◆心臓《ヘルツ》の真相

 待機していた治安局員たちがダーメの城へ入っていく。

 馬車の前で震えながらエリザベトはその隊列を眺めていた。

 濡れた外套をゲオルクが脱がしたのも覚えていない。二枚がさねで羽織らされた局員の制服の外套に首を埋めて、エリザベトが考えていたのは――。

「邸に送っていく。その足で私はアレクサンデルに報告に行くが――」

 部下への指示を終えてゲオルクが歩いてくる。

「君も来るか?」

「いいえ。わたくしは行かないわ。わたくしは他に行かなくてはならないところがあるから、邸にも帰らないわ」

 きっぱりとした表情で見上げたエリザベトに、ゲオルクは怪訝そうに眼を細めて返した。

「わたくしはあなたのお邸へ行くわ。ゲオルク・ブルーメンタール」

「私の家?」

「ソフィネは生きているんでしょう」

 ゲオルクの青い瞳が揺れた。

 かすかなその変化を見逃さずに、エリザベトは震えながら弱々しく微笑んだ。

「あなたは本当に〈ヨーカー要ラズ〉が下手だわ」

「……」

 いくつかのしるしが、残されていた。

 ここへと辿りつくまでのあいだに――。

「研究所にあった血色の雫花の花冠……ダーメが編んで置いたものでしょうけれど、あれはきっとわたくしに対する伝言だった。子供の頃にふたりで編んでいた花冠と同じ大きさだったから」

「……」

「黒猫のソフィネがイーリスの飾りに反応したのも、その血に流れる支配者の影響力のせいじゃないかしら」

 エリザベトは突如として覚えた不安に眉をひそめた。

 黒猫ソフィネはイーリスのブローチを見て逆上した。流れる血の中の記憶に混乱してわけもわからず凶暴になったのか、それとも――。

「彼女はわたくしを呼んでいるわ。連れていって」

 じっと黙ったままの青い瞳を、見つめる。

「わたくしを連れていきなさい、ゲオルク」

 ゲオルクは視線を落とし、重たく湿った髪を厭うように頭を振った。

 薬品の飛沫をあびた彼の黒髪が、ところどころ変色している。

 ……鼠色のまだらに。

「わかった」

 諦めがついたようにゲオルクはひとこと呟き、エリザベトのために馬車の扉をあけた。




 かわいそうなエリス……。

 その言葉は三回に一回くらい、優しい微笑とともにかけられる。そして、あとの二回は、心からエリザベトの愚かさを哀れんで。

 けれどエリザベトは、ソフィネから向けられる軽蔑さえも、嬉しかった。崇拝していた。愛していた。




「少しここで待っていてくれ」

 通されたのは客人用の逗留部屋だった。

 貿易商出身のブルーメンタール家だけあって、邸の百ある部屋はそれぞれに百の異国の様式で飾られているらしかった。

 この部屋は、壁から大鹿や牛の頭がつきだし、暖炉の周りはターコイズの象嵌で飾られ、長椅子の背には白い羽飾りが掛かっている。紺色の布張りの天井から、蜘蛛の巣を模したような丸い網が吊りさがり、羽とビーズの房飾りが揺れる。岩山から切り出した平たい石をそのまま置いたような低いテーブルの上には、動物の骨でできたパイプや、ナイフ、そのほか得体の知れない呪術道具のようなもの、加えて薬草らしきものが並べられていた。

 異文化の野趣にあふれていたが、不思議と心の落ちつく温かさと優しさと宇宙観を感じる部屋だった。

「その格好では具合が悪いだろう。着替えを用意させるので……」

「この格好でいいわ。ほかのドレスじゃだめなの。リュリュが仕立てたわたくしのためのドレスだから」

 暖炉の前でエリザベトは言い張った。

 濡れそぼってドレスは皺だらけ、髪の毛だってぺったりと頬や額に張りついてしまっているが、借りものの色では絶対にだめだ。

「わかった。じゃあ、乾きながら少しここで待っていてくれ」

 今すぐにでも彼女に会いたいエリザベトは眉をひそめたが、何も言わず、部屋を出ていくゲオルクの背中を見送った。

 いまゲオルクが見せた顔には見覚えがあるような気がした。たとえばエリザベトが、伏せる父のその日の体調が客人を迎えられるものかどうか、客を待たせて自ら確かめにいくときなど――。




 ――かわいそうな、エリス……。

 幻のソフィネの顔が見えない。

 彼女はどんな顔をエリザベトに向けるだろうか。

 彼女は今、どんな顔をしてエリザベトを待っているのだろうか。

 エリザベトは急速に湧きあがる不安に胸を締めつけられた。

 膝から力が抜けてエリザベトはその場に崩れた。黒雲に引っ掻きまわされるような頭を抱えて、うずくまる……。

〈わたくしはあなたに復讐するわ〉

 復讐。

 ただそればかりを。

 ただそればかりを思ってエリザベトは過ごしてきた。

 ソフィネはエリザベトを哀れんで嘲笑うだろうか。

 エリザベトの滑稽さを、愛でるように笑ってくれるだろうか。

 それとも――。




「大丈夫か?」

 はっと顔をあげる。

 その肩に、戻ってきたゲオルクの手が置かれていた。真摯な青い瞳で心配げに問われ、エリザベトは身を竦めた。動揺がさっきまでの不安を押しのけた。

「大丈夫よ。なんでもないわ」

 掴まれた肩が、別の生き物になったように脈打っておかしな主張をはじめたので、その手を振り払いたくてエリザベトは昂然と顎をそらす。

「用意ができてる。彼女は地下だ」

「ねえ、ゲオルク」

 先に立った彼の背中にエリザベトは、遠慮がちな声をかけた。

「あなたの、妹さんは……」

「すまない、嘘をついた。妹はもう生きていない。私が家を出て半年後に、持病のために死んだ。結局……」

 そのあとに言葉はつづかなかったが、必要なかった。

 結局、家を捨てまでして求めたゲオルクの望みは道の半ばで、間に合わなかった。

 あるいは結局、

 ゲオルクのとった行動は、ただの悪あがきでしかなかった。あと二年、四年、十年長く生き延びたとしても、彼一人の執念で不治の病を克服できる保証などなかったし、権力を手にした父からも、彼は逃げられるはずがなかった。

 前を歩く彼の背中が語るように、本当にすべてが無駄だったのだろうか?

