け寄り、様子を見る。


「おぉぉぉ……」


「うわぁあぉぉ……」


すると、一気に血の気が失せた。


「おいおい……こいつぁ……」


「ああ……間違いない。布丸だ……」


なんつう不運なのか、今日転向してきた綾野布丸が、じろさんの投げた石と共に“人間ってこんなにも血が出るんだ”と関心してしまうほどに左側頭部から血を流して倒れていやがった。


「どうするんでぇ……。百太郎……」


「いや、俺がやったみたいなニュアンス含むなっ。お前がやったんだ何もかも」


よく見りゃ、酒ビンも粉々に散らばってるじゃねえか……。ダブルパンチかよ……。


「スコップでも持ってくるけぇ……?」


「え? 嘘っ、死んでるのかっ?」


いや、脈はある。脅かせやがって。


「って違うだろ! 死んでたら埋める気だったのかお前!!」


「じょ、冗談だけぇ。ティーチャーのお茶目な冗談だけぇ。てへだぜぇ」


何がお茶目なんだこのくそオヤジめっ。舌なんか出しよってキモい。


「ってだからぁっ! 違うだろ! これはなんかあれじゃないのか!? 救急車とかそっち系じゃないのか!?」


大きな怪我をしたこともなく、ましてや目撃した事もないからよくわからんが、こんなのんびりしていてはいけないはずだ。


「っそうでぇ! 柿でぇ! 柿が落ちてきたことにしようぜぇ!!」


「かき……。あ、柿かっ!」


…………。


むむっ!?


「柿ってなんだそれお前おいっ!! つうか、何度言ったらわかるんだ! そんなこと言ってる場合か! それに柿の木じゃないって見りゃわかんだろうがっ!!」


「いや、こういう時こそあれでぇ。こいつの馬鹿とおめえの話術と俺っちの名演技を一つにするでぇ」


このオヤジ……何語を喋っているんだ? 何故こうも話がかみ合わない……?


「いい加減にしろぉ!! そんなことより今必要なのは医者だろうがぁっ!!」


マジで死んじまう!!


「医者ぁ……? 医者ってあれか? 先生とかっていう……」


「そうだよ! てか、そんな布丸の真似したからって―――布丸ぅっ!?」


驚いて顔を向けると、顔の左半面を血に染めた布丸がむくりと立ち上がるとこだった。


「おっめえ大変だったんだぞ! いきなり柿が落ちてきてこんななってよぉ! でも安心しろぃっ! 

俺っちと百太郎がその柿をくってやったんでぇ! なぁ?」


「いや、なぁじゃねえよ。同意できるわけねえだろ……」


信じるわけもねえし……。流石にそこまで馬鹿じゃ―――


「まっじかぁぁぁ……。“また”やりやがったんだな柿のやつ」


しっ、信じたっ!? “また”ってなに!?


「そうでぇ。災難だなぁ、おめえ。柿ってやつぁ~この時期凶暴だからよぉ。気をつけるんでぇ」


「みたいだな。やるじゃねえか、柿ってやつぁよ。まあ、仇討ってくれたなら助かるわ。ありがとな」


…………す、凄い次元の話が繰り広げられている……。


「っかぁ~こんなに赤くなっちまって。ははっ。笑えるな」


つうか、柿の季節じゃねえぞ、今……。気づけ、気づくんだ布丸!


「でも、なんでこんな赤いんだ? トマトか? 左頭いてぇし、目もいてぇし」


「いや、それはお前の血だよ……。間違ってもトマトじゃない……」


無理だよな……。血もわからないとか、こいつマジでかなりの馬鹿だもん。


「ああ? トマトじゃなかったのか、これ。んまあ、なんでもいいか。死ぬわけじゃねぇし」


「いや、死ぬよ……。身体からある程度抜けちゃったら死ぬ……。つうか、頭に何かぶつかればわりと皆死んでるよ、普通」


「ああ? 死ぬだって? でも、俺は元気だぞ? なんで死ぬんだよ」


「だから頭負傷して大量に血を流してるからだよ!! 普通は医者に見てもらって、死をも覚悟するんだよっ!!」


人を疑うことも一切無さそうだしな……こいつ。まあ、それは良いことではあるんだろうが、“またやりやがったんだな柿のやつ”って発言からして、こういうことが前にもあったと取れるから、決して言い事ばかりではないはずだ。こいつとしても周りとしてもな。


