第28話 「あら、今日は新風ですか?」

「ええーん、遅刻するー!」

 わたしは、人通りの極端に少なくなった通学路を疾走していた。

 いつもなら登校する生徒で溢れる銀杏並木の道にはほとんど人の姿は見えない。

 昨日、夜遅くまで書いていた小説が災いして寝坊してしまったのだ。

 思いの外に筆が進んでキリのいいシーンまで書いていたところ、普段の就寝時間を三時間も上回ってしまったのが原因。おまけに無意識のうちに目覚ましを止めてしまったらしい。

 今まで無遅刻無欠勤を貫いてきただけにかなり焦っている。

 もちろん朝食は抜きで洗顔さえ満足に行われていない。

 いつもなら待ち合わせをしたナルミちゃんやミサちゃんと一緒に登校するのだけど……さすがに遅刻スレスレの時間まで待っていてはくれなかった。


 なんとか生活指導の先生方の並ぶ校門をギリギリの時間で通過して、急いで上履きに履き替えると階段を一気に駆け上がる。

 角を曲がって、二階の突き当たりが自分の教室である二年C組だ。

 扉を開けて挨拶。

「はぁはぁ……おはよう!」

 その一声が限界だった。体力を使い果たしたわたしはそのまま床へぺたんと座り込む。

「おはよ。おいおい、大丈夫か? ん?」

 ミサちゃんが駆け寄って肩を貸してくれる。わたしはそれに掴まりなんとか自分の席に座ることができた。

 既に着席していた成美が振り返る。

「ごきげんよう、アリスさん。あら、今日は新風ですか?」

「へ?」

 そう言われてようやく気付く。朝起きてから、髪を何もいじっていなかった。三つ編みを止めるゴムさえ忘れてきてしまっている。

「ブラシぐらいならお貸し致しますわ。そうですね、おでこを出したいつもの三つ編みも正統派でよろしいですけど、今日のナチュラルな髪型も魅力的ですわね」

「ありがとう。借りるね」

 手渡されたブラシでわたしは急いで髪を梳く。三つ編みにしていないので、髪が撥ねていないか心配だ。

「ついでにカチューシャもお貸し致しましょうか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る