「あなたはわたくしの命を救ってくれたわ」

 乾ききらないシャツのままエリザベトのために行ったり来たりしている彼の背中を見上げて、エリザベトは呟いた。

「まだ言ってなかったわね。――ありがとう」

 おずおずと腕をのばして、エリザベトはゲオルクの手をとり、指先でそっと握った。

 ゲオルクが首だけでふりかえった。虚をつかれたような無防備な顔だった。

「何度も助けてもらった気がするわ。ありがとう」

 ゲオルクは真面目な顔で、歩きながらエリザベトの手を持ちあげ、エリザベトの額に持っていって押し当てた。

「何をするのよ」

「熱でも出てきたんじゃないのか」

「……あなたのその態度にびっくりして熱が出ようとしているわよ」

 けれど、そのとき不意にエリザベトは気づいた。

 決まりが悪くてゲオルクはそうやって誤魔化そうとしたらしいということに。

 でも、ゲオルクは高貴なバルヒェットからの畏れ多い言葉に恐縮して戸惑うような人ではない。彼は信頼する王以外にはけっして跪かない。

 ――慣れていないのだ。

 エリザベトが感謝することに慣れていないように、ゲオルクは感謝されることに慣れていないのだ。

 ありがとうと言われることなどありえない。彼の任務はそういう仕事だから。

「あなたの急所はこれなのね。憶えておくわ」

「やっぱり平熱みたいだな。いつもの君だ」

 地下室への扉を開けると、地の底につづくような闇がぽっかりと口をひらいた。

 エリザベトの膝は不安を思い出した。

 一段、一段、ソフィネに近づく。明るい廊下に降り立ち、さらに進むと、つきあたりに邸内のものと同じオークの扉があった。

 エリザベトは深呼吸した。

 ゲオルクが扉をひらく。

 目に飛びこんできたのは、檻だ。

「こんな――」

 だが最低限、そこには囚人への敬意が払われていた。やさしいクリーム色に塗られた鉄格子。その向こうに、レース織りのカーテンが引かれている。

 エリザベトはレースに編まれた薔薇の柄を透かして、人影をみとめた。

 中に入ったゲオルクが、カーテンを引く。

 ソフィネがいた。

「エリス?」

 ソフィネの声だった。

「エリスなのよね。なんだかずいぶん別人みたいだけど。そうね、つまり、わたしがいなくてそんなにやつれちゃったってわけなのね」

 ああ、ソフィネだ。

「わたしがいないと、エリスはそんなに悲しくなっちゃうのね。そういうのって、わたしにはわからないことだわ。どうしてそんなに何もかも相手に預けてしまえるのかしら。乳離れしない赤ん坊じゃあるまいし?」

 ソフィネだ。

 何もかも昔と変わらない、昔のままのソフィネがいた。

「泣いてないでこっちに来たら」

 エリザベトはくしゃくしゃの顔でソフィネの膝にしがみついた。長椅子に掛けて薔薇色のクッションを抱えたソフィネが、嗚咽の止まらないエリザベトをクッションのフリルごしに覗いた。さらさらした絹糸のような黒髪がエリザベトの頬にかかる。

 琥珀色の大きな瞳には、勝ち誇ったソフィネの自信が浮かんでいた。昔から、いつもそこにあったソフィネの自信が。

 エリザベトはたまらなくなってソフィネに抱きついた。

「ソフィネ……どうして……、どうして……!」

 言葉がつまって、何も考えられない。

 夢じゃなかった。本当だった。あんなにも願って、願って、願いつづけて、叶うはずもなかったこと。

 奇跡をエリザベトはいま腕の中に抱きしめている。

「ねえ、ゲオルク。この子、ほんとうにどうしようもない子だって思わない?」

 部屋の端から見守っている監督者にソフィネは言いやった。

「つかの間くらい恐怖で立ち尽くしてくれるべきよね。わたしの姿を見てなんにも思わないなんて、よっぽどわたしに失礼よ。五年ぶりなのに何も成長してない十三歳のままのわたしを見て、その奇っ怪さに狼狽えてくれないと困るわ」

 エリザベトは思わず身を起こしてかぶりを振った。ソフィネの頬に両手を捧げて、じっとその瞳を見た。

「どうでもいいわ、そんなこと……! ソフィネはソフィネだわ。生きていてくれた……!」

「どうでもよくなんかないわよ」

 低く凍った声がソフィネの唇からこぼれた。

「ソフィネ……?」

 エリザベトは戸惑う。

 それは、聞いたことのないソフィネの声だった。

「どうでもいいわけないじゃない。わたしはもう、一生このまま大人にならないのよ」

 冷笑がソフィネの可憐な唇をゆがめた。

「エリスは体つきばかり大人になって、あいかわらず頭の回転がのろまなままなのね。そんなだからゲオルクひとりんじゃない。復讐劇の顛末はすべて聞いていたけど、あなたぜんぜん使えなかったわね、エリス」

 エリザベトはまじまじとソフィネの瞳を見つめた。

 琥珀色の瞳。

 あのころと同じ色。

 けれど見知らぬ新しい表情がそこにある。

「なんのこと……?」

「ソフィネ・クラナッハ」

 そこでゲオルクが介入した。

「今しがた、私たちは奇病に冒された某公爵を始末してきたところだ。彼に奇病を感染させたのは君だと考えていいのか?」

「ええ、そうよ。あなたは監督不行届を猛省しないといけないわ」

「この地下へ、某公爵は侵入したのか」

「真夜中に。薬品の小瓶を揺らしてね。彼はバルヒェットであるゆえに、治安局の傘下に入ることも、口止めの脅しをかけられることもなく、大学の人脈をたどって奇病の情報を手に入れやすかったのね。薬学部をとりもどすためにブルーメンタールの弱みを探っていたのかもね。それでわたしがここにいることも掴んだみたい。彼はわたしの姿を見て感動してたわ。彼はわたしに願ったの。永遠の美しさを得るために、病を分けてほしいって」

 ソフィネが語る言葉はダーメの話を裏づける。

「わたしの願いを聞いてもらうことは交換条件だったわ。わたしの支配力のこともちゃんと説明してあげたし。彼は快くひきうけてくれた。もともと彼の考えにもあったことだから」

 ぼんやりとソフィネを見つめているエリザベトに向かって、微笑んだ。

「復讐のことよ」

 エリザベトはゆるやかに瞳を瞠った。

「ぜんぶ自分がはじめたことだなんて思っているの? おばかさんね、エリス。あなたはずっとうじうじと恨みつらみをためこんでいたんだろうけど、そんなあなたにきっかけを囁いたのはダーメなのよ。それとなく、さりげなく、クアドラートの面々にはそれぞれブルーメンタール失脚を望む動機があるんだってことをエリスに気づかせたの。ダーメはエリスの倍も生きているもの。老公爵の老いらくの情熱を理解できるし、ブーべとかいう偏執狂の習性も知ってた」

 この世の中のなにもかもを突き放したような口調だった。

 ソフィネの饒舌さに、麻痺したエリザベトの頭はついていくのがやっとだ。

「わたしはこの監獄から逃げたかったの。そのためには、アレクを補佐するゲオルクを失脚させる必要があった」

「なぜわたくしを呼んでくれなかったの?」

 やっと言えた、心からの悲鳴のような叫びだった。

 そのとき、ソフィネがエリザベトに向けた表情は、エリザベトにあの雪の日を思い出させた。

 火刑台の上で、憐れみ蔑むようにエリザベトを見下ろしていたソフィネ。

『ああ、なんて、かわいそうなエリス……。――さよなら』

 そう言って、もうもうと立ちこめる白煙の中に消えたソフィネ――。

「あなたはアレクを裏切れないわ」

 ソフィネはもう、とりつくろった嘲りも哀れみも浮かべてはいない。

 その瞳には、冷たい怒りだけが燃えていた。

「ソフィネ、そんなことないわ、わたくしはあの日からずっとアレクを許したことはないわ」

 エリザベトの唇をソフィネは人差し指で塞いだ。

「知ってるけど。でも、あなたにはアレクを裏切ることはできないわ」

 そうして、ソフィネは一瞬、ゲオルクのほうを見やった。

 時間をかけて組みあげられた積み木に手をかけた猫のように。

「エリス、見てよ、この可愛らしい監獄を」

 地下室の監獄は、檻さえなければ富豪令嬢の私室としてふさわしい最高級のしつらえだ。

 薔薇柄の壁布も、硝子細工の天井照明も、中身もかたちもふっくらしている金塗りの寝台も、かわいらしいクッションや、ティーカップの揃えも。

「ぜんぶ、最愛の妹さんの形見ですって。ゲオルクはアレクに忠実に、とても誠実にわたしを遇してくれたわ。わたし、この人はわたしに似たところがあるから、そんなに嫌いじゃないのよ。わたしとアレクの間には邪魔だから、いなくなってもらいたかっただけで」

