第六章【日常と過去と痛いキモチ】
第19話 「わたしの方が前から約束してたじゃない」
とても痛かったことを覚えている。身体の痛みなら我慢すればいい。
でもわたしにとって、その心の痛みは耐え難いものだった。
うっすらとして霞のようになってしまったあの頃の記憶。
忘れたい記憶を無理矢理封じ込めた結果がこれだ。
そんな事だから時々夢を見てしまう。
罪の意識に苛まれ、夢の中では霞んでしまっているあの子の事を。
「タネちゃん帰ろ」
そう呼ばれて振り返る。そこにはわたしと同じ、三つ編みのお下げ髪の女の子が立っていた。
大親友だとわたしは思っていた。
学校ではいつも一緒にいて、放課後も同じ時間を過ごした。
三学期の終了日に交わした言葉が蘇る。
あの子と同じクラスでいられた最後の日でもあった。
「学年上がっても、またキョウちゃんと同じクラスになれるといいね」
わたしは心の底からそう思っていた。
『キョウちゃん』と呼んでいたあの子もわたしと同じ心境だったのかもしれない。
転校してきたあの子に初めて声をかけた小学四年生の冬。それから二人の時間はずっと一緒に流れていくのだと思い込んでいた。今思えば幼い考えである。
だから新学期になって学年が上がり、クラス分けの発表を見た時、わたしはどうしてあの子の名前が同じクラスに見つからないのだろうかと、ずっと探し続けていた覚えがある。
ショックは大きかった。
でも、離ればなれになるわけではない。同じ学校なのだから、授業中以外は会うことも可能だし、放課後になれば以前と変わりなく二人で遊びに行くことができるのだ。二人は前とあまり変わらない生活であることを願い、そしてその事に納得したつもりだった。
ところが、新学期が始まるとわたしの周りにも徐々に変化が訪れてしまう。
一番の変化はクラスメイトとなったナルミちゃんとミサちゃんとの出会いだった。
おっとりしているが芯の強いナルミちゃんと、行動力があって情に厚いミサちゃん。この二人と仲良くなるのにそれほど時間はかからなかった。
そうしていつの間にか、ナルミちゃんやミサちゃんたちとのクラスメイトと過ごす時間も大切になってしまったのだ。本来なら、それはとても自然な事。
けど、大親友のキョウちゃんは、その当時のクラスメイトとの交流をあまりよく思っていなかったみたい。
自分以外の友達と親しくする事に対し、不機嫌そうな態度を取るばかりだった。
「タネちゃん。わたしよりクラスの子を優先するの?」
「……」
「わたしの方が前から約束してたじゃない」
「そうだけど……」
「あっちに行って遊ぼうよ」
キョウちゃんの気持ちは痛いほどわかった。
まだ親しいクラスメイトはいなかったのだろうし、心細く思うあの子がわたしを頼るのは当然だと思う。
だから、その場の情に流されてしまう。
優柔不断な、クラスメイトと親友を天秤に掛けるような、どっちつかずの返事で言葉を濁す日々が続いてしまった。
……それはとても悔やむべき事。そしてそれはわたし自身の罪なのだ。
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