卜われ

えみこん

第1話

そのルートを選んで駅へ向かったのは初めてだった。

でも、通り過ぎる前に、白い布を掛けた机が道端にあるのは目に入っていたし、仄暗い灯りに照らされた女性から声を掛けられることも予想がついていた。

いつもの勘だった。


「ちょっとすみません。」

彼女の言葉は遠慮気味だったけれど、脳に響いた。

もし私が振り向かずに駅へ急いだとしても必ず追いかけてきて呼び止めただろうと思う、覚悟を秘めた声だった。

だから素直に彼女の方を向いて足をとめた。


「突然ごめんなさいね、怪しいものではないのですよ。ご覧のとおり、易者です。」

50代半ばかな?と予想した。

母くらいの年代か…。


「気になるものが視えたので。」

彼女は商売道具であろう絵札を私に見せながら続けた。「お急ぎでしょうか。でも少しお時間をいただけないですか。お代は結構ですから。」

その言葉は少々意外だった。客引きではないのか?


「あなたに、その…。どうしても伝えなければならないと感じたのです。」

彼女が熱心に伝えてきていることは認識出来たが、私はまだ一言も声を出せずにいた。

ここまでの流れを彼女一人が作っているからというのもあったが、何より、自分の情報をなるべく与えたくなかったというのがその理由だ。

この私の運命を言い当てるつもりなのか。

面白い。と思った。


「実は申し上げにくいのですが、あなたはもうすぐ…。」

何を言いだすのかと思えば、まさかの余命宣告だった。

全てを聞いてから反応しようと思っていたはずが、思いのほか動揺し、そこでつい口を挟んでしまった。

「占い師というのは、人の生死に関することは鑑定してはいけないはずではないんですか?」

私は彼女の言葉の続きを聞くことが怖かったのだ。

でも、それを遮るように

「ですからお代はいただきません。」と早口で反論してきた。

いや、そんな問題ではない。

頼みもしないのに人の運命を勝手に視て伝えてくるなんて、普通では考えられないことである。

そして彼女は更に次の台詞を発しようとしている。

私はすぐさま身を翻し、再び駅へと歩き始めた。


「待って。これから、お導きをしたいのです。あなたを救いたい。」

彼女は追いかけてきた。

私は振り向きもせず

「では当ててみて下さい。私の職業はなんだと思われます?」

と、返した。

私はただ祈っていたのだ。

彼女が偽物ならいいのになと。


すると彼女は私の行く手を阻むように小走りで回り込むと、正対してきてこう言った。


「同業者ですよね?」



…。

ビンゴだった。

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