宝瀬先輩とお付き合い

 香苗さんに事情を説明し無理ということを伝える。


 そしてその日の夜、携帯に電話がかかる。


「嘉神君?」

「はい」


 宝瀬先輩である。


「あの……病院でしたお願いの件なんだけど」


 ああ。一回付き合いをしろと。


「いいですけど、あんまり高価なのはやめてくださいね。俺は貧乏学生ですから」


 年収十兆を超す大財閥宝瀬の後継者である宝瀬真百合に高いものは無理という俺。


「分かっているわ。出費はすべて私持ちよ」


 おお。


 ん?今誰かヒモって言わなかったか?


「どうかしら? 明後日と明々後日は忙しいそうだから頼んだのだけどもし用事があったら……」

「いえ。大丈夫ですよ。集合場所はどこにしますか」

「私から嘉神君の家に行くわ」

「そうですか。じゃあ、何時くらいに?」

「9時でどうかしら?」

「分かりました。ではまた」


 俺は電話を切る。


 ん?待てよ。何で宝瀬先輩俺が明後日と明々後日用事があることを知っていたんだ?


 義姉と義妹に会いに行くことを早苗や時雨はもちろん誰にも話していないんだが。


 ま、いっか。





 そして翌日


 朝早く起きすぎた。


 多分昨日のギフト……じゃなくシンボル連打のせいだ。


「おい」


軽くジョギングしようと外に出たら宝瀬先輩はすでにスタンバイしていた。


「おはよう。早かったわね。早めに待っていてよかったわ」

「今何時か分かりますか?」

「5時よ」


 そう。そして待ち合わせは9時だ。


「えっと……もう少し待ってもらっても」

「分かったけれど、あなたの家で待っていたらダメかしら?」

「駄目ですね」

「………」

「いや、泣きそうな顔しないで下さいよ。ちゃんとした理由があるんですって」

「何かしら」


 前に早苗を招き入れたときは安全な日と言ったが今日は危険日なのだ。


「俺ん家、もといこのアパート全般に幽霊が出るんですよ」

「………え?」


 知らなかったようだな。


「どうしても入りたいのなら止めません。そのかわり寿命は半分になればいい方だと思ってください」

「それは本当なの?」

「はい」


 宣言しておく。本当だ。


「どうしましょう。入りたいでも入ったら怖いわ」


 うーん。


「分かりました。招待します。ただし絶対に俺の言うことを聞いてくださいね」

「分かったわ。脱げばいいのよね」

「突っ込みませんよ」


 玄関前までは大丈夫。


「13段だったわね」


 階段の段数を数えなければ。


「………はあ」

「どうしたの?」


 今宝瀬先輩の後ろには首のない斧を持った男がいる。


 この場合の対処法は………


「ちぇすと」


 股間を蹴る。


 よし、吹き飛んで消えたな。


「入る前に注意です。この家の持ち物勝手に取らないでくださいね」

「……分かったわ」


 ものすごい残念そうな顔だ。


 俺は扉を開ける。


「え?」


 宝瀬先輩は驚いた。


 目の前に子供がいたからだ。


「………ゴハンマダ?」

「………」


 この程度で青ざめたら後が大変なんだが。


 取りあえず


「よしよし」


 頭を撫でる。


「ご飯は台所で用意するからね。そっちで待ってて」

「ウン」


 そそくさと去っていく。


「入るときは右から靴脱いでくださいね」

「分かったわ。因みに左足から脱ぐとどうなるのかしら」

「右足持ってかれます」

「…………」


 いやいやマジで。


