第55話 『消えたい?』
「
感情のこもらない声でラビは答える。まるで魂の抜けた人形のように。
なにかがおかしい。
「どうして? 羽瑠奈ちゃん、もしかしたら邪なるものに操られているんじゃないの? その可能性が一番高いんじゃないの?」
それが一番自然な答えだった。それならば納得ができる。
ただし、ネコ耳のカチューシャを落としてしまったので、それを確認することができない。
「
でも、ラビは肯定してくれない。
まるで機械のような返答だ。
「あれ?」
抜け道を行こうとして路地を一つ間違える。思わず袋小路に入ってしまった。
たしか奥の金網に破れた部分があったと思ったのだけど、もう一つ先の路地だったったようだ。
仕方なく前を向いて羽瑠奈ちゃんと対峙する。
「どうせ生きててもしょうがないんでしょ。友達すらいないこの世界になんの未練があるのよ」
彼女のその言葉はとても痛い。まるで心の傷口を抉られているかのような痛み。
じりじりと後退しながら、なんとか逃げる手段を考える。
「あ」
再び足がもつれたわたしはそのまま尻餅をついてしまう。
最悪だった。
もちろん、それを見逃す羽瑠奈ちゃんでもない。
彼女の口元が右側だけニヤリと吊り上がる。
突き出されるナイフ。
世界がスローモーションのようにゆっくりと動き、わたしは目を閉じた。
-『消えたい?』
本当にそう願うなら、この狂った世界から消え去ることは簡単だ。
ちょっと苦痛を味わうかもしれないが、ただそれだけで願いは達成できる。
-『消えたい?』
そうすれば楽になれる。もう何も悩む必要はない。生きる苦しみも、灰色の未来も知らずに済む。
けど……わたしはいつも消え去ることを拒絶していた。
なんでだろう?
これほどまでに世界に絶望しても、希望すら掴めなくても、それでもわたしは消えたくない。
だから、無意識のうちに心の底から叫んていた。
「助けて!」
それは生への渇望だった。
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