「アレクは、あなたを殺せなかったのね……」

「違うわ」

 そう言ったソフィネの瞳に、エリザベトはぞくりとした。

「違うのよ、エリス。ぜんぶ、あなたのためなのよ。わたしがあの日、クラナッハの家族と一緒に死ななかったのは、あなたのためなのよ。こうして檻の中に閉じこめられて一生を過ごすのも、あなたのためなのよ。わたしが生かされたのはあなたのためなのよ。アレクは言ったわ。わたしを救ったのはエリスの願いを叶えるためだって。でも、わたしの病のことも、クラナッハの真実も、すべてエリスから隠し通したいって。それはエリスを傷つけるから。エリスだけは守りたいって。エリスを愛しているから」

 人差し指でソフィネはエリザベトの顔を撫でまわす。

「アレクがあなたを守ったから、あなたは単純にめそめそ悲しんでいればよかったわけ。アレクも、わたしも、ゲオルクも、――王と、クラナッハと、ブルーメンタールの罪が、単純に悲しみ嘆くことを許してくれない」

 かわいそうなエリス。

 何も知らないかわいそうなエリザベト。

「でもっ、ソフィネ」

 エリザベトは両瞳をいっぱいにひらき、ソフィネにとりすがった。

「でも、それでも――」

 とつぜん、ソフィネがクッションごとエリザベトをつきとばした。

「っ!」

 床にしたたか背中をうってエリザベトは倒れた。

「……ん……っ……。っうウウ……う……。こんなときにね。ごめんね……」

「ソフィネ……?」

 エリザベトは、呆然と親友を仰いだ。

「おねがい、あっちに行っていてくれない。少したてばおさまるから……っ」

 ソフィネは身をよじって苦悶の表情を長椅子の背もたれに隠した。

「ソフィネ、苦しいの……?」

 急いでソフィネを助けようと身を起こしたが、伸ばしたエリザベトの腕は、後ろから掴まれて止められた。

「少しかかるよ、行こう、エリス」

「アレク?!」

 ふりかえるとアレクサンデルが立っていた。

「アレク、エリスを連れ出して……! 早く、出ていってよ! 見ないでよ! いや、いやぁ……っ!」

「ソフィネっ」

 近づこうとしてもがくエリザベトをアレクサンデルとゲオルクが二人掛かりで連れ出した。

 檻の鍵が掛けられ、オークの扉が閉じた。

「ソフィネ!」

 扉の向こうから絶叫が聞こえた。




「ソフィネはほとんど血を飲まないんだ」

 うなり声が廊下まで響きわたる。

 とても少女の喉からでる声だとは信じられない。

「シャルロッテたちに与えていた最低量すらも彼女は五年間ずっと拒否してきた。獣の生肉のかけらを口にすることで命をつないでいる。それすら稀で、ごく僅かな量だ」

「人には想像できない強烈な飢えがいつもソフィネを襲っているはずだよ。それでもソフィネの誇りは、病に屈することをよしとしない。だけど、ときどき体がああやって彼女の精神に牙を剥く」

 めきめきばりばりと不吉な音がしていた。

「奇病の本能と彼女はいま闘っている。そして、いつも彼女はそれに打ち勝つ。ほどなく」

「ソフィネ……」

 エリザベトは扉に両手を押しあてて涙をながした。

『死なないで。お願いよ。罪人でもなんでもいい。なんでもいいから死なないで……』

 それは、確かにエリザベトが言った言葉だ。

 うそいつわりない願いだった。

 でもその願いが、ソフィネをこんな目にあわせている――。

「アレクサンデル……」

 背後でゲオルクが、アレクサンデルを複雑に呼んだ。

「なんとなく悪い予感がしてさ。つまらん会議を抜けてきた」

「面目ないことになってる」

「仕方がないさ。そんな顔するなよゲオルク。……ソフィネとエリスは磁石みたいなものなんだ。引き離すことに無理があった。――二人の力関係には驚いただろうね。だけどあんなふうに見えてソフィネも、昔からエリスに従えられているんだ。母親が赤子にかかりきりになるようにさ」

「……わかるような気がする」

 絹を裂く叫びの途中で、ソフィネはエリザベトの名前を祈るように呼んだ。





「エリスにはアレクを裏切れないわ。わたしはエリスのためにアレクを殺したいと思った」

 隣のエリザベトに頭を凭れ、ながれおちる黒髪をくるくると指に弄びながらソフィネは言った。

「だからダーメに、この国をめちゃくちゃにしてって命じたわ」

 ソフィネの向こうがわで脚を組みながら、アレクサンデルが溜息をついた。

 目を閉じたソフィネを飛びこして、アレクサンデルの視線がエリザベトに届く。エリザベトはその想いから目をそらした。

「アレクの愛からエリスを自由にしてあげたくて」

 檻の外に、背中を鉄格子に預けたゲオルクが腕組みしている。

 そのまだらの髪をエリザベトは擦りきれたような気持ちで見つめた。

「ドライエック」

 誰に向けられたものでもないゲオルクの呟きで、エリザベトは目を覚ます。

 ドライエック。欲しいのはドライエック――。

 ゲオルクが雨の会合の夜に呟いた言葉だ。

 エリザベトは、はっと両手を握った。

 あのとき、とっくにゲオルクはエリザベトの心を見抜いていたのだろう。

 三角形ドライエック。永遠につづくワルツのような。その均衡。子供時代のエリザベトとソフィネとアレクサンデル。エリザベトが、とりもどしたかったもの。

 ソフィネが失われて、子供時代も失われてしまった。エリザベトはアレクサンデルの想いに耐えられなかった。二人きりには耐えられなかった。けれど同時に、アレクサンデルはソフィネとの思い出のよすがでもあった。アレクサンデルを憎みつづけるかぎり、エリザベトはソフィネの思い出に浸っていられた。

 でもアレクサンデルは、エリザベトの憎しみの視線すら愛した。そのままアレクサンデルの愛に絡めとられるのが怖かった。二人きりには耐えられなかった。だから、エリザベトは、ドライエックを欲した――。