「血? 血ぃってぇ……いや、あれか。あの赤血球と白血球と血小板とかの?」


「あ、ああ。それだよ。その赤いのはお前のそれなんだよ」


ちょっと待てよ……なんか違う。散々馬鹿馬鹿思ってたけど、もしかしたらこいつ……。


「そうか。これが俺の“ブラッド”だったんだな。そうかそうか。ははっ」


なんか……わかった気がする。

何があってそうなってるのかまではわからないが、俺の考えが正しければ、こいつは……“覚える順番が逆な人間”だ。


屋上の時、クラスの時、そして今、どれも思い返してみれば、本当にわからないというよりは、知ってるけど、普通の人と覚えてる単語が違うというか……順番が違う? という感じであって、結果、何を言われてるのかわからないといった事態に陥ってるようにも取れる。


「いや~、移ってきてそうそうこんなにも真っ赤になるとはなぁ。おもしれえもんだ」


「お、面白いのか? ま、まあ、よかったな……」


ただ、理解したら理解したで、まっすます厄介な奴としか思えなくなる……。

血のことをいちいち赤血球がどうとかいうやつなんか間違いなく俺の管轄外だ。

そんなのは意外とオールマイティーな恋ちゃんとかと仲良くしとけばいい。


「って、ことで……そんなことより、だ……」


布丸の真っ赤になっているシャツを見る限り凄く事件的だが、とりあえず元気そうなわけだし放って置くことにして……今、最もどうにかしないといけない奴がいる。


「けひゃひゃひゃ。おめえが一番おもしれえぜぇ。けひゃひゃ」


そう、犯人のくせに爆笑してるこのオヤジ―――じろさんとかいう飲んだくれた変態クソオヤジだ。


「じろさん。俺はお前を元に―――」


「おいおい、百太郎。そんなことよりよぉ。昼餉(ひるげ)行こうぜ、昼餉ぇ。はやくしねえと昼つ方(ひるつかた)が終わっちまうぜ」


「いやっ、ちょっと待て! なんでお前と昼飯行かなきゃ―――ってお前っ! 血塗れたシャツで肩組んでくるな!」


「いいじゃねえか。奢らせろよ。俺は名乗りでのお前に借りがあんだから」


いやいやっ、ちょっとまてっ、本当に待ってくれっ。借りとか作った覚えないし、今は依頼を遂行せねば―――っつうか、血生ぐさっ!!


「ちょっ布丸っ。 わかったから。わかったから肩組むのやめてくれっ。なんか若干染みてきてるから、血がっ」


「おっ? そりゃすまねぇ」


あぁぁぁぁ……もう既に遅いぃ……。

俺にまで事件的な赤い染みが……。まあ、血の臭いが至近距離でしなくなっただけマシだけどもさ……。


「んじゃあ、行こうぜ」


なんて、布丸は歩き出したが待ったをかける。二人だけで行くわけにはいかない。


「なんだ? 厠か? 我慢しろよ」


「いや、違う。このおっさんもいいかな?」


「え? 俺っち?」


授業中でも酒を飲んで寝るこのおっさんい会いに来たのだから当然だ。


「ああ。俺は構わないぜ」


「よし、じゃあ行くぞ。じろさん」


元々いくつもりだったわけだし、布丸が飯行こうってんなら丁度いいに越したことは無く、中島の依頼も早く終わらしたいからじろさんも誘った。……本当にそれだけだった。


「おめえってやつわぁ……。やっぱり、フレンドだと思ってぇ……」


なのにじろさんは泣いた。絶対に勘違いだと思うんだが感動して泣いた。


「ステーション辺りに飯屋色々あったよな」


そして、泣いているじろさんを気にも留めず布丸は歩きだす。


「俺っちわぁ……。たまらなく感動しているぜぇ……」


じろさんも左腕で目を擦りながらそれに続いていく。


「ちょっと待てよ……」


俺はというと、この面子で駅前行くのは物凄く嫌かもしれないことに気づいてしまい、この期に及んで足を止め渋った。


「…………」


シャツの左半身を赤く染めた明らかに危ない不良が先頭を歩き、その後ろを泣いているおっさんがトボトボと付いていく……。こんなのに混ざると、駅前の交番が修羅場過ぎる……。


「い、いや、だが負けてたまるかっ……き、気合だ気合っ……」


でも、一応、他人のふりをして奴らとは一定の距離を保ち、声を掛けられそうなら逃げ隠れしよう。


「よ、よしっ……」


そう心に決めると、俺も大分遅れて奴らの後に続くことにした。






















「ふぅ……。いつもながら美味かったなぁ……」


幸い何事もなくお馴染みの忍肉らーめんで昼食を終えた俺たち三人は、缶コーヒーを片手に学園近くの公園―――『金次郎公園』という名の滑り台と砂場とベンチが二つしかないのに無駄に広大な公園―――のベンチ腰掛け思い思いに空を見上げていた。


