遊び人は焔を語る

アオシノ

序章

始まり

 視線を上げると、黒板の上の壁掛け時計はもうすぐ終業を告げようとしていた。

 気が緩んだのは確かだ。ずっと気になっていた隣席に自然と注意が向いたのも、そのためだろう。

 クラスにも学年にも、通常とは異なるデザインの制服を着こんだ生徒が複数名存在する。

 通常、男子は詰襟、女子はセーラーワンピース、色は共に濃紺の、ごく一般的な制服だ。

 しかし一部の生徒は、一線を画した臙脂色のブレザーを着用している。軍服に近い形状で、濃厚で鮮烈な色合いは、昨日の入学式からずっと目立っていた。そのブレザー姿が隣に座っているともなれば、好奇心が刺激されるのは自明の理。話しかける機会を持てずにいたことも手伝って、興味は深まるばかりだった。

 何気ない風を装ってちらりと様子を伺えば、左隣の男子生徒は、丁度ノートをめくって下敷きを入れ直そうとしたところだった。

 そのノートに並んだ文字を思わず二度見した。字の手習い本を開いているのかと錯覚する程端正な文字が並んでいる。随分な能筆だ。

 感心しきっていると、こちらの視線に気づいた隣席の生徒が振り向いた。

(やば)

 ジロジロ覗き込んで不審がられたかもしれない。しかし相手は特に気を悪くした風もなく、むしろにやっと、人好きのする笑みを浮かべた。

 程なく、終業を告げるベルが鳴り響いた。

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