 ゲオルクにはわかっていたのだ。自分ゲオルクは、復讐のゲームに数合わせで引きいれられただけの、当て馬だと。

「いいえ、それは違うわ、ソフィネ」

 永遠にめぐりめぐる三角形。

 エリザベトがとりもどしたかった均衡。

 いつだって、アレクサンデルはエリザベトを見つめていた。

 いつだって、エリザベトはソフィネを見つめていた。

 そして、いつだって――。

 いつだって、ソフィネはアレクサンデルを見つめていた。

 誰の願いも叶わない。

 本当はそんなこと、子供時代からずっと、わかっていた。

「あなたはあなたのためにアレクを殺すのよ、ソフィネ。わたくしのためなんかじゃない。あなたはアレクを愛しているから」




 たぶん。

 たぶん、いまこの瞬間に初めて、エリザベトは冬の女王に反抗したのだ。

 ソフィネは驚いたように瞼を開けた。

 ――そして。

 ころがりおちる薔薇の朝露を思わせる声でソフィネが笑った。

「そうね。ええ、そうね!」

 ソフィネはくすくすと笑いながら長椅子からくるりと立ちあがった。

 凍った炎のような光を浮かべた、冬の女王の瞳が、エリザベトをじっと見つめた。

「アレクも奇病に冒されているのよ、エリス。わたしが噛んだの」

 エリザベトは全身の血の気の引いていくのを感じた。

「あーあ」

 アレクサンデルが、組んだ膝に肘をおいて頬杖をついた。青黒いくまの浮かんだ顔で、やれやれと視線をはねあげる。「言っちゃった」

「まさかそんな、ソフィネ」

「わたしが監禁を受け入れること、そしてどんなふうにでも絶対にエリスと連絡を取ったりしないこと、クラナッハの一連のことにエリスを巻きこまないこと。その約束と引き換えに、アレクはわたしからの感染を承知したの」

「ひどい……」

「ええ、ひどいわね」

「ひどいことよ、ソフィネ……」

「わたしは呪われたクラナッハの娘だもの。でも、アレクだってひどい王様よ。アレクがどんなふうに〈血飲〉をしてると思う? 笑えるわよ? 人を襲った獣の血を啜っているの。わたしが手下にしてあげた黒猫がね、アレクのために人を襲いつづけてきたの。アレクのために、たくさんの人が奇病の犠牲になってきたのよ。その手に掛けるよりもよっぽど卑怯なやり方だと思わない? 間接的にだって、人を殺してるのには変わりないのに!」

「黒猫……」

 エリザベトは思わずゲオルクを見た。

 横顔で彼はうなずいた。

 黒猫ソフィネが、ソフィネの猫――。

 エリザベトはアレクサンデルの蒼ざめた顔をふりかえる。

 黒猫ソフィネはひと月ちかくエリザベトの邸にいる。そのあいだ、アレクサンデルは血飲していないことになる。

 やつれ、疲れきっていてなお人の心を打たずにいない美しい顔をあげ、アレクサンデルが口をひらいた。

「卑怯なのは重々わかっているよ。だが、ヴェステンが奇病の混乱から立ち直るまでは、玉座を放りだしたくなかった。そろそろ大丈夫だと思って、僕はエリスとの結婚を急いでる」

 のばした手で、エリザベトのダイヤモンドを掬いあげた。

「エリスを王妃にしたら、僕はそのまま飢えて死のうと思ってる」

「アレク……」

「エリスなら、王国の将来を任せても不安はないからね。血筋と言い、度胸と言い――」

 エリザベトの胸に、ダイヤモンドがこぼれた。

「申し分ないだろ」

 悲壮な決意など、かけらも感じさせない。そのまなざしにはただ、狂おしい愛があるだけだった。

「アレクはね、わたしに噛まれたけど、わたしの影響力を受けないの。エリスを愛してるから。すごい精神力ね」

 エリザベトはほかにどうしようもなくて、重たい頭を両腕に抱えた。

 もう何にも、わからなくなっていた。

 誰のせいで、誰のために。

 誰を憎めばいいのかわからない。

「わからない……わからない……わたくしはどうしたらいいの……?」

 霞む視界に、手がさしだされた。

「愛してよ」

 かすかに揺れる声で、ソフィネが言った。

「わたしを愛したように、すべてを愛せばいいんじゃない?」

 十三歳の小さくて細い手が、小刻みにふるえていた。

「誰が死ぬにしろ、誰が生きるにしろ、けっきょくエリザベトが皆を愛してくれなければ、誰も救われないわよ」

 優しい、心からの優しいソフィネの声が、エリザベトの顔をあげさせた。

 薔薇のほころぶような、晴れやかな笑顔があった。

 なにもかも、罪はあばかれ、憎しみは吐露された。あとはすべて、春の女王の胸にゆだねられていた。

 手を引かれ、歌うソフィネのワルツに誘われ、くるくると踊る。踊らされる。

 けれどその手をふりほどいて、エリザベトは、部屋中をさまよった。

 救われない……。

 奇病からは誰も救われない。エリザベトが誰かを愛したとしても。

 自由になる手立てはない。

 血の衝動から逃げられない。

「わたくしも感染しているわ」

 檻の中。

 檻の外。

 エリザベトは、いったん見つめるとゲオルクの青い瞳から目をそらせなくなった。

「いや」

 ゲオルクが、エリザベトを見つめたまま扉をひらいた。

「……?」

 ゲオルクは手近なテーブルの燭台を手にとり、エリザベトの眼前にかざした。燭台が至近から遠くにゆっくりと移動した。ゲオルクは片手でエリザベトの右目を開かせ、覗きこんだ。

 ――近いわ。

 息をつめて固まるエリザベトの前で、ゲオルクが首をふった。

「瞳孔は正常だ。感染していない」

「でも……」

 ゲオルクは檻の柵のささくれたところに手の甲を思いきり打ちつけた。ひとすじ裂かれた傷口から血玉が膨れあがる。それをエリザベトの口元に差しだした。

 挑みかかるようにエリザベトを見ている。

 おそるおそる、エリザベトは血の滴を見つめた。

 青い血管の美しい手の甲に、擦れた傷が痛々しい――ただただ、それだけだった。

「いくらなんでも、感染がはっきりするまでの期間を充分に過ぎている。君は感染していない。奇病においては希少なケースだが……」

 ゲオルクは医者の手つきであつかましくエリザベトの顎を掲げさせたまま、解せない、という顔で考えこんだ。

「十割はありえないんでしょう?」

「あのときはそう信じたかったからそう言ったが、私が見てきた中では、感染を免れた者はいない……君が初めてだ」

 言われてみると、あり得ない奇跡のような気もしてくる。エリザベトは迷路で野良猫に襲われ、研究所で〈忌々しい植物〉の花冠のトゲに刺され、オランジェリーで花に噛まれた。

