第10話 奇跡的に意識回復
碧海が倒れてから1週間がたった。以前意識は戻らないままだったが、もう急変することもないだろうということで、NCUから一般個室に移ることになった。
私は、死の淵をさまよっていた。ここはどこ?川の向こうで誰かが、こっちに来てはダメだと一生懸命私に言っている。だれ?おじいちゃん?おばちゃん?もしかしてここは三途の川?そうか、私あの時すごい頭痛とめまいがして倒れたんだ。お母さんと同じ頭の病気になってしまったのね。
『おじいちゃん、私が迷ったら困ると思って迎えに来てくれたの?』
『バカなことを言うな!まだ現世に未練があるだろう?やり残したことも。』
するとおばちゃんも、
『翔と翠にこのままつらい別れをさせるの?あんた母親なんだよ。こんな中途半端じゃダメだよ。』
それだけ言うと、二人は黄泉の国に帰っていった。
『碧海、碧海』『母さん、母さん』『ママ、ママ』
聞き覚えのある声が、耳に飛び込んできた。うっすらと目を開けると、颯、翔、翠が心配そうに私の顔を見ていた。
『碧海?わかるか?気がついたか?』
『颯、翔、翠』
すると、翠が
『ママーッ、俺頑張ったよ。ママに会えなくてもじっと我慢したよ。』
と大粒の涙を流して、私に飛びついてきた。まだ起き上がれないので抱っこしてあげることはできなかったけど、ギュッと手を握った。
私は翔にも声をかけた。
『翔心配かけてごめんね。ツーちゃんのお世話もありがとね。』
『俺全然心配なんてしてないよ。すぐに目覚ますって思ってたし。ちょっと外行ってくる。』
翔は部屋の外に出て行った。安心して一粒の涙がこぼれた。
『翔くん。お母さんの様子はどう?』
桜井部長がお見舞いに来てくれた。
『さっき意識が戻りました。』
『そうか、翔君も大変だったね。』
『はい、でもこれで安心して就職先に行けます。』
『そうだ、就職おめでとう。』
『ありがとうございます。』
『お母さんに会いに行ってくるよ。』
『はい、ではまた。』
和が病室に近づくと、子供の嬉しそうな声が聞こえてきた。
『ママあのね、それでね。・・・・・。』
『はいはい、ちゃんと聞いてるよ。ツーちゃんそんなにずっとお話ししてよく疲れないね。』
『だって、ずっとお話しできなかったんだもん。ず-っとママに会いたかったんだから。』
『翠ママ大好きだもんな。』
『うん。』と万面の笑みを浮かべた。
『あれ?桜井さん?』
颯が和に気がついた。
『結城どうだ様子は?』
私は急いで、帽子をかぶった。
『ご心配、ご面倒おかけしてすみませんでした。会社の方はどうですか?』
『なんとかやってるよ。白鳥は結城のようなわけにはいかないけど、明るさだけは100ワットだよ。』
『ですよね。』
すると、颯が
『碧海、子供たちと飯食って今日は帰るよ。』
すると翠が、
『えーっ、やだ。今日はここに泊まる。ママと寝るの!』
『だめだ。ここには泊まれないの。パパと帰るの。』
『ワーン、ワーーーーン、やだよぉ。』
『ツーちゃんごめんね。ママも一緒にツーちゃんといたいけど、ママまだおうちに帰れないの。だから明日またママに会いに来てね。』
『ちゃんと明日も起きてる?また会えなくならない?』
『大丈夫よ。』
『わかった。おりこうにする。また明日ね。』
『はいはい。明日ね。颯、お願いね。』
『あー、じゃあ明日。』
和と二人きりになった。私が、
『心配かけてごめんなさい。』
『ホントだよ。生きた心地がしなかったよ。』
そう言って私の手を握った。
『あの時和さんがいてくれなかったら、私は今頃どうなっていたかしら。』
『そんなこと考えたくもないよ。とにかく今はゆっくり休んで早く俺のところに帰ってきてくれよ。会社の方もお手上げ状態だ。』
『わかりました。』
その後は、持ってきてもらったPCでできる限りの仕事をこなし、仕事の話をして和は帰っていった。
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