第49話
ジャイアントパックから抜け出したイサムは、パックの体内に人が残されていないかを確認した後エリュオンとテテル達が待つ湖のほとりに向かう。イサムは泳いで向かうとエリュオンに伝えるが、濡れるから嫌だと即却下されて、また抱きかかえられ移動する。
「先に向かってても良かったんだぞ」
「良いじゃない、私は一緒に行きたいの」
「女の子に抱えられる恥ずかしさが徐々に無くなっていく自分が怖いよ…」
「しょうがないわ、イサムがまだ移動補助の魔法使えないんだから」
やり方を何度かエリュオンが教えてくれるが、蘇生魔法の様に他の魔法がうまく使うことが出来なかった。
「何かコツがあると思うんだよな」
「きっかけだと思うわ。私も始めは出来なくて、本当に練習が嫌で嫌で何度も諦めたもの」
「へぇエリュオンもそんな時があったんだな。俺も頑張ろう」
水面を走りながらエリュオンはイサムに微笑む。そんな表情に少し心拍が上がるが、顔に出さない様に堪える。そうしてる間にテテル達が近くなってくる、抱えられているイサムを見ながら少し頬が膨らんでいる。
「イサム様、早く移動補助覚えてください! 全然格好良くないです!」
「はっはっは! イサム、何と羨ましい限りじゃわい。儂も抱っこされたい!」
「何言ってんだよ…俺は必ず覚えてやるぞ…そして人類の夢…二段ジャンプを実現してやる!」
「何言ってんのよ…いつでも私が抱っこしてあげるわ」
岸辺にたどり着いたイサムは即座にエリュオンから降りる。そこへ村人達も集まって来る。
「本当にありがとう! 何とお礼を言って良いか!」
「ありがとう! ありがとう!」
「ううう……ありがとう!」
村の人達が感謝を言葉をイサム達に告げる、手を握られながら涙を流す人達をみて本当に良かったとイサムも思う。その中で一人の老婆がエリュオンに話しかける。
「あんたはもしかして、火の都の巫女さんかい? あの日、私は爺さんと祭りを見に行ってたんだよ。あれは綺麗だったねぇ、でも次の日に都が無くなったって聞いて驚いたもんだよ」
「お婆ちゃん見に来てくれたの? 覚えてくれててありがとう!」
「エリュオン! ちゃんと覚えてくれてる人も居るんだ! 一人じゃないぞ!」
エリュオンの頭をわしゃわしゃっと撫でるイサム。うっすらと涙を浮かべながらもされるがまま撫でられている。しばらく村の人達を会話した後、メルに念話と繋ぐ。
「メル、パックを退治して村の人達と湖の岸辺に居る」
『よかった、ティタも随分前に闘技場に来ております。イライラしていますので早めに上がってきてくれませんか?』
「わかった、それとパックの腹の中にオベロってオートマトンが居たんだ。壊れかけて魔物になりかけていたから、そのまま俺のコアにした」
『オベロ! そんな場所に居たなんて! ティタが更に怒りそうですね』
「ん? 知り合いなのか?」
『夫婦です。それは上に来てから話しましょう。ティタが睨んでいます』
「了解だ。直ぐに向かうよ」
イサムは念話を切り、行動を指示する。
「じゃぁ村の人達は少し湖から離れて待機して貰おう、もし島が下りて来たら危ないからな」
「え! 島が下りて来る? どう意味だそれは!?」
ベルが耳を疑う言葉を聞きイサムに問いかける。
「闘技場にこの国を作ったティタが来ているから、許可が出たら島を全て下ろすつもりだ」
「なっなっなんだって! ティタって…ティタニア様はご存命だったのか!?」
ザワザワと村人達が騒ぎ、動揺が広がる。
「存命と言うか、何と言うか…どうしたんだ一体?」
「それは私どもが話しましょう」
村人の中から中年の夫婦が出て来る。その間にベルがいて顔が似ているので家族だと直ぐわかる。
「ティタニア様は私どもの祖先になります」
「えっ! ベルは子孫なのか!?」
「そうだ、私達はティタニアとオベロンの子孫だ。だがそれを話すと、この国では生きていけないので誰にも話していない」
それを聞いたオベロが大きく目を見開く。
「そうか! お前達は私達の子孫になるのか! だからティタに似ているはずだ! わははは!」
「まさか! あんた…いや貴方がオベロン様なのか!」
「そうだ儂がオベロンじゃわい、今はオベロと呼ばれておる。そうかそうか! 子孫が生き残っていて儂は嬉しいぞ!」
オベロはベルとベルの両親と抱き合う。そこにイサムが話を続ける。
「国では生きていけないってのは、追放されたって事なのか?」
「生まれる前から村で住んで居たので詳しくは分かりません。ですが子孫であるのは間違いないです」
「いや、間違いなく子孫であろう。ベル…この娘は、ティタの若い頃に瓜二つだ」
「そうなのか…是非お逢いしたい! イサム! 私も闘技場へ連れて行ってくれ! 頼む!」
頭を下げるベルを見ながら、イサムは少し考えて頷く。エリュオンとテテルを見るが、二人も問題ない様だ。
「わかった、闘技場にいる仲間には連絡してあるから急いで向かおう。ティタが待ち過ぎてイライラしているらしい」
「何だと……それはまずいな…あいつは怒らせると手が付けられないからな」
「そうですね…急ぎましょうイサム様!」
二人の動揺が伝わらないイサムだが、村人を安全な場所に待機させると、急いでロープウェイに向かう。しかし、そこでまた兵士に止められる。
「まて! 貴様何故ここに居る! 闘技場に連行した筈だ!」
「ああそうだ、パックに喰われたから倒して出てきたんだ」
「なっなんだと!」
驚く兵士は湖に浮かぶパックの死骸にさらに驚く。
「ほ…本当だ…ジャイアントパックが…あの怪物が倒されるなんて…」
「それで、また闘技場に戻りたいんだ。これ動かしてくれるよな?」
「そ…それは…構わないが…」
自分に敵意が向かない様に、冷汗をかきながら対応を始める兵士にイサムが伝える。
「それと、今浮いている島が下りて来るかもしれないから、皆を湖の岸辺から離れる様に伝えてほしい。これは脅しじゃないからな」
「そんなばかな! あり得ない!」
「いやあり得るだろ? ちなみに今闘技場の中には初代女王が居るから、許可が出たら下ろすぞ」
「え! そんな…馬鹿な話誰が信じるんだ…」
「まぁいいや。取り敢えずこれ上げてくれ。間に合わなかったら、また考えるよ」
イサムは兵士と話していてもらちが明かないと、ゴンドラの動かすように頼む。兵士は戸惑いながらも、ゴンドラの昇降ボタンを押しイサム達は闘技場へと再度向かった。
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