第17話 「うそ? 喋るのコレ?」

「にゃ?」

 振り返ったわたしは仰天する。

 そこには自分と同じくらいの年頃の女の子が、こちらを不思議そうに眺めていた。

 はっと我に返ったわたしは急いでカチューシャを外そうとするが……。

「そのネコ耳……」

 視線はすでに頭部に降り注がれていた。逃げる場所も隠れる場所もありはしない。

「……ねぇラビ。泣いていい?」

 右手に握るラビにわたしはそっと告げる。

「コスプレ? それなんのキャラ?」

 そう呟いた少女と目が合ってしまった。トドメを刺されたように心臓が止まりそうになる。

「……えーん、悲しすぎて涙が出ないよぉ」

 目の前が真っ暗になった。

 そして、頭の中は真っ白だった。

 一般人に目撃されるのは何度目だろうか?

 これで近所の人に噂されるのだろう。頭のおかしなネコ耳を付けた女の子がうろついていると。そのうち話は歪められ、小学校では怪談話として盛り上がるのだ『怪奇! 人面ネコ』と。いや、普通にネコ耳付けた人間なんですけど!

「あれ? そのぬいぐるみ」

 少女の視線がわたしの右手に持ったラビへと向かう。それは予期せぬ言葉だった。

 なぜなら、通常の人間にぬいぐるみラビが見えるはずがない。

「へ? 見えるの?」

 右手に注がれていた視線が再びわたしに向く。少女と再び視線が交差する。立ち上がってみると背丈はわたしと同じくらいだろうか、顔立ちは整った美少女。ただ、衣服はかなり人目を惹く格好であった。

「それ、ウサギのぬいぐるみだよね?」

「ウサギではない、我が名は【◎&$=#@~?><!】である」

 少女の問いかけにホワイトラビットは怒声で反応する。けど、その存在が見えていることは確かだった。

「うそ? 喋るのコレ?」

 わたしは驚いて口をぽかんと開けたままだった。それはそうだ。普通の人には視認できないラビが見えるばかりか、その声まで聞けるのだから。

「そうね。腹話術にせよ。口を開けたままじゃ少し無理があるかもね」

 彼女は一人納得しているようだ。

「我が見えるとは素晴らしい。あと三日早く汝と会いたかったものだ」

 ラビが喋って驚いたのは初めの一瞬だけであった。あとは怖がることも逃げ出すこともなく、少女はにっこりと笑みを浮かべながら前に立っている。

「ちょっと待って。あなたは驚かないの? こんなぬいぐるみみたいな物が喋るんだよ」

「うん、不思議だと思うけど、それほど驚く事じゃないと思うよ。だって、すごくファンタスティックじゃない」

 彼女もわたしと同類のようだった。

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