「マジ美味(びみ)だったなぁ……」


「たまんねえぜぇ……」


毎回毎回、目的を忘れてしまう俺だ。実は今回も例の如く忘れていた……。

だが、なんとか学園付近で思い出し、休憩と称してこの公園に立ち寄ることに成功したのだ。


「ツンデレでさえなければ文句なしなんだがなぁ……」


まあ、成功と言っても、二人が「授業に遅れる!」とかそう言った真面目な発言をして、説き伏せるのに時間が掛かったとかそういったことではない。ただ自分の忘却に打ち勝った。それだけの事であって、この二人は―――というか俺もそうだが、なんとなく学園に来ている駄目生徒と駄目教師なので、公園に寄ること自体は二言返事で済んでいた。


「妙なおやじだったけど、まあ、やっすいしよぉ。ご満足だぜ」


上機嫌な布丸は、一応教師の前なのだが徐(おもむろ)に咥えたタバコへ火を点け始める。


「ほんとだぜなぁ。すまねえ。ちょっと火ぃかしてくれぇ」


そんな布丸にじろさんは注意するどころか、ライターまで普通に借りている始末だ。


「…………」


やはりおかしい。元々口うるさいタイプではない―――というか教師らしくないんだが、せめて注意くらいはしていたはず。


「なあ、じろさん。あんた何があったんだ?」


急にそう聞いた為か、じろさんは吸い込んだ煙で咽せる。


「ごはぁっ、ごほっ……。な゛んでぇいきな―――ごほごほっ。ぬぁぁ……」


「いや、じろさんがどうもここ最近おかしいから、どうにかしてくれって依頼受けたんだよ」


こういう場合って、誰にとかは言っちゃだめなんだろうかな……?

まあ、言わずとも、中島以外の皆も思ってるし言う必要もないっちゃないけど。


「依頼? 依頼ってなんだ?」


ほら来たっ。


「布丸……。お前は内容を聞いてるわけじゃないんだよな?」


わかってはいるが、一応そう聞いてみると、布丸は「内容ってなんだ?」と再び質問してきたので、簡単かつ適当に説明し、じろさんに顔を向ける。


「ぬぁぁ……。いやぁ……」


じろさんはというと、地面に視線を向けなんだか言いにくそうにしたかと思うとすぐ顔を上げ口を開いた。


「お、俺っち、じ、実はっ、麗奈先生が好きなんでぇ!」


「ぁっ…………」


唖然ってこういう感じなのか……。



俺もゴリラもロピアンも、もしかすると学園の皆が知っているだろうことを、まさか、今、大声でカミングアウトされるとは思ってもみなかった。


「麗奈ぁ? 麗奈ってなんだ?」


こいつは除外だ。


「いや、知ってるよじろさん。皆知ってる」


今更何を言ってるんだこのおっさん……。


「俺は存じねえぞ? 麗奈ってなんだ? 先生?」


お前は今日着たばかりだろ……布野郎……。


「た、確かに皆知ってるかもしれねぇ! ちげぇんだ! そういうことじゃねぇんだ!!」


「何が違うんだ? わかりやすく言ってくれ」


どうせ、その先のデートに誘うとか告白とかそんなだろう。


「そ、それは……。お、俺っちは……」


あぁ……いやだいやだ……。これを聞けばまた何か嫌なことを押し付けられる気しかしねえ。


「こ、これに、麗奈を誘いたいんでぇ」


「あん? なんだこれ?」


じろさんがポケットから取り出したくしゃくしゃになった紙切れを渡してくるので目を向けると、パン一の四つんばい男がハイヒールの女王様に乗っかられて満面の笑みをしている姿が載っており……その上部には究極のSM体験クイーンズウィヒップとでかでかと書いてあった。


