純倫

碧海

第1話 ただの上司と部下だったけど・・・。

初めての出会いは13年前、私が28歳でこの会社に入った時のことだ。

『おい、現場の様子見せてやるからこっちに来い。』

それが、桜井部長と私の初対面だった。


どちらかというと、私にとって、桜井部長は苦手なタイプだった。

私の直属の先輩が本社勤務になり、わたしがその後を引き継ぐことになり、二人三脚で仕事をこなすことも増えていった。

前の上司が、おじいちゃんで優しかったこともあり、今度の桜井部長と仕事をすることにも不安だった。まして、前任者のことをとてもかわいがっていたので、そのあとを引き継ぐことにも心配の要素はあった。

私は、仕事に対してまじめに取り組む方で、曲がったことは自分の失敗であっても絶対許せない。そんな性格だ。それを人に対してもやってしまうので、まれにお客様とのトラブルになってしまうこともある。

『結城、これ以上こういうことがあると本社に報告しなければならないぞ!俺の手の内に留めきれなくなる。』

何度部長に怒られたことか…。おそらく、私の存在は目の上のタンコブ、そんな存在だったのでは。部長のご機嫌取りも容易じゃないなぁと思うこともあった。


もともと桜井部長は、今の部長職につくことに難色を示していた。現場一筋で仕事をしてきて、3交代勤務でずっと従事してきたので、管理職になると日勤のみになり、給料も若干減ってしまう。後で聞いた話だと、自分は部長をやりたくないから、部長職になる人を入れてくれとお願いしていたようだ。

しかし、前の上司が持病もあり、ドクターストップがかかり、すぐにでも退職しなければいけない感じになってしまったので、シブシブ引き受けた感じだった。


前の上司と違い、桜井部長は確かに事務方仕事が苦手で、私の前任者も結構手を焼いていた。文書を作るときなども、結構手直しもしていたし、前の上司が一人でやっていたことも、できないといって丸投げしていた。今ではそれを私が丸々引き受けた感じだ。私も最初は、自分でも仕事に慣れなくて大変だと思っていたけど、今では、それなりに私の仕事もかってくれて、それなりに頼りにしてもらえるようになってちょっとうれしいと思っている自分がいる。この間も、

『以前のお前だと、心配な面がたくさんあったけど、今は安心して仕事を任せられる。電話の応対も安心して聞いていられる。』と言われて、すごく嬉しくなった。

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