つかの間の息抜きに

@mimari

第1話 主人の同僚と私

 また、あの男だ。


 私と主人が散歩していると必ず出くわすその男は、いつも嘗め回すような視線で私を見る。

 主人の同僚なので無視はできないが、正直近寄りたくない。

 親しげに談笑している間にも、こちらが気になるらしく不躾な視線をちらちらと私に向ける。

 私のことを何度も可愛いと褒めるので、主人もまんざらでもない様子だが、私は言われるたびに虫酸が走る思いだ。


 あ、主人の携帯に着信が入った。会社からの緊急の連絡のようだ。


 通話に夢中なことをいいことに、男が無神経に私へ近づいてくる。

 そして、あろうことか私の身体に触れようとしてくるなんて。


 驚いて離れ、男を睨みつけてやったが動じる気配も無い。


 なんて厚顔無恥な男なんだろう。

 しかも、男は懲りずにまた手を伸ばしてくる。


 助けて! と叫びそうになった時、主人の通話が終わり、男に声をかけた。


「お待たせ。こんな時間にもクレームの電話だよ……ん、どうした?」


「いや、どうも俺は嫌われてるみたいでさ」


「ああ、ごめん。うちのは人見知りする性質なんだよ」


 そうなんだと納得した男は私を見下ろした。




「それにしても、お前んちの犬って可愛いよな」


「そうだろ」


 得意げに私の頭を撫でる主人に、私はぱたぱたと尻尾を振った。

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