【完】春の続きを待っている
姫村サキ
1 プロローグ
彼を思い出すたびに、ふわりと頭に浮かぶ景色がある。
それは、浜にある何もかもをまっさらにする高い陽だったり、人ひとりくらい、すぐにのみこんでしまう果てしなく広い青だったり。
さざめく波や、はるかに光るまぶしい波間。潮風にたなびく遠くの赤旗、まばたきするたびに姿を変える雲や、陽射しのかげんでもあるのだけれど。
変わらないのは、彼の立ち姿だ。
逆三角形の綺麗な骨格。健康的な肌色。
毛先を少し跳ねさせた茶色い髪は、日に焼けて色が抜けたから。
おでこの髪を風にさらさらなびかせて、まぶしい陽の中を、何かに耐えかねたように勢いよく笑う、あの姿。
白のポロシャツをなびかせ、手を大きく振って。
ちょっと見には白がぴったり似合うさわやかな青年なのだが、彼は。
彼には、
――誰にも言えない秘密がある。
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