「ねこ」と暮らす日常

ゆきな

第1話 出会い

 あららぎ ゆうはれっきとした女子だ。

ただ、取る人にとっては男性の名前として取るので、時々間違われることがあるくらいで。


今、学生寮を見上げているさらりとした肩まである黒のストレートヘアーの彼女には、それで自分に襲い掛かる不幸を知る由も無く。

ホテルのような外観のそれにわくわくしながら、中へと進んでいくのだった。



***


「えっ。きみ、女性だったの?・・・まいったなぁ」


管理人であろう茶髪の青年は頭をかき、話す。


「きみのルームメイトになる人がね、とてもわがままでさ。今まで1人で部屋を占領してたんだ。

けどそうも言えなくなったから、『同性である』こととかを条件にやっと説得できたところだったんだよ・・・」


しかも、説得したのは良いけれど、運悪く入寮希望者は女性ばっかりだったらしく、悠が初めての男性だと伝えてしまったのだという。


「こちらの落ち度だから、一回話してはみるけど・・・多分駄目だと思うから、覚悟はしておいてね」


廊下を歩きながら、ある部屋の前まで来ると青年はそう言った。


コンコン


ノックをするけれど、反応はない。


「おーい、篠崎くーん。いないのかー?」


いぶかしがる姿の先、侵入者を拒むような扉の奥にいるはずの「シノザキ」と呼ばれた人物の声も何もしないのを確認し、扉のノブを回すと、青年はあれ、と声を出した。


扉の先、これから住むであろう部屋は意外にすっきりしていて、二段ベッドや勉強机が2つあることで、元々2人部屋であることがすぐにわかった。


「ごめん、ちょっと篠崎くん捜してくるから、君はここにいてくれない?」


「えっ、でもシノザキさんが戻ってきたら・・・」


「その時は叫ぶなりなんなりしていいよ。元はと言えばこっちの責任だし」


そう言って笑う彼は、まるで大型犬のようなあどけなさを持っていて、思わず悠は頷いたのだった。



***


 このままだったらどうしよう。一応座った悠は考えた。


戻ってきたら、きっと私は追い出されてしまうだろう。


そしたら、どうすればいいのだろう。


そんなところに、思わぬ来客が舞い込んできた。


窓から侵入してきたそれは、人間ではなく。


「あれ、ネコさんだ」


フギャッ!と鳴き声を上げたそれに気づく悠に、おろおろするしかないアメリカンショートヘアのような見た目の猫。


近づこうとした人間を警戒するように、そのキレイな黒に近い紫(調べたら『至極色しごくいろ』と言うらしい)で見つめながら後退する相手に、手を伸ばそうとした、その時だった。



 バタンッ!



悠は座り方が悪かったのか、体勢を崩して倒れた。


びっくりした猫は、ぼふんっ、とでてきた煙にかき消えてしまった。


げほごほとむせるが、猫も同じようになってるだろうと考えて伸ばした手は、明らかに猫とは違う手触りに驚く。


「きゃあっ!?」


手を引っ込めた瞬間、煙が晴れて正体がわかった。


それは、17~18歳くらいの、眼鏡をかけた癖の強い黒短髪の青年だったのだ・・・。

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