「マジでなんだこれ。とりあえず死ねよ、お前」


じろさんに紙を投げ返し、布丸からタバコを一本もらうと、空を見上げながら深々と煙を吐き出す。


「ふぅ…………」


こいつぁ……やっぱ変態だ。助けることより、学園から追放する方向で事を進めるべきかもしれねえ……。


「ち、違うんでぇ! 間違ったんでぇ! これ、これなんだけぇ!」


そういってまた紙切れを渡してくるので、嫌々ながらも受け取り再び目を向けると、今度はこう書いてあった。


“黄緑(おうりょく)ランド一日乗り物無料券”。


「ふぅん……」


今度は普通の遊園地の券みたいだが……。


「本当なんだな?」


一応確認する。“間違った”とはいえ変態なのは“間違いない”ので、本気の度合いは確かめておきたい。


「ああ。本当でぇ。さっきのは忍肉らーめんのオヤジに誘われて一回行っただけでぇ。ま、まじだぜぇっ?」


なんだか、嘘くさくもあるが……。


「そうか」


とりあえず信じてやることにする。


……つうか、何気にさっき、さらりと気になることを入ったような気がするんだが…………まあ、今は無視だ。


「んで? 何を迷ってんだ? 誘えばいいじゃないか」


「いやぁ……誘ったんでぇ……。5回くれぇな」


えっ……。


「ちょっと待て、なに、誘ったっ? 5回も?」


「おう。誘ったんでぇ……5回も」


おいおい、マジかよ……誘えないとかじゃなくて、誘ってたのかよ……。


「そうか、5回か……。え、つうかまさか、それで自棄になってたって?」


と、聞き返す俺の隣で、布丸が……。


「ああ? このおっさん、なんかやらかしたのか?」


なんて、自棄という言葉はわかったようでそう聞いてくる。

だが、今の俺は“ちょっと黙ってて”としか思わないので、無視することにし、俯いたままのじろさんの言葉を待った。


「そらぁよぉ……こんなことでと俺っちも思うけどよぉ……。本気なんでぇ。そりゃ落ち込むってもんでぇ……」


「いや……まあ、そうかもしれねえけど……。授業中飲むのはどうかと思うぜ……?」


まいったな……。この依頼、俺がどうこう出来るやつじゃない……。

『子供同士のことに大人が口出しするな』の逆バージョンで『大人同士のことにガキが口出しするな』というやつだ。俺が出来ることなんてなにもねえ……。


「はぁ……でぇな……」


じろさん自身が失恋に打ち勝つしか解決策はねえんだ……詰みだ。


「はぁ……」


じろさんと同じように肩を落としたその時だった。


「恋愛ってやつか? 今恋愛ってやつの話してんだな?」


布丸の奴が急に両肩を揺さぶってくる。


「お、おいおいっ。どうしたってんだよ、布丸っ」


「恋愛ってやつの話してんのかってきいてんだよっ! どうなんだおいっ!」


な、なんなんだこいつ。


「そ、そうだよっ。つうか、今は失恋―――恋愛が終わってしまうかもという悲しい話してるんだよっ」


「終わる? 終わんのか? おい、終わんのかっ!」


お次はじろさんの両肩を揺さぶり始める。


「うおぉぉおいっ。な、なんでぇっ?」


ほんと、どうしたんだこいつ。何故、妙に熱くなる?


「お前それでいいのか! 5回? たったそんだけ申し出断られたくれぇで諦めんのかおい!」


「うるせぇ! 5回は結構な数字でぇ! 百太郎だって引いてただろうげぇ!」


いや、確かに引いたけどさ……。なんなんだこの展開……。


「うるせぇ! 他人なんか関係あるか! 一度しかねえ儚い人生だろ! 咲かせてみせようと思わねえのか! おいっ!」


「なっ……!」


おいおいっ……じろさん感化され始めるってのか……。


「お、俺っちだって……俺っちだってなぁっ……。このまま終わるなんていやなんでぇ! 飲んでも逆に思い出してしまうんでぇ!!」」


「じゃあ男見せたれや! 麗奈が承諾(じょうだく)するまでいったれや!!」


えええぇぇっ……。


「いや、ちょっと待て、お前。それは迷惑―――」


「うるせえ!! おめえに言われなくとも言ってやらぁ!!」


でぇええええっ!?


「お、おいおいっ。じろさんどこへ行くっ!」


ちょっ、何考えてやがるんだっ。もう授業始まってるってっ。


「ちょっと、おいっ」


追いかけようと、ベンチから腰を上げた……。




―――のだが。


「やめとけ、百太郎」


布丸に肩を捕まれる。


「行かせてやれ。大戦の邪魔はしちゃいけねえ」


なに言ってんのっ……こいつっ……!


「大戦じゃねえだろっ! 完全に負け試合なのに何故行かせるんだ! しかも今っ!」


じろさんのこれ以上傷がついたら自殺するかもしれないってのにっ。


「負けるとわかっても行く。それが男。華やかに散るのも一興だ」


い、意味がわからねえぇぇぇぇ……。


「はぁぁぁ……」


でも、今から追っても手遅れか……。あんなにも姿が小さくなってるのを追うのもだるいし……。


「まあ、いいか……」


これで学園に来なくなったらそれはそれで依頼解決になる……―――。


「わけないよな……。はぁ……」



後半へ続く。


「ふぁ……ぁ……」


みたいな気分で、俺はこの無駄にだだっ広い公園で授業が終わるまで、布丸とのんびり過ごす事にしたのだった。



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