スペース・フラワー・カンパニー
鈴埜
序章
ボクがこのフォボス経由地球行きの便に乗り合わせたのは、ほんとうに偶然だった。お父さんが、久しぶりに身体が空いたから、地球のお祖父ちゃんちに行こうかと言い出したのだ。もう一ヶ月もしたら、お仕事がまた鬼のように忙しくなる。今がチャンスだった。
お父さんは、再来年火星で開催される花の博覧会のお仕事をしている。建物をたくさん造るリーダーで、とっても偉い。ボクらが引っ越したのも、この花博のためだ。最初は少し寂しかったけど、火星でお友達も増えたし、地球とはまるで違うドーム暮らしにも慣れた。
お母さんは急なことでお稽古が忙しいし、今回はお父さんとボク、二人で地球へ向かうことにした。
火星に来て三年。つまり三年ぶりの地球だ。
せっかくだから最新式のメデリック600系に乗ろうという話になった。ついこの間、テレビのニュースでやっていたばかりでどきどきする。そんなボクを見てお父さんは、「男の子はやっぱり乗り物が好きなんだな」と言っていた。でも一番楽しそうなのはどう考えたってお父さんだ。
さらに、どんなことをしたのかはわからないけど、本当は火星から持ち出しちゃいけないSFC――スペース・フラワー・カンパニー製のスイートピーの花を特別に地球へ持って帰ることが許された。
お祖父ちゃんからプレゼントされたもので、ちょうどお花が咲いていたから、ボクもこんなに立派に育ったんだよと見せられるのが嬉しい。
待合室でみんながみんなボクのスイートピーを褒める。羨ましそうに見る子もいて、すっごく気分がいい。
地球の外では花は枯れてしまうけど、SFC製のポッドに入って売られているものは、ちゃんときれいな花を咲かせる。でもその技術がとっても高いので、お値段もびっくりするほどなんだって。お祖父ちゃんがボクにくれたとき、お父さんは、子どもにこんな高価なものをとちょっと怒ってた。けど、ボクがきちんと面倒を見るので、満足そうにしてるのも知ってる。責任感が出て、お兄ちゃんになったなって、言われた。
新しい船に、高価な花。地球への旅は前途洋々。
ところが、隣に座ったお兄さんたちとお話をしながら、楽しい雰囲気を満喫していたはずなのに、それをぶちこわす人たちがきた。
黒ずくめで、怖い人。
子どもみたいなボクでも知ってる、とってもとっても、怖い人達だ。
フォボス経由地球行き、トリル・スペース・ラインのメデリック603便は、黒ずくめの男たちによってハイジャックされたのだ。
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