マグナセイバーズ
来真らむぷ
pro:log...
文句の一つも言ってやりたかった、のに。
いつだってそうだ。ここに来るまでの間、いつも言ってやる文句ばかり考えているのに。
辛うじて人の影も見て取れていた道から、わざと外れると、少しずつ一帯は鬱蒼と茂る森へと変わっていく。
道と呼べるような道はなくなり、自分で踏み抜いていった足跡が結果的に道というものを形作っていく。緑ばかりの空間の中で、比較的目立つ樹に更に目立つ赤い紐が結ばれている。
短い間隔で同じように木に据え付けられているそれを目印に、ひたすら進む。
直射日光の少ないせいでひんやりとした森の中も、蝉の鳴き声のシャワーを浴びながら歩いていると額がしっとり汗ばんでくる。そうして十分以上歩き続けると薄暗い辺りが次第に光を得ていき、
――
森の中にぽっかりとあいた空間に堂々そびえる巨大な大木の根元、そこに不自然に置かれた大石。
昔、これをここに置いたときはそんなつもりで置いたんじゃなかった。
きっとあの人がひょっこり戻ってきたときに面白くない冗談だと憤慨しながら、頭をはたいてくれるんじゃないかっていう期待、
「期待、じゃないな」
そう、どちらかといえば、
「願い。かな」
淡い願いとは思わなかった。絶対に叶う願いだと信じてやまなかった。そんな願いをこの石には込めた。でも、
「なんで……かなぁ」
その石の前まで歩み寄って座り込む。遠くから風が草木を撫でていく音を聞いた瞬間、肌でも風を感じた。頭上の枝葉が揺れ、合間を縫って落ちてくる陽光を万華鏡のように錯覚させる。
まぶしさに目を細めながら、
「……7年だよ」
誰かに語りかけるように、
「知ってる? 人が行方不明になって、7年経つと、法律で、その人死んだってことにできるんだって」
瞬の声に反応するものはいない。ただじっと石は静かに聞き入るだけだ。
「笑っちゃうよね。誰もこの目で見て確かめたってわけじゃないのに、さ」
百聞は一見にしかず、とはいうものの、たとえ百回聞いたって、千回聞いたって、何万何億回だって、自分の目で見ない限りは絶対に信じたくなんかない。
「おじさんもおばさんもさ、かわいそうだけど諦めなさい、だって」
手を置けば、石の肌はひんやりとしていた。
「いったい……どこへ行っちゃったんだよ」
握りしめた手が震える、噛みしめた唇からしみ出た血が口に広がる。抑えきれない気持ちは目尻からあふれ出てしまいそうで、上を向いて目を強くつぶることでどうにかこうにかこらえようとする。
ひょっとしたら我慢する必要なんてないのかもしれない。この場所はあの人と自分だけの秘密の場所で、他の誰かが来るような場所じゃない。だけど、こんなカッコ悪い姿をさらすわけにはいかないのだ、それだけは、せめてもの瞬の
腹の底から絞り出すように、
「もう一度、会いたいよ……ッ」
その時、
瞬はたしかに森の――世界のざわめきとでもいうべきものを聞いた。
つい先ほどまで俗世とは隔絶された空間といった雰囲気がこの場には充満していた。まずそれが消え失せた。代わりに肌で感じたのはひたすらの違和感。
――森全体がうごめいているかのように木々はその身を震わせている。葉の擦れる音が得体の知れない生物の鳴き声に聞こえてくる。
――雲一つない青空が広がっていたはずだった。だが、今見上げた空に青はなく、上空では神が荒ぶってそうな雲が渦を作っている。吸い込まれそうなその中心にどちらが天でどちらが地なのかが判別できなくなる。
――大地が傾いていることに気づいたのは、巨樹の方へと吸い寄せられるように身体が徐々に滑りだしたのを実感してからだ。瞬は身体がはね上げられる度に地べたがトランポリンに変わったかと錯覚してしまいそうになる。
森が鳴く、空が動く、大地が
「な、なに……」
ナニカ、が確実に起こっている。だが、そのナニカがとんでもないことに違いないのに正体がわからない。頭をよぎる「逃げろ」の文字に従いたいのはやまやまなのに、身体はすくんで言うことを聞かない。
とっさに。
――どうしてそんなことをしたのかと問われれば、瞬は答えに窮しただろう。
足が動かないからの苦肉の策?
単純に姿勢を崩した?
それとも守らないと、とでも思った?
身体が勝手に動いてしまったとしかいいようがない。
目の前の石を抱え込み、目をつむって祈る。
――――ちゃん、助けてっ!!
祈りは、
『会X%"#)(GHAOてYHEHEA=t-325yあ*``*~=o/げ0923uる』
届、
まばゆい、光。
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