第12話  レイナ=アスティクト

 私は中等部の頃に両親を失った。最初の頃は親の蓄えでやりくりしていたが、征旺学園の学費は高く、マイナの医療費も高額なものだった。

 貯金が底をつきかけ、学校を辞めようと思ったとき、断真が私を助けてくれた。中等部に入った頃から知り合いだったのだが、あるとき援助を申し出てくれたのだ。私に衣食住を提供し、医療費まで負担すると言ってくれた。一度は拒んだものの、それを受け入れなければ生きていかれない現実がそこにはあった。

 中等部の頃はそれだけだったのに、いつしか断真は変わってしまう。

 断真との交換条件で、私は征旺学園を離れた。強くなり、彼とコミュニティを組み勝ち続けること。マイナを断真に任せ、三年の中頃から一年以上、傭兵部隊に放り込まれることとなった。そこでの訓練は厳しく、ときには嘔吐することもあった。

 そうして帰ってきて、断真はまた少し変わっていた。目はギラつき、昔よりもずっと横柄になっている。それでも自分のためだ、妹のためだと思い続けてきた。

 それなのに。

「断真、これはどういうこと?」

「どういうこともなにも、見ればわかるだろう? マイナは六人目だ」

「貴様……!」

 私は断真の胸ぐらを掴みあげた。今日で二度目だ。

「やめて、お姉ちゃん」

 マイナは胸の前で指を組み、悲しそうな表情を浮かべている。

「マイナはな、きみのために出たいと言ったんだ。その意見を尊重してなにが悪い? いい妹じゃないか」

「妹は病気だ! なぜ病院から外に出した!」

「やめて! 私が行きたいって言ったの!」

「マイナ……」

 脱力してしまい、手を離した。胸中は黒い感情が渦巻いているのに、虚無感が私を支配している。どちらが本当の感情で、どちらの優先度が高いのかも、もう考えられない。

「大丈夫だよお姉ちゃん。今は安定してるし、お姉ちゃんの力になりたいの」

「話したのか、断真」

「ああ、話したよ。鳴神語がレイナの大事な秘密を握っていて、勝てばレイナは鳴神語から解放されるとね」

 私を見つめるその瞳はこう言っている。「本当のことをバラせば切り捨てる」と。

「わかった。でも無茶はするな」

「うん、ありがとう」

「姉妹が和解したところで、王でも決めようか」

 リーダーは私だが、実質仕切っているのは断真だ。

「誰にやらせるつもり?」

 メンバー全員を、一人ずつ見ていく。

「レイナはどう思う?」

「私かアンタの二択だと思ってる。結局ロールチェンジして上手く立ち回れないと、王になっても意味がない」

「私にやらせてもらえないか? やはり私は王に相応しいと思うんだ」

「いいわ。他のメンバーも異論はないわね?」

 問題ないと、全員が頷いた。

「私は王だが、キミたちはそんなことに関係なく強い。自信を持って戦ってくれ」

 断真らしい口上だと鼻で笑ってしまった。ムカつくが外面だけは昔からよかった。

 ここは従う他ないだろう。私とマイナは、霊法院断真の奴隷なんだから。

「それでロールは?」

「いつも通りだ。マイナはコンダクターでな」

「もしかして、アンタが病院に通い詰めてたのって……」

「彼女にはコンダクターの才能がある。それを見極めていた」

「人の妹になんてこと……!」

「おいおい、その話は終わっただろう? さあ時間だ。せいぜい、自分のために、妹のために頑張るんだな。もちろん、手を抜いたら許さない」

 試合開始のブザーが鳴る。この行き場のない感情をぶつけることもできず、従順に役割をこなすしか道はなかった。

 マイナの頭をひと撫でし、頭を切り替える。

「いくぞ、マイナ」

「うん、お姉ちゃん」

 勝っても負けても、私たちには自由なんてない。それでも、その先が暗闇でも、二人が壮健ならばなんとかなる。なんとかしてみせると、私は大地を蹴りだした。

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