第5話 趣味談義
熊 八 「よっ、ご隠居。こんち、ご機嫌いかがすか?」
ご隠居 「なんだい、熊さんかい。いったい何の用だね」
熊 八 「へぇ、あっし、この度、所帯を持とうと思いまして……」
ご隠居 「ほお、そりゃ目出度いね」
熊 八 「それで、ご隠居に折り入ってお願いがあるんで」
ご隠居 「いったい、なんだい。ばあさんが亡くなってるんで仲人は無理だが、ご祝 儀ははずむよ」
熊 八 「いや、そうじゃなくって……そのぉ、嫁さんを世話してもらいたいんで」
ご隠居 「…………(口を開けて目をぱちくり)」
熊 八 「ご、ご隠居、大丈夫ですかい。や、日頃から棺桶に片足突っ込んでると 思っていたけど、とうとうお迎えが……」
ご隠居 「人を勝手に殺すんじゃないよ、この熊公!」
熊 八 「ひえっ、お許しを」
ご隠居 「お前、何かい。相手もいないのに所帯を持つつもりだったのかい」
熊 八 「へぇ、面目ありやせん」
ご隠居 「しょうがない奴だね、お前は。よし、そういうことなら、このあたしが一 肌脱ごう」
熊 八 「いや、老人の裸はご勘弁で」
ご隠居 「馬鹿なこと言ってんじゃないよ、言葉のあや、さ。で、どうだろう、この 際、お見合いをしちゃあ」
熊 八 「お、お見合い。む、無理ッス。あっし、女性と話したこと無いんで何話し たらいいか、見当もつきやせん」
ご隠居 「そういう時は、趣味の話でもするといい。熊さん、あんた何が趣味だ い?」
熊 八 「えっ、別にないスよ。暇があったら寝てます」
ご隠居 「いい若いもんが情けないね。何か好きなものはないのかい」
熊 八 「そうスね。強いて言えば……」
ご隠居 「強いて言えば?」
熊 八 「車ですかね」
ご隠居 「いいじゃないか。ドライブなんて女の子に人気あるよ」
熊 八 「いえ、後部座席で寝るのが好きなんで」
ご隠居 「まだ寝るのかい。そうじゃなくて、車なんだから運転おしよ」
熊 八 「そりゃ、無理ってもんです」
ご隠居 「どうしてだい、車が無いならレンタルすりゃいい」
熊 八 「駄目ッス。あっし……免許持ってないんで」
ご隠居 「い、いい加減におしよ。さすがのあたしも怒るよ」
熊 八 「ご隠居、短気はいけねぇ。ものが車だけにカー(CAR)っときちゃいけ やせん」
お後とがよろしいようで……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます