第35話 「なんか詐欺師みたい」
「うふふふ……まあ、
「え?」
羽瑠奈ちゃんの言葉の意味が理解できない。
「ごめんごめん。あまりにも簡単に引っかかったから……うん、まあ、ありすちゃんぐらいの人じゃないと引っかからないというのがそもそも問題なんだけどね」
いま、なんか失礼な事を言われたような気がしたけど、気のせいだと思うことにしよう。それともわたしの立場が不条理になるゲームなのかな?
だんだん顔が引きつっていく。
「え? どういうこと?」
「チェシャ猫とシュレディンガーの猫との共通点ってのは、どちらも『架空』であること。あとはどちらも『猫』というだけ。それ以外に共通点なんてないわ」
「だって、二重の存在が……」
羽瑠奈ちゃんにそう誘導された。
「いい? チェシャ猫の消えても残るニヤニヤした笑いってのは、ある種の残像現象とも考えられるのよ。強い光を受けた時、目を瞑ったり視線を移してもその光は残るでしょ。あれをファンタスティックに演出したのがチェシャ猫の笑い。一方、シュレディンガーの猫は、ボーア的にはまぎれもなく二重の存在よ」
要するにわたしは、もっともらしい話に惑わされて、理解してもいないのに納得してしまったわけだ。
「……もう、いじわるだなぁ。だとしたら、夏目漱石の『我が輩は猫である』の猫の方が、シュレーディンガーの猫との共通点は多いよ。どちらも『架空』だし」
「名前はまだない」
「うにゅ」
先にオチを言われてしまう。
「でも、シュレディンガーの猫の話って興味深いでしょ。不条理さにおいてはティーパーティーに相応しい話題だと思うけどな」
「けどさ、羽瑠奈ちゃんの話だと二つの猫はさも関連が強いみたいな言い方だったから」
「私たちが行っているのはね。ただの言葉遊びなの。一見まったく関係の無いものでも、表面上は関連している部分はあるし、無くても無理矢理関連させることもできるの。それを見つけて遊んでいるだけ」
彼女の口元が微妙に吊り上がる。無理矢理関連させるという言葉が引っかかった。
「むう……なんか詐欺師みたい」
「言葉なんてそんなもんだよ。そうだ、これはシュレディンガーの猫の話の続きなんだけどね。さっきは『二重の存在』って事を言ってたでしょ。でも、いくら科学だって、そんなへんてこな事実を放置するわけがないの。あの話の続きは知ってる?」
「続き?」
シュレーディンガーの猫は、話として面白かったから興味を持っていただけ。当然ながら量子力学の理論を完全に理解しているわけではなかった。
「そう。猫の生死は蓋を開けることによって確定される。つまり、観測者が状態を決定するの。この観測者って概念を覚えておくと、もう一つ面白いものとの共通点が見つかるの」
「また謎かけ?」
「例えばある連載小説の主人公Aが物語の山場、最終回の一つ手前の話で生死の危険に晒されるの。連載だから今回読めるのはそこまで。後の展開は作者の頭の中にしかありません。さて、この状態は何かに似てない? あ、商業作品だから物語の内容は担当と打ち合わせ済みとか言うツッコミはなしね」
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