 危なかったんだよ。


 一回間違えて左足から脱いでしまって切られたことがある。


 その時は力技で奪い返した。


 ヒントは鬼人化オーガナイズだ。


 なんとあのギフト霊体にも効果があるらしい。


 流石は鬼だな。


「ねえ。気になったのだけどこういう家ってお札とか貼っているものじゃないのかしら」

「さすがですね。そこに気づくなんて」

「何か理由があるのね」

「はい。語るも涙。聞くも涙の話があります」

「聞かせてもらおうかしら」

「母さんの趣味に合わないそうです」

「…………」

「なんでも入居してすぐ『こんなの日常的に見てたら頭おかしくなる』という理屈で全部はがしました」


 当時はまさか本当にいるとは思っていなくて止めはしなかったのだがまさかここまで居るとは。


「なんでも大家である九曜さん陰陽師の一族らしくてそれでこのアパートを経営してるんですって」

「取り壊したらどうなるのかしら」

「一応あったらしいですけどねそういう話。オチは聞きたいですか?」

「いいえ。何となく分かるわ」

「まったく、母さんは自分が見えないからいいことに酷い話ですよね」


 入居して数日はガクブルだった。


 一週間で慣れたが。


「扱い方を間違わなければいいやつですよ。大体は」


 ただ夢に干渉する奴はやめてほしかったかな。


 あれ眠った感覚にならないから疲れが取れないんだよ。






「結局どこに行く気ですか?」

「あなたの行きたい所」


 自分で考えていなかったのかよ。


「そうですね、一つ見てみたい映画があったんですよ」

「そう。じゃあそれにするわ」


 ただ時刻はまだ六時。


 何処も店は開いていない。


 仕方ない。時間を潰すか。


「先輩ってギフトホルダーですけど、ご両親のどちらが?」

「お父様よ。加速度栄クロックアップという最大百倍速まで動ける能力だわ」


 なるほどな。


「つまり先輩は父親似何ですか」

「………いいえ。間違いなくお母様に似たわ」

「どんな人ですか?」

「…………あまり思い出したくないわね」


 もしかしてすでに亡くなったのだろうか。


 だったら悪いことを聞いたのかも。


「いいえ。お母様はまだ生きているわ。精神病院に入院しているだけよ」

「………」


 ある意味もっと酷かった。


「嘉神君。ちょっと長くなるけど聞いてくれるかしら」

「ええ。いいですよ。時間はたっぷりありますし」

「ありがとう。宝瀬財閥って長い時間繁栄しているけれど、その繁栄の仕組み知っているかしら?」

「いいえ。知りません」


 そんなこと知っていたらいま日本は超ハイパーインフレになる。


「150年以上前から仕組みは同じ。ずっと同じ仕組みで宝瀬財閥は成り立っているわ」

「へえ。その答えは?」

「優秀な遺伝子を宝瀬家に取り入れること」


 他力本願じゃないか。


「宝瀬ができてから7代は続いているのだけど常に最初の子供は女だったわ」

「それは……ただの偶然でしょ」


 2分の1の7乗。


 128分の1だ。


 その程度5万といる。


「そうね。確かにその通りだわ。でもその女がいい男を引っかけてその結果繁栄しているのだから、偶然で片付けるのはちょっと早計よ」

「もしかしてですけど、先輩が博優にいた理由って」

「そうよ。宝瀬家の決まりで博優学園にいたのは勉強のためでも鍛錬のためでもなくて男を引っかけるため」

「………!」


 でも宝瀬先輩彼氏いなかったよな?