 三度も感染の機会があって、三度もエリザベトは勝ったというのだろうか。

「君はいったい何者だ」

 呆れた顔つきで、ゲオルクは医者らしくない台詞を吐いた。

「わたくしはエリザベト・バルヒェットよ。奇病も裸足で逃げていくバルヒェットよ!」

 昂然と頭をそらしてエリザベトは言った。

「僕もバルヒェットだけどね」

 アレクサンデルが茶々を入れた。

『アタクシもバルヒェットよ~! ふふ、ふふふ、ふふふふふ』

 響いた大音声に、一同はいっせいにあたりを見回した。

 ふふふ。ふふ。ふふふふふふふふふふふ。

 花が、笑う。

「まさか、どこから……?!」

 オークの扉がばきっ、と砕かれた。

『こんにちワ、ふふふ――来ちゃった』

 扉を割って緑の蔓があらわれる。

『おみやげ~』

 緑の蔓がぐるぐる巻きに抱えているのは、黄金のひげをぼさぼさに生やした細身な青年――。

「ブーべ!」

 花にかこまれてブーべはしばしばと目を瞬いた。

「か、仮眠してたら、なにがなんだか……この声はダーメ? この花、クラナッハの絵に描かれてる花じゃないですか?」

「触ってはだめよ!」

「バンベルク公爵、奇病の手がかりは何か解明されたか? 治療法につながりそうなものは?」

 こんなときに何を訊いているのか、ぎょっとしてエリザベトはゲオルクを見上げた。

「治療法……というのはちょっと思いつかないね。でもこの花、この花すごいじゃないか! 女神レラーの伝説がここに! ちょっと裏ギャラリーに、裏ギャラリーに戻らせてくれっ」

「毒をまき散らす植物など忌々しいだけだ」

 吐き捨てたあとで、ゲオルクは自分のその言葉にひっかかったように目を細めた。そして小さく首をかしげる。

『イマイマしいのはアタクシ。よくもアタクシの美しい体をぐずぐずにしてくれたわね。よくもアタクシの美意識を弄んでくれたわね。エリスちゃんに、華麗なる復讐がどんなものだか魅せてあげるわ!』

 廊下から幾つもの蔓が侵入した。

 エリザベトの目の前でブーべがぐるぐると蔓の繭に隠される。

 ゲオルクが投げつけた燭台が繭の根元に火をつける、はずだったが。

 燭台をキャッチした別の蔓が、炎ごと蝋燭をつつんで、まるで――。

『ごっくん』

 火を飲んだ。

 ふふふ、ふふふ、ふふふふふふふ……。

 花が、笑いさざめく。

「効かないわ……人の知恵がついてる」

 ここに他に武器はなかった。

「ダーメ、あなたわたしのしもべでしょ? おとなしくお家へ帰ってよ」

 腕組みしたソフィネが鼻を鳴らす。

『ゴメンなさいネ! もうあなたのしもべじゃなくなったの。アタクシ、お花に食べていただいたから』

 花に食べてもらった?!

『そうしてアタクシ、この世でいちばん美しい華になったのよ!』

 エリザベトをめがけて蔓が襲いかかる!

「エリス!」

 一瞬前までエリザベトがいた場所で、アレクサンデルが蔓に絡めとられた。

 ゲオルクに抱えられて後方に転がったエリザベトに、次の蔓がめがける!

「させない!」

 ソフィネが立ちはだかった。

「エリスに葉っぱ一枚触れさせないから!」

 十三歳の、大人になりきらない華奢な背中が、エリザベトをかばって立ちはだかった――。

 エリザベトは瞳を瞠る。

 こんなにも、小さな。

 エリザベトが憧れた冬の女王は、こんなにも小さな少女だったのだろうか。

 こんなにも、脆く折れそうで、触れれば張りつめた糸の切れそうな、未完成の体だったのだろうか。

 そうだったのだ。五年前の自分たちは、皆そうだったのだ。

 それなのに、それでも。

 それでもやっぱり、誰よりも軽やかで、力強い、ソフィネの後ろ姿に、エリザベトは瞳を瞠った。

 邪魔なソフィネの首に蔓が巻きつき、しめあげる――。

「く……っ」

「ソフィネ、どうして……っ」

 どうしてわたくしなんかを、かばうの。

「馬鹿ねエリス……わたしにだってわからないことはいくらでもあるのに……」

 蔓に足を掬われ、ソフィネは逆さ吊りに宙を舞った。

「でもこれだけははっきりしてる。もう一度エリスに会えて、嬉しかった。わたし、生きていてよかったって、思ってる――」

「ソフィネ!」

 ふりかえるエリザベトを抱えてゲオルクは蔓の攻撃を避けた。

「ソフィネ!」

 蔓はアレクサンデルとソフィネをぐるぐる巻きの繭に飲みこんでしまった。

 一瞬後、アレクサンデルの繭が内側から裂かれた。

 降り立った彼の掲げる指先に、奇病の異力で猫のように伸ばし、研いだ爪が、するどく光っていた。

 アレクサンデルは二人を背中にかばいながらソフィネを救う隙をうかがう。

『やだ、中で暴れないで痛いじゃない』

 ソフィネの繭は、ソフィネの抵抗に抗するためにみるみる厚みを増していく。

 植物の勢いと力はすさまじく、膨れあがる繭は壁と天井を壊した。

「ここから出よう」

 アレクサンデルは襲ってくる蔓を切り払い、エリザベトとゲオルクを繭にのぼらせた。

 なおも繭に巻きつく蔓のしなりに巻かれないように三人は駆けあがる。

「ソフィネは僕が助けだす。エリスを安全なところに逃がしたら、ゲオルクは植物の根を探してくれ」

 上の階は宝物庫になっていた。たちこめる瓦礫の埃の中でゲオルクは壁際の甲冑像から剣をあつめ、ひとふりをアレクサンデルに投げ渡す。間髪を容れずにエリザベトの手を引き、奥に向かって走りだした。

