第4話

周囲を焼き尽くす程の火力で立ち昇る火柱の中、イサムは凄く冷静で落ち着いていた。


「やっぱり熱くないな…」


 メニュー画面を開くと、ステータスの項目を確認する。


◻︎


イサム カブラギ


age:21


Lv:1


HP:¥ad8#136%0

MP:10


攻撃力:31

防御力:♪83◻︎&wdp96

素早さ:15

賢さ:23

器用さ:36

運:12


◻︎


「おいおい…HPと防御力が文字化けしてるぞ」


大剣も額で受け止め、火柱も物ともしない防御力だろうとは思っていたが、数値ですら無いのを見ると驚きより呆れるしかない。


「いったいどれほどの防御力なのか知るのも怖いわ!」


 次に気になったのはアイテムだ。小さくNEWの文字が表示されているが、カテゴリー別になっている欄の上にはNEWの文字は無いので一つずつ開いていく。個数表示は1/999なので何か一つはあるのだろうと確認していく。


 【武器】0

 【防具】0

 【回復】0

 【補助】0

 

 と続き最後の【大事なもの】を開いた時にイサムの手が止まる。

 

 【大事なもの】1

 【異世界の湯桶】


イサムの幼少期に祖父母の家のお風呂に置いてあり、銭湯の必需品であり、頭痛歯痛の味方、ネットで見つけて即買いしたマストアイテム。

地震の時に頭に被ったのが幸いしついてきたのだろう。


「お前…着いて来てくれたのか…」


 ホロリと涙が頬を伝い、顎から落ちると即座に蒸発した。


「涙も体にくっ付いて無いと防御効果がないのか…」


 その時大きく風が吹き、火柱が散開していくのを感じた。イサムは涙を腕で拭い【湯桶】をアイテムボックスから取り出して、防御力が一番低そうな場所に装備した。


 火柱が形を無くし火の粉が全て無くなったその目線の先に、見知らぬ一人の凄く美人だと即座に分かる女性と、蘇生して二人になった女性を見つける。だが、おそらくこの見知らぬ女性がメールの差出人だとイサムは気付いていた。


 女性が目の前に近づくと、イサムに話しかける。


「言いたい事は沢山あるだろうが、まずは【蘇生】を使ってくれないだろうか?」


 そう言うと、右手にもつ水晶のような玉を渡す。水晶の中は先程まで居た少女の禍々しいそれと似ている気がした。


「これはコアと呼ばれるものだ」


 イサムもそれに応じ、右手は湯桶を装備しているので左手で受け取りそのまま地面に置く、リリルカを蘇生した要領で【魔法・スキル】の項目の中の蘇生を選択する。効果範囲のサークルが広がり、コアと呼ばれる物を見ると【蘇生可能】と表示されている。イサムはそのまま【蘇生】を押した。


 水晶の中に見える禍々しい闇は、蘇生の効果を受けると始めは苦しそうな感じで蠢いていたが、しばらくすると規則的に回り出し徐々に白い色に変化していく。するとさらに激しく輝きだし、コアから光が漏れ出した。その光は強くなり徐々に人の形へと形成されていく。


 リリルカ達もそれを静かに見守っている様に見えた。自分達も同じように蘇生したのだが、見るのと蘇生されるのでは、当たり前だが色々な意味で違うだろう。


 そして、先程まで居た黒い女の子が目の前に現れた。いや、真っ黒だったワンピースも胸元に付いてる大きなリボンも比べ物にならない程に真っ白に変わり、少しだけ少女の体が成長して胸の膨らみや背が伸びたような気がした。

 少女は薄らと目を開け始める。


「ん…」


 しかし目の前の光景が鮮明になってくると


「ぎぃやぁぁぁぁぁぁ!!」


 叫び声と同時に空間から大剣を取り出し、その柄を両腕で握り締めて力の限りイサムの額めがけて振り下ろす。


ギャリィィイィィィィイン


 衝撃に両手を離してしまった大剣は、そのまま後ろに弾き飛び空間の中へ消える。


「いったぁぁい!」


「はぁ…またかよ!」


 流石にもうこのやり取りに慣れて来た。イサムはため息を吐き正面の少女を見るが、悪ぶれる様子も無く涙目で痺れた両手をプラプラしている。


「上手く成功したみたいだな」


 エリュオンの後ろから声がする。先程コアを渡した女性が話しかける、しかしその声を聞いたエリュオンは、もの凄い速度でイサムの後ろへと周り隠れる。


「怖くないわよ魔法使い!」

「完全に腰が引けてるじゃないか…」


 イサムはやれやれと首を振りながら、女性は再び話しかけてくる。


「さて立ち話もなんだし取りあえず家の中に入ろうか、キミもそろそろ着る服が欲しいだろうしね。それと、ノルはメルをメンテナンス室に連れて行け」


「カシコマリマシタ」


 ノルは丁寧なお辞儀をすると、壊れたメルを担ぎログハウス隣の昇降機へと向かう。



 銀髪リリルカ・金髪リリルカ・ロロルーシェ・イサム・エリュオンの順に家の中へ入っていく。ログハウスの中は外から見た以上に広く、三十帖ほどの大きなリビングのような広い空間が出迎える。


「広いな…」


イサムのアパートが六帖一部屋のみなので五倍の広さである。しかしそのまま通り抜けて、その三倍ほどの部屋に出る。家の大きさと部屋の大きさが明らかに違うので、たぶん魔法で空間を広げているのだろうとイサムは即座に思った。


 先頭を歩いていた銀髪リリルカが、その広い部屋の中央に置かれている大きなダイニングテーブルに左腕を横の伸ばしながら手を広げ後ろのイサムとエリュオンに座るように促す。


「こっちにどうぞ」


 豪華過ぎず安っぽくも無いがおそらく相当な値段するだろうなと思わせるテーブルに、ロロルーシェが座り、リリルカズ以外の二人も空いている椅子に腰掛ける。イサムが横目で見ると、リリルカズが普段座る場所にどちらが座るかで揉めていた。


「ちょっとそっちには私が座るの!」

「そこは私の席です!」


 それを見ながらロロルーシェは着る服を持ってきてくれと彼女らに頼む。すぐさまリリルカ達は、また「私が持ってくる」「いや私が持ってきます」と言いながら別の部屋へと向かう。


 それをロロルーシェはすごく優しそうな笑顔で見ている。イサムはそれを見て面白がってるのだろうなと思うが顔にも口にも出さないでおく、着る服が遠のく気がしたからだ。


「はぁはぁ…持って来たわ!」

「はぁはぁ…流石にこれ以上丈の長いローブが無かったの…」


 しばらくすると金髪リリルカが茶色のローブを持ってきた、大きめのサイズだと言っていたが彼女達は見た目155センチ位の身長で、イサムは175センチあるのでこの約二十センチの差は当然と言えるだろうが、膝が綺麗に出るくらいの膝丈サイズである。


 それでも防御力の低そうな場所に装備していた湯桶を、ようやく開放してアイテムボックスへと収納する事が出来きたとふぅと溜息をついた。


 それを見てロロルーシェはようやく話を始めた。

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