「宝瀬家最大の天才と言われた私だけど結局は宝瀬なのよ」

「最早……呪いですね」

「そうね。嘉神と同じ。呪われた一族だわ」


 親戚や祖父の存在を知らない俺は嘉神のどこら辺が呪われているか分からない。


「知ってる?宝瀬の女に好かれたら成功と性交は約束されるって格言」

「知らねえ」


 初めて知った。


 絶対それ今作っただろ。


「宝瀬という苗字は奉仕から来ているらしいわ」

「………」

「愛した男に仕える。恋愛に全てを捧げる。それが宝瀬」

「大変ですね。先輩も」


 お金持ちにもお金持ちなりの心配があるということか。


「そして何より不幸なのは『愛した男に永遠の成功は約束されるけれど、その愛した私たちには幸せが訪ずれるわけではない』ということよ」

「え?」

「例えば曾祖母に夫はいない。でも娘はいる。意味は分かる?」

「……愛人?」

「そうね。その通りよ。宝瀬の半分は配偶者不明とされているわ」


 よくそんなので成り立っているな。


「そう考えるとお母様は幸せだわ。結婚までこぎつけたのですもの」

「それで、先輩は」

「私なんて論外よ。想いを伝えることすら出来ないままでいるのよ」


 まじか、宝瀬先輩に想い人なんていたのか。


 全力で応援しないとな。


「…………我ながら難儀な恋をしたものね」


 宝瀬先輩は深くため息をした。





「それじゃあ結局先輩の夢は何ですか?」

「昔は、一人で宝瀬を捨ててキャリアウーマンだったわ」

「今は?」

「野球かしら」


 野球選手になりたいのか?話が全くつながっていない。


「子供を作ってその子供たちとドーム貸し切って野球がしたいわ」

「9人?」


 いや、7人か。夫婦でやるという意味だろうから。


「いいえ、合計9人だと野球できないわ。最低18人は必要よ」


 予想の斜め上を言った。


 ていうか18人も子供を作るとなると180か月、つまり15年かかる。


 ずいぶんと長い夢を持ったものだ。


 と他人事のように考える俺だった。






「………嘉神君、本気なの?」

「本気ですよ」


 俺が見たかったのは『ザ・スプリング』というB級ホラー映画だ。


 さっき散々幽霊見たんじゃないかと突っ込みが来そうだが、野球しているのに野球映画を見るのはおかしいという理屈は無いだろう。よって見ても問題なし。




劇場には誰もいなかった。俺達二人だけである。


 開始三分で


「きゃっ」


 と悲鳴が。


「先輩ってこういうの苦手なんですか」

「ええ。昔は大丈夫だったけど最近はちょっと」


 そうだった。


 この人数千回も死んだことがあったんだった。


 だったら配慮が足りなかったかな。


 反省した。


「先輩。トイレ行ってくるんで一人で待っててもらえます?」


 涙目で首を横にふる


 やっぱ先輩はこういう時が一番輝くな。


「きゃああ」


 先輩が俺の方に抱きつく。


 うん。


 これ普通だったら萌えポイントなのかもしれないけど俺の場合は


「…………(回廊洞穴クロイスターホール)」


 ドリンクの氷を先輩の背中に


「ひゃっん」


 いい声を出したな。


 やっぱ回廊洞穴クロイスターホールが一番いいギフトだ。


 戦闘においても日常においても。


 結局俺は映画そっちのけで先輩弄りに全力を尽くした。






 映画が終わった後、そこそこ高級なレストランで飯を食った。


 その時の会計で


「カードで」


 ブラックカードを差し出す先輩。


「申し訳ございませんがこちらのカードは当店ではご使用できません」

「だったら」


 もう一枚のブラックカード。


「………はい。分かりました」


 店員ドン引きだった。


 そして俺も引いている。


 この人何種類のブラックカード作ってるんだ?