「ソフィネ……!」

「隠し階段から外に出るぞ」

 目立たない小さな扉をあけて真っ暗な階段室に入った。

「だめよ、わたくしだけ逃げたってしょうがないわっ」

 階段の途中で抵抗したエリザベトに、ゲオルクがふりかえったが表情は見えない。

「君がいちばん女装教授の恨みを買っているんだ。不要な煽りをするから……」

「不必要なことなどわたくしは一度も口にしていないわ! わたくしは、いつもわたくしであるために……」

 強引に手を引かれて階段をのぼる。

「わたくしは一人で逃げたりしないわ」

「アレクサンデルの、王の命令だ。私には逆らえない……」

 エリザベトは息を切らしながらも眉をひそめた。なぜわざわざ王の命令、なんて言葉を使うのか。ゲオルクには似合わない。

「アレクサンデルを裏切れない」

 自らに言い聞かせるようにゲオルクは呟いた。

「わたくしは逃げない。アレクではなくわたくしを選んで、ゲオルク」

 ゲオルクが踊り場で急に足を止めた。

「言われなくても――」

 絞りだす声で言ったと思うと、エリザベトの体を引き寄せ、壁に押しつけた。

「言われなくても、もうとっくに君を選んでる」

「ゲオルク?」

 暗闇が深くて彼の顔が見えない。

「ゲオルク、わたくし怪我はしていないわ」

 いつかの迷路でのように手をとられ甲にくちづけられて、エリザベトは動揺した。彼の表情は見えない。

 額にかかる前髪を彼の手がかきわけた。

「……」

 暗闇の中でも次に何が起こるのかわかった。

 エリザベトは身じろぎもできなかった。

「――」

 何も見えない暗闇で、それは起きた。

 鮮血に飢えるのとはぜんぜん違う衝動が、エリザベトの中に生まれた。

 体ではなく心が、それに向かってつきすすんだ。

 何も奪わないし、何も奪われない。

 永遠の一瞬に互いの心がゆきかい、体の芯に温もりを灯す。

 その炎のつよさに驚き、怖くなってエリザベトは瞳をひらく。

「こんなこと……あなた、アレクの親友なのでしょう?」

 アレクサンデルの一途な想いを知っていて、こんなことをするのは、裏切りだ。

「そうだ。裏切りだ」

 いまさら罪悪感など滲ませずに、はっきりとゲオルクが言った。

「でもその前に、君たち三人は三人だけじゃどうにもならないことになってる。前に言っただろう、私は、人任せではどうにもならない問題があると自分でなんとかしたくなる」

 すぐ近くで低音の声がするけれど、姿は見えない。

「それに」

 ゲオルクはかすかに自嘲した。

「君みたいな人間を手に入れてもアレクサンデルは不幸になる」

「不幸ですって」

「君の性格は、関わる相手を、特に男を不幸にする」

 これは引っぱたくべきところじゃないかと思い、エリザベトは手を挙げたが、簡単に手首を掴まれた。

「確か、君は私に不幸になってほしいのだろ」

「そうよ」

 暗闇でも、自分の両瞳が熱をもってぎらぎらと輝いたのはわかった。

――地獄に落ちてほしい。

 なぜか今でも、その思いは変わらない。こんな男。

「納得できない理屈だわ」

「しなくていい。何も考えるな」

 「……もう策略はこりごりだ」囁きながらゲオルクはもう一度くちづけを求めてきた。体の芯の炎がふたたび燃えあがった。

『見~つけた』

 ひびの走る音。向こう側の壁をつきやぶって、花満開のさざめき笑いがおしよせた。

『お邪魔だったかしらァ』

 振り向きざまにゲオルクが花の鎌首を斬り落とす。闇の中で手応えがあった。足をもつれさせて階段をのぼりきり、階段室からつながる部屋へと出る。

「ここが隠しギャラリーだ。クラナッハの美術品を収蔵してある」

「ブーべが調べていた絵は?」

「あれだ」

 壁と壁のあいだに造られた隠し部屋は、幅が狭く、奥行きが細長くつづいている。絵画のならぶ左手の壁の半ばにあるひときわ大きな絵が、クラナッハが大事にしていた冥府の女神レラーの名画だ。

 エリザベトはその絵の足元に置いてあった紙ばさみを拾いあげた。

 ブーべが残したメモだ。

「“構図は一般的なレラーの絵と同一の形式”

“登場するモチーフも同一”

“首飾りに石。何の石かな?”

“石を飾ったレラーは珍しいと言える”

“なぜクラナッハ家は代々この絵を大事に受け継いだ?”」

 血色の雫花にかこまれた冥府の女神。

 足元に金色の瞳の黒猫を従え、裸身に虹色の炎を纏う。両手に大切そうに死者の魂を乗せて。

 今まさにキスを与えるところ――。

 闇を溶かした黒髪と、琥珀色の瞳に、エリザベトは大人になったソフィネを重ねる。

「ダイヤモンドの首飾り……」

 思いがけず自分との共通点を見つけて、エリザベトは首をかしげた。

 レラーは裸身に首飾りを一つだけ飾っている。雫型の白っぽい石はダイヤに見える。

「ダイヤ……? だが、ダイヤモンドが高価な宝石として認められるようになったのはこの三百年ほどのことじゃないのか。それまでは研磨法が確立されていなかった」

 写実的な絵ではないから、はっきりと断定はできない。形が似ているから、先入観でそう思ったのかも。

 ――冥府の女神レラーは地上で苦しんだ魂を憐れみ、天空神ウルの治める地上の堕落に怒って、甦えらせた死者とともに地上へ攻めあがる。生者と死者の戦いがあり、レラーは天空神ウルに討たれ、焼かれて、女神は灰になって千年の眠りにつく。慈愛の女神を失って、冥府は嘆きの場所となった。

 クラナーン神話のしめす生者と死者の戦いとは、奇病の蔓延のことだったろうか。

 ならば古代の人は、どうやって奇病に勝ったのか?

『邸ごと抱きしめて壊してアゲル~』

 今はそれより植物の根を探さなければ。

「ゲオルク、この時間に邸でいちばん人が多いのはどこ?」

「日の落ちた頃か……厨房近くで使用人達が夕食をとっている時間だ」

「そこだわ。あれだけ植物が元気なのは栄養充分だからよ」

 裏ギャラリーを抜け、厨房へ向かう。

 かまどに火を入れたまま無人になっている厨房を通り抜け、勝手口から使用人住居の建物を見上げる。屋根を破って植物が夜空を舞い、本邸の窓という窓に蔓を侵入させている光景があった。

 使用人住居の食堂に飛びこむと、花々が繚乱していた――。

 花にとらわれた人々が恍惚として命を啜られていた。だがブルーメンタール邸の使用人はあまりに大人数のため、命の底まですすられ尽くした者はまだいなかった。

 花園の中心で、が笑った。『ふふふ。ふふふふふふふふふふふふふふふ』

 ひときわ大輪の五弁の花――血色の雫花が、あでやかに微笑む。

 しなやかに広げた緑の蔓の両腕にも花。

 きゅっと螺旋に絞られた腰のくびれにも花。

 足元は床板を割って地面に根を張っている。

 長剣を宙に一閃し、ゲオルクが挑発した。

 は、高らかに哄笑しながら向かってきた。

 ゲオルクは夕食の散乱するテーブルを飛び越え、敵をめがけたが、はさらりとゲオルクの勢いをかわし、エリザベトに向かって両腕をひろげた。濃密な血雫の香り。死の抱擁――。

「いらっしゃい、ダーメ」

『この世でもっとも美しいアタクシが、愛してアゲル』

 公爵令嬢の華奢な首筋に、大輪の花の牙がつきたてられる――そのとき、

『ギャッ』

 ゲオルクの剣が、地に這う根っこの中心をつらぬいた。

「ええ、わたくしはあなたを一番だと認めるわ――醜悪さにかけてはね。あなたの美のこだわりはいつもやりすぎだったけれど、それにしたってこれは行きすぎだわ。ダーメはもう、どこにもいないんだわ」

『囮、カ……!』

 花々が苦しげにのたうった。刃に刺した根っこをゲオルクは渾身の力をかけて抜きとり、踵を返して外へ向かった。引きずられてダーメがエリザベトから剥がれていく。

『放シテ頂戴! 放シテ頂戴! ヤダヤダ! ソッチヘ行キタクナイ!!』

 ふふふ、ふふふふ、ふふふふふっふふ、ふふふふふふふふふふ……苦しげに花が笑い、のたうち、暴れ、絡まっていた邸をきりきりと締めつけた。

 邸の壁が崩れ、内部で轟音が起き、地響きがしている。

 ゲオルクは厨房へ戻り、火の入った釜に根っこを放りこみ、引きずられてきたダーメのくびを掴んで押しこんだ。鉄製の蓋をむりやり閉めると、絶叫は遠くなった。天井からこぼれる砂埃の中を、ゲオルクは着いてきたエリザベトを連れて邸の外へ逃れる。

