第7話
手首に縄で縛れられた痕がまだ残ってズキズキする。アンドレアはその痕をそっと(さす)摩った。やっと風呂に入って着替えられたけど、服の中に入った髪の毛のジャリジャリした嫌な感触がしたような気がまだする、朝になってグレイプニルはわざわざアンドレアを起こしに来た。
「おい、いつまで寝てる、出発だぞ」
「ふわい」
アンドレアは大きな背中を追いかけた、再度背負わされた大荷物は一体何が入っているのかと尋ねると、グレイプニルはフフフと笑ってろくに答えもしなかった、お仕立ての良い貴族の服が、よく似合い、堂々した風格がある。
あいつはもしや神なのではないのかと思うほど、その仕草には気品があって、ゆったりしている。
「あんたはまるでおとぎ話に出てくる英雄のようだな……」
そんな感想を以前からそう思っていたアンドレアが漏らすとグレイプニルはクククと声を殺して笑った。
「なにがそんなに可笑しいんだ?」
「いや、お前はゴロツキの仲間だったくせに、人を疑うことを知らないのだと思ってね」
「えっ」
「その純粋さを気に入ったよ、お前なら何をしても逃げなさそうだ」
「逃げるようなことを今からするっていうのか」
「お前は女のような細身だしこぼれ落ちそうな目だからきっと騙されるぞ、髪の毛が長ければ尚更な」
「誰か騙す予定でもあるのか?」
「まあ、ちょっと見てろ、面白いから」
含み笑顔のままグレイプニルは路地裏に入っていく、中は薄暗くて奥から魔法つかいが出てきた。
「よお、詐欺師、久しぶりだな」
「だれが詐欺師だ、詐欺師はお前のほうじゃないか」
「ほら、こいつは新しいメイドだ、可愛いだろう」
魔法使いはメガネをかけ直してアンドレアの姿を凝視した。
「ほーよく見ればどこぞの姫君かと見間違う姿」
魔術師はほうとため息を吐いてそんなセリフを吐き出し、グレイプニルは背中で笑い転げる。
「おい、若すぎるぞ、ぴっちぴちだぞ」グレイプニルの態度に気づいたか気づかないかで魔術師は注意をする
「そんなことよりグレイプニル、メイドさんにうつつをぬかしている場合ではないぞ、
例の件、ばれそうなんだからな」
「ああ、ついに気がついたってか」
「俺はもうこの件から手を引くからな、あんたが畳の上で死ねるように祈ってるよ」
「まだ死ぬには早いわ」
結局魔術師は最後まで男だと気づかずに帰り際手を取って、その手に接吻したほどだった。
アンドレアはあまりにもおぞましくてグレイプニルのマントで手をゴシゴシ拭くのだった。
「おい、やめろ!」
「人を騙すって気分がいいものだろう」
「うーん」
アンドレアは同意しなかった、騙したおかげで魔術師の唾液がついたではないかと怒った。
「まあまあ、おかげで面白いものが見れたじゃないか」
グレイプニルはぱっとなにかを空中に飛ばしてすかさずキャッチした。
「あ!あんたいつの間に!」
グレイプニルはその品をふんぞり返ってアンドレアに見せる、あの魔術師の部屋からなにかをくすねてきたのだ。
「そうだ、お前に大事なことを言い忘れていた」
その場でグレイプニルはにっこり微笑んで突然アンドレアに軽く蹴りを入れた。
「俺様のことはグレイプニル様って呼ぶことだ」
「いって、何するんだよ!」
アンドレアは歯向かおうとするも、あんな事を言ったせいで武器は取り上げられていた。
仕方なく空中を殴りつけ、遠くになった大きな背中をふとじっくりと見ていた。
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