 聞いてみるか。


「宝瀬先輩、いくつカードを持っているんですか?」

「五種類よ。全部ブラックだけど」


 ブラックカードに種類があることを初めて知った。


「嘉神君も作る?」

「いや。あれ最低年収一千万以上で、しかも向こうから連絡と作れないでしたよね?」

「え? そうなの? 作れって言ったら普通に発行してたけど」


 流石は宝瀬。ブラックカードですら支配下に置いている。


「多分私が言ったら嘉神君のカード作れるけどどうする」

「遠慮しときます。月小遣いが三千円な人間がいきなりブラックなんて身の程が過ぎます」

「でも仮に私と結婚すれば一日に上限分使うことができるわよ」


 ブラックカードに上限なんてあるのか。


 一体いくらだ……


「それで次はどこに行きたいですか」


 時間はまだある。もう少しいいだろう。


「そうね……そういえば買いたいものがあったわ」

「買い物ですか。断る気はないんですけど、なんで女の人って一人で買い物しようとしないんですかね。荷物持ちが欲しいなら通販使えばいいですし」


 世界七不思議に登録されそうな勢いなのに。


「出来れば嘉神君に選んでほしいものがあるの」


 そうか。


 別断る理由はないからな。






 タクシーで高級デパート店に移動する。


 そして選んでほしいものとは


「「「………」」」


 下着だそうです。


 当然のことながら周りには女性しかいない。


 男は俺だけ。


 答え。死ぬ。


「嘉神君はこのスケスケの白と、下着として役に立っていなさそうな黒どっちが好みかしら?」

「………」

「試着してみて決めた方がいいかしら?」


 俺は何度も首を横に振る。


 やめて。ここで俺を一人にしないで。


 俺は慌てて


「先輩は下着なんかつけるよりこっちを付けた方がいいですよ」


 たまたま見つけたものを差し出す。


「これは………首輪?」

「チョーカーです」


 何でこんなところにこんなのがあるんだろうか。


「分かったわ。待ってて」


 先輩はそのまま更衣室へ。


 何も分かっていないじゃないか。周りの視線が本当に痛い。


 五分後


「どうかしら」


 提案した俺がびっくりするほど似合っていた。


 何これ。これがデフォルトなんじゃないのと思うくらいに。


「とっても似合っていますよ」

「ありがとう」


 一度はずす。


 今思ったんだがチョーカーの付け外しくらいなら更衣室使わなくてもいいんじゃないか。


 値段は俺の一か月分の小遣いだったので


「買いましょうか?」

「………そうね。あえてお願いするわ」


 俺はチョーカーをレジに持っていく。


 本気で周りの視線が痛い。


「はい。どうぞ」


 手渡す。


「お願いしたいのだけど、嘉神君がつけてくれないかしら」


 別に断る理由はない。


 言われた通りにつける。


 やはり似合っているな。


「どう?」

「似合ってますよ。とっても」


 それに何故か色気がある。


 明らかにチョーカー以外の理由がある気がするが俺には分からん。


「私もお礼に何かをしたいのだけど」

「そうですね……俺も服がいいですかね」


 なお先輩はチョーカーだけで満足した模様で下着類は一切買っていない。


「Yシャツのことかしら」


 おお。早苗からはおかしいと言われたが先輩は分かってくれるか。


 でも俺常に私服がYシャツだと一度も先輩に話したことが無いんだが……まあ別にどうでもいいか。


「お願いできますか」

「ええ。最高のものを用意させるわ」


 どうやらオーダーメイドで作らせる気のようだ。


「因みにどういうものを?」

「工場一個」


 スケールが違った。


「当然オールジャパンで作らせるわ。それも最高品質の」


 おお。それは楽しみだが


「そんな赤字確定のことしなくてもいいですよ」


 工場一個を一人のために上げるのは如何なものか。


「例えばの話だけど缶ジュースの原価が十円も無いのはみんな知っている事実だけどそれでも売れるのは、こちらの損失を無視しても手に入れたいものがあるからなのよ」


 どうやら先輩には先輩の考えがあるようだ。


 こういう経済学は俺の専門範囲外だ。


 よって考えない。


「他にどこか行きたい場所は」

「………商店街」

「商店街ってあの」

「ええ。一度も言ったことが無かったから食べ歩きとかしてみたいわ」


 おお。お嬢様らしい。


「でもあそこカード使えませんよ」

「大丈夫よ。手持ちに百七十万あるわ」

「持ちすぎでしょ」

「財布には年齢×十万が一般常識でしょ」


 そんな一般常識知らん。


 とりあえず金の心配が無いのは分かった。


 そうと決まれば善は急げだ。






「コロッケ二つ」

「あいよ。もう一つおまけだ」

「いや、そこはもう一個」

「わかってないねぇ。最後の一個は二人で食べるんだよ」


 とこんなやり取りをしているが先輩は元気ない。


「……腕組んでもいいかしら」

「別構いませんけど?」


 周りの視線はあれだが。


 宝瀬先輩のバストサイズはFなので腕を組んだ時に柔らかい感覚が伝わる。


 だが安心しろ。胸なんかで興奮するほど俺は変態じゃない(キリッ)


 俺は落ち着いて宝瀬先輩の胸元を覗き見る。


 覗き見る。


 覗き…………あれ?


「(ブラをしていない?)」


 馬鹿な!昼間確認した時(そして黒)はちゃんと身に着けていたはず!


 俺は気になって聞いてみることにした。


「先輩。下着どうしたんですか?」

「脱いだわ」

「え?」

「だって嘉神君が『先輩は下着なんかつけるよりこっちを付けた方がいいですよ』って言ったから」


 俺は思い出す。


 先輩がチョーカーつけるのに更衣室を使っていたことを。


 そしてやけに時間がかかっていたことを。


 ……………確かに言った。


 言ったのは認めるよ。


 でも普通脱ぐか?


「じゃあもしかしてパンツも?」

「ええ。脱いでいるわ」


 先輩は白のワンピースでスカートの丈は短めだ。


 それこそ屈んだら見えてしまいそうなくらいに。


 俺は黙ってお尻を触る。


 下着を触った感覚はない。


「ひゃっん」


 嬉しそうな悲鳴を上げる。


 何だ。もしかして先輩、変態なのか?


