第20話 「あちらにネコのぬいぐるみがありますわ」

―「今日の放課後は絶対空けておいてね」

―「休み時間はうちのクラスに絶対遊びに来てね」

―「来週の日曜日も一緒に遊びに行こうね」


 朝の登校時や放課後だけではなく授業の合間の休み時間まで足を運んでくる。

 そんな彼女の行動は、幼いわたしにとって重荷にしかならなかった。

 もちろん彼女の事は嫌いじゃない。だから、できる限りは受け入れてあげよう、そう思っていた。

 ある日、ナルミちゃんやミサちゃんに相談したところ『一緒に遊べばいいじゃないか』と、単純な解決方法を提示してくれた。

 今まで、どちらかを選択するような方法をとっていたわたしにとって、それは目から鱗が落ちるような名案だった。

 早速キョウちゃんにその話を持ちかける。

 人見知りの激しい子だけど、説得が効いたのか、期待半分不安半分といった表情で頷いてくれたのであった。


 日曜日にわたしとミサちゃんとナルミちゃんとキョウちゃんの四人で待ち合わせをして学校の近くにある少し広めの公園に向かう。そこで開催しているフリーマーケットを観るのが目的だった。

 最初は警戒して口数の少なかったキョウちゃんだけど、ナルミちゃんやミサちゃんの誰とでも分け隔てなく接する性格のおかげで次第に馴染んでいった。

「キョウちゃんさん、あちらにネコのぬいぐるみがありますわ。とてもかわいらしいと思いませんか」

 愛称の『キョウちゃん』にまで『さん』を付けるところがナルミちゃんらしくもある。とはいえ、旧来の友人のようにあの子を扱ってくれていたのはとても嬉しく感じられた。

「あ、本当だ。うん、かわいいね」

 ナルミちゃんが笑いかけ、それに対して最初はぎこちなく笑みを浮かべていたあの子も、しばらく経つと完全にわたしたちに馴染んでいるように見えた。そして、時々満面の笑みを浮かべる。

 わたしはそんなキョウちゃんを見て安心してしまった。

 だから気が緩んでしまったのだろう。


 帰り道、ふと明日の宿題の事を思い出しナルミちゃん。その話を振ったところから歯車が狂い始めた。

「アリスさんも慌て者ですね。明日は算数の授業はございませんよ」

「そうだよ。明日の三時間目は体育だって」

「水泳の授業でしたわね。そういえば葛西さんも張り切っていらっしゃったわ」

「葛西さんは、小学校に入る前からスイミングスクールに通っていたらしいよ」

「だったらあたしも負けらんないね」

 宿題の話題から明日の授業、続いて水泳、クラスメイトの話題と三人だけで盛り上がる。

 ふと我に返って気付いた時、キョウちゃんは数メートル後ろをとぼとぼと歩いていた。その表情には疎外された事による悲しみで溢れていた。

「あ、キョウちゃんごめん……」

 急いで駆け寄って話かけるものの、それは逆効果であった。わたしの顔を見た途端、泣き出してしまい、そのまま逃げるように走り出していった。

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