「崩れるわ……お邸が……」

 厨房から火が出た。

「ソフィネ……どうしよう、ソフィネが……!」

 駆けて戻ろうとするエリザベトをゲオルクの腕が制した。

「待て、誰か……来る」

 崩れ落ちる壁の中から、白煙とともに人影が現れる。

「――いくら奇病患者が多少は不死身だからって、わたしが一人で歩かされるなんて、こんなの格好つかないじゃない、ばかアレク!」

 両手を振りまわしながら、黒髪の少女が王のまわりで飛び跳ねて食いさがる。

「ソフィネのことは一回たすけてるだろ? 処刑の日に」

「助けてなんて頼んでないのにお世話さま!」

「おかげで君はエリスとまたいちゃつけるだろ。僕はほんとうにソフィネが羨ましいよ、昔からさ」

 アレクの両腕には気を失ったブーべが抱えられていた。

 エリザベトは子供のように声をあげて泣きながらソフィネに駆けよった。

 何でもいい。何でもよかった。どんなソフィネでも。

 どんなソフィネでも、ソフィネは変わらずにソフィネだから。

 あの日に願ったことは本当の気持ちだったから。

 それがソフィネを苦しめたとしても。

「ソフィネはわたくしのために生きていて……!」

 あの日に願ったことを。無知でいたことの罪を。

 ソフィネを絶望させたエリザベトの祈りを。

 もういちどエリザベトはくりかえす。

 何度でもくりかえす。

 迷わずにエリザベトは何度でもこの罪をくりかえすのだ。

 自分自身のために。

 それ以外のエリザベトにはなれないから。

「こんどはエリスのお邸に閉じ込められるのかしら」

 皮肉げにソフィネが言った。

 エリザベトが怯んだ瞳をあげると、ソフィネは安心させるように微笑んで、エリザベトの額に口づけした。

 琥珀色の瞳に、火影が映って情熱的に燃えていた。

「それでアレクをきりきりさせられるなら、いい復讐になるかもね」

 アレクサンデルは使用人住居のほうへ歩いていき、ゲオルクに労いをかけた。

「みな無事か。倒壊に巻きこまなくてよかった。不幸中の幸いだね」

「アレクサンデル。……あとで話したいことがある」

「うん? 今じゃ駄目なのかい?」

 ためらいと怖れとを抱えた表情で頷いたゲオルクに、アレクサンデルは訝しげに首をかしげた。

「ゲオルク?」

 地面に置かれたブーべがそのとき、「ああっ!」という奇声をあげながら目覚めた。

 燃えあがるブルーメンタール邸を呆然と仰ぎ、這いつくばって前進した。

「クラナーン美術が! レラーの名画が!!」

 崩れた瓦礫の中で、すべてが燃えていた。

 忌々しい植物の残骸も、クラナッハが残した名品も。

「燃えている……」

 エリザベトは炎の向こうに女神レラーの姿を見つけて呟いた。

「ほら、ダイヤの首飾りに炎がかかった」

「ダイヤの首飾り?」

 無邪気な口ぶりでソフィネがくりかえす。燃えているのは彼女の家の遺産だ。

「ああ、あれね。ダイヤといえば、闇の帝国クラナーンは灰からダイヤモンドをつくることができたんだって。眉唾だけど、クラナッハに伝わる御伽噺にそういう話があるの」

 言いながらソフィネは疑り深く肩をすくめた。

「でも、いくらクラナーン帝国が今では失われてしまったような技術を幾つも鍛えて繁栄していたからって、灰からダイヤモンドはないわよね。レラーが焼かれて灰にされたことと、うちにあったあのレラーの絵に描かれたダイヤモンドがあとから混ざっただけの適当なおとぎ話なのかも。クラナーン教の教えでは、ダイヤモンドは永遠の慈愛を意味しているの」

 エリザベトは炎に沈んでいく首飾りを凝視していた。

 灰からダイヤモンド。

 灰は永遠の慈愛。

 灰。

 死者の灰。

 灰を。

「灰を食べたわ」

 胸元のダイヤモンドを握りしめつつエリザベトは呟いた。

 眉根をよせて考える。

「えっ?」

「わたくし、ソフィネの灰を食べたの」

「わたしは幽霊じゃないわよ。燃え尽きていないし」

 何かに辿りつきそうな額の内側が、しめつけられるように痛んだ。

「クラナッハの誰かの灰だったのだと思うわ……わたくしは……灰を食べた……永遠の、慈愛を……」

 だから。

「だからわたくしは――」

 ふと振り向くとゲオルクが、いない。アレクサンデルもいない。二人はどこへ行ったのだろう。

「どこに……」

 とつぜん、冷たい風が吹きぬけた。

 どこから……。

「それはだめだ」

 まるでその声は、天空から響きわたるように。

 天の光がレラーの慈愛を引き裂くように。

 ソフィネとエリザベトの足元に漆黒の川が流れた。




「……っ?!」

 漆黒が、地に染み入り、凍りついて、鳴動した。

 ――地面が、割れる。

 とっさに互いの顔を見合わせたソフィネとエリザベトの手は、相手のそれをつかまえようとした。しかし届かず、すれちがった。

 その場でたたらを踏んだソフィネとエリザベトの耳を、激しい剣戟の音がつんざいた。

「アレク……?」

 ふりかえったソフィネが呆然と呟く。

「それだけはだめだ」

 膝から転び、やっと顔をあげたエリザベトは、その光景に瞠目した。

 悲鳴がほとばしりそうになって、口元をおさえる。

「だめなんだ、ゲオルク」

「アレクサンデル――」

 壊れた――いや、柄を壊してしまった抜き身の刃の根元を握って。

 アレクサンデルはその手から漆黒の血を滴らせていた。

 流れでた彼の血が、触れるものすべてを氷結させた。

 掌からとめどなく血を放出する源は、その王気か、それとも彼の憎しみ――。

 零度のまなざしが親友を射た。

 痛みを忘れた両手で、両腕で、両肩で、アレクサンデルは刃を極限まで振りかぶり、――守勢のゲオルクを薙ぎ払う!