 いやまさか。冷静に考えてみろ。


 この人は宝瀬の人間。世界でも有数のエリート中のエリートだ。


 そんな人間が好き好んで露出プレイなどするだろうか。いやしない。


 仮にあったとしてもそんなのはフィクションの中で十分だ。


「おい聞いたか」

「変態よ汚らわしい」

「最近の若いやつは………けしからん」


 そして周りに聞かれている。


「嘉神君……」


 先輩は更に強く俺の腕を組む。


 言っておくがこれ明らかにあんたの過失だからな。


「そこの彼女、オレたちと一緒に遊ばない?」


 ふと、後ろから声が。


 見るとガラの悪そうな連中が三人。


「というよりオレも混ぜてよ。そのプレイ」


 どうやら新手のプレイと間違われているようだが


「うるせえ。ごみカス共は一人でセルフフ〇ラでもしてろ」


 俺はこういうやつが大嫌いなんだ。


「ああ?てめえオレを誰だと思っている?」

「ごみカスって言ったのが聞こえなかったのか?」


 質問を質問で返すのは良くないことだが、答えを一度言っている以上は素直に答える義務はない。


「こいつ!」


 口より先に手を出した時点で負け確なのだが、


反辿世界リバースワールド


 俺が対応するよりも早く先輩がギフトを使う。


「うわぁお」


 前に彼女から世界を止めることができると聞いていた。


 初めて見るがこれが止まった世界か。


 全ての色が反転している。


 赤が緑に。青が橙に。黒が白に。


色彩感覚が狂いそうになるが


「やっぱり嘉神君も動けるのね」


 どうやら俺も反辿世界リバースワールドを持っているためか、止まった『世界』を動けるようだ。


「大体何秒ですか?」

「昔だったら10秒だったけれど、今は20秒よ」


 わーい。いろいろできる。


 折角だからこいつを辱めようか。


 俺は鬼人化オーガナイズで服を破く。


 服のくせに硬かった。


 どうやら反辿世界リバースワールド中は、物質がある程度硬くなるらしい。


 まあいい。


 下着姿にしてやった。


 そして20秒経過。


「どりゃあ。あれ?」


 残念ながら拳の先に俺はいない。


「あらよっと」


 後ろから穴を蹴り飛ばす。


 前のめりに倒れた。


「先輩。次は何秒後ですか」

「あと5秒よ」


 解除から5秒後の発言。つまり一度止めると次に止めるのに10秒かかるらしい。


 俺は子分格を捕まえて5秒まで待つ。


反辿世界リバースワールド


 そしてまた脱がしてやった。


 一度経験したので一人十秒で終えることができた。


「きゃあああああ。変態よおおおお」


 誰かが叫ぶ。


「くっ、覚えてろ」


 こいつら一体何しに来たんだろうかと思うくらいのワンサイドだった。


「あ。今思ったんですけど反辿世界リバースワールド使えば無かったことにできるんじゃないですか」

「それもそうだけど、一度それを使ってしまったらしばらくは使えないから遠慮したいわ」


 確かに先輩はそのギフトのせいで何千回と死んだのだから遠慮したいのだろう。




 この後も色んな所に行ったのだが下着を履かせ忘れていた。




「ありがとう。今日は楽しかったわ」

「そう言ってくれると幸いです」


 少しでも彼女の気休めになれたのだろうか。


「ねえ。次もまたいいかしら」

「いいですけど、何も買えませんよ」

「分かっているわ。全て出費は私が持つから安心して」


 それは安心だ。


「次は今度の水曜ですか」


 ゴールデンウイーク明けだ。


「そうね。それまで会えないのよね」


 なんか悲壮感たっぷり。


「さみしかったらメールしてもいいかしら」

「構いませんよ」


 そうして俺は彼女と別れた。




 夜中のジョギングから戻って携帯を見てみると


「何これ」


 メールが百件近く届いていた。


 しかもすべて宝瀬先輩から。


 内容は……あえて伏せておく。


 ただホラー耐性Exの俺の背筋が凍り付くような感覚を覚えてしまった。


 一つ一つ返信して全て終わった時、26時を過ぎていた。




 眠い。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る