28

アンドレアが爵位をもらい騎士になったことを最初に驚いたのはグレイプニルであった。


「出世したなあ」


ずっととうちゃんのことを嘘つきよばわりしていたアンドレアは戸惑っていた。


「オレの見たてに狂いはなかったということだ。だれもおまえのみじめな姿を知ってるものはいない」


「とうとうここまで上り詰めてしまったぞ」


「お前がスラムにいたことなんて誰も信じやしないだろう」


立派な貴族の服を着た青年に成長していたアンドレアは、来るりくるりと振り返って見せた。本当の姿に戻っていたのだろうが、アンドレアは困惑していた。


「なんか慣れないなこういうのは」


「あのナイフ、王家のものだったらしいな、オレの勘に狂いはなかった。」


屈託なくわらうグレイプニルだったがとつぜん険しい顔をした。


「オレの荷物持ちがいなくなってしまうじゃないか」


「これであんたと同じだなグレイプニル」


「なりたてのくせになところでソフィアに面会はかなったのか」


「まだ」


残念そうにしてアンドレアは遠くをみつめた。


「お前のお気に入りなんだろ」


グレイプニルはけらけらと笑った。


「これでお前と対等だな、アンドレアきっとお前は普通じゃないと思っていた、貴族だったとはな」


「自分でも驚いているよ、照れくさいや」


頭をちょいちょいかいて、アンドレアはあわててその癖を治そうとしていた。


「アンドレア、ソフィアに面会できる機会があったらぜひオレに教えてくれ」


「今度パーティーがあるから多分そこで初めてお目にかかれるよ」


「オレを呼んでくれ」


そうか、たしかグレイプニルの目的はソフィアと結婚することだ。この国の王になるのが最初の目的だったのだ。


「無体なことするなよ」


「なーに、ちょちょっと挨拶したいだけさ」


グレイプニルは相変わらずな様子で屈託のない笑い方をし、手を振って去っていった。

ディアルが宝石を身に着けているといっていたので、アンドレアは初めてそれを確認した。

かつてスラムのソフィアにあげたものと同じである。

まさかな。

アレだけ信頼していたグレイプニルだったが、最近になって不信感が強くなっていた。ソフィアにあわせて大丈夫だろうか。

国から支給された屋敷に、アンドレアはすむことになり広すぎる屋敷は自分ひとりでは広すぎると、屋敷の一つの部屋だけを使い、のこりは使用人に使わせていた。

使用人はアンドレアのことを坊ちゃんと呼び、恥ずかしくなり、名前を呼ぶように言いつけていたがなかなか使用人がいる状況には慣れなかった。あのときは遠くからみているだけだったソフィアがこんなに近くにいる。

パーティーで初めてお目にかかれることになって、アンドレアは浮かれていた。