 耳の痛むほど破壊的に鋼がぶつかりあい、残響が歪む。

 ふりぬかれた剣の勢いでゲオルクは吹き飛ばされ、エリザベトの目の前でかろうじて次の攻撃を受けとめた。

 鋼と鋼が火花を生み、漆黒の氷の川をきらめかせる。

「アレク……!」

 斬撃を受けとめるごとにゲオルクは飛ばされ、後退した。

 燃えあがる邸の火炎に追いこまれてゆく。

 病の異力に身を任せたアレクサンデルの攻撃に、〈始末者〉の身体能力をもつゲオルクが一方的に押されている。

 血飛沫とともに閃いた渾身のアレクサンデルの一撃が、ゲオルクを火炎の只中に薙ぎ飛ばした。

「いや……っ!」

 駆けだそうとしたエリザベトを、

「エリス、あなたまで焼け死んじゃうっ」

 漆黒の血の川をとびこえてソフィネが羽交いじめにおさえた。

「だってソフィネ、だって……!」

「もうアレクは何も見えてない。何もわからなくなってる。気が済むまで誰も止められないわよ」

「でも、ゲオルクが……!」

 白煙の向こうで、ゲオルクが苦痛に咳きこみながら首をもたげた。

「アレクサンデル――」

「エリスは渡せない。エリスだけは渡さない。エリスはずっと僕のものだ。僕が守ってきた――」

 炎に入ってゆくアレクサンデルの周囲に金の糸がさらさらと揺らめき、漂った。

 糸――。

 絹のような、黄金のような、王気そのもののような、金色の髪。

 波うつ長い髪を左右に振る。

 燦然と輝く髪をまとわせ、腰に手を当てて瓦礫に立った王の姿は、天空神のごとく美しかった。

「何を笑ってるんだ、ゲオルク。笑っていないでキレろよ。不覚を取っただろう?」

 襟首を掴んで、アレクサンデルはゲオルクの上体を吊りあげた。

「笑うしかない」

「何がだ、ゲオルク」

「君は美しい王だ、そんなにも」

「だから?」

「だというのに、彼女ひとり手に入れられなかったんだな」

 アレクサンデルの拳がゲオルクを思うままに殴りつけた。

 三度、四度、五度……。

「それで? だから何だゲオルク?」

「ッ……」

 ゲオルクは口の中から溜まった血を吐き出した。

「ッ……そういうものだと思っていた。人生はそういうもの……望んだようには送れない……明日のパンはある、百年先までの金貨もある……その代わりに未来はない。未来はあらかじめ奪われていた。そういうものだと思っていた」

 冷気と熱気のせめぎあいに旋風が昇る。

 煤と火の粉に瞳を灼かれながら、ゲオルクは、神のごとく君臨するアレクサンデルをまっすぐに見つめ返した。

「君もそう思って……いただろう。たとえ国を滅ぼしても彼女は手に入らないと君はわかっていた。だから君は、憎まれることを選んだ。あんな自己満足なだけのやり方で」

 不世出の英才王、アレクサンデル――。

 賢い王は国を守り、エリザベトを守り通した。

 誰よりもゲオルクがいちばんに、王の覚悟と愛と傲慢を知っている。

 アレクサンデルの孤独を誰より理解したのはゲオルクだ。

「君は美しく、正しい王だ。その王を、私は裏切る」

 アレクサンデルがゲオルクの襟首をつきはなす。

 瓦礫のあいだに倒れたゲオルクは、断罪の刃が逆手に握りなおされるのを、霞む視界に眺めた。

「反逆は死罪だぞ、ブルーメンタール」

「ああ」

 ――雄叫びとともに、垂直の軌跡がまっすぐゲオルクをめがけた。

 ――。

 耳朶をかすめて剣先が瓦礫をえぐった。

 つらぬかれて砕け散った鉄格子の破片が頬を裂く。

「愚かな自分のほうが偉いっていうのか? 自分は愚かになって何もかも手に入れるつもりか」

 呻くようにアレクサンデルが言った。

 うつむいたその顔は、揺らめき輝く金糸の陰に隠れている……。

「いいや、そうじゃない。結局こうだ……何かを手に入れて、何かを失う。それは変わらない。だがそれは、裏を返せば貪欲なだけだ。人は何もかもを手に入れたがって、勝手に失望しているだけだ」

 突き立った諸刃の刃に、ゲオルクの名を呼ぶ公爵令嬢の姿が映っていた。

「これだけあればいい。ほかに何もいらない」

 正しさも、賢さもいらない。

 本当の自分を生きるために、そんなものはいらない。

 欲しいのは、ただひとつ。

「そう思えるものを見つけるための人生だ。出口は一つなんだ、アレクサンデル」

 彼女の声が聞こえる。

 凛として、自信にみちた彼女の声が。

 希みを踏みにじる何者をも許さない、誇り高いエリザベトの声が。


――見つけたわ。わたくしは光を見つけたわ


「アレクサンデル。君だって、彼女のために出口を用意していた」

 金糸の輝きの中でアレクサンデルがふと顔をあげ、後方を振り向いた。

『それに辿りつけたら、僕は君をバルヒェットから解放するよ』

 火炎の向こうに、エリザベトがいた。

「わたくしは辿りついたわ……。レラーの秘密を解いたわ!」

 この後に及んで高慢な怒りに燃えた深紫の瞳で、エリザベトは争いあう男たちを睨みつけた。

「約束、か……」

 突風が逆巻いた。火の粉まじりの砂塵にゲオルクは両眼をつぶされた。

 ふたたびゲオルクが目をあけたときには、いつものアレクサンデルが刈りあげた後頭部を掻いていた。

 わずかにゲオルクをふりかえったアレクサンデルが、

「病で心が弱って、しなくてもいい約束をしたものだよ」

 と、肩をすくめた。

 アレクサンデルとすれちがいに、エリザベトが氷の道を駆けてくる。

 あちこちの痛みをおして身を起こしたゲオルクに、エリザベトは飛びついた。

「エリザベト……」

「レラーは焼かれて灰になった。わたくしはソフィネの刑場で灰を食べたわ。だから――」

 息をはずませ、瞳を輝かせてエリザベトは言った。

「だからわたくしは奇病にかからなかったのじゃなくて?」

 ゲオルクは喉をつまらせながら、ただ頷く。

 ――奇病の治療法の糸口が、見えた。

 氷の道は溶けはじめていた。

 彼女は彼を支えながら立ちあがり、今にも崩れ落ちそうな瓦礫のあいだから逃れでる。

 とたんに火の回った地下が崩れ、火柱が辺りを舐めた。

 完全に火勢から離れたところで、二人は力尽きて地面に膝を折った。

 彼の頬の傷にエリザベトが指を添わせる。

 ゲオルクの片手が、反対がわからエリザベトの頬をつつんだ。

「試してみる価値がある」

 初めて。

 初めてゲオルクのまなざしが、若者らしい希望をおびた。

 ゲオルクは燃え落ちるブルーメンタール邸を仰いだ。

 すべて。

 すべて、父の野心も、妹の思い出も、ゲオルクの挫折も、すべてが燃え尽きていった。

「呪いなんかない……」

 呟いたゲオルクが、もういちどエリザベトを真剣に見つめた。

「試して、始めてみたい。望みがあるなら。――望みはある」

「……っ」

 エリザベトはゲオルクの両腕にしっかりと抱きしめられた。

 泣きたくなりそうで、けれどまだ、涙は少し未来に取っておきたくて。

 エリザベトは深紫の瞳をとじる。

 冬の星空の下、火の粉のまじる風に煽られながら。

 炎よりも紅く染まる頬の熱さと、暴れる血の鼓動をエリザベトはいつまでも、感じていた。







 邸のすみで燃え残った緑の蔓がぴくりとよわよわしく鎌首をもたげる。萎れた花の陰に、小さな小さな血色の雫花が最後の力で咲いた。

 ふふふ。

 花は、黄金の髪の娘の血の味を憶えていた。もう一度、その甘美な血を啜れたらと。花は思った。

 刃のごとく尖った緑の蔓が、エリザベトの背中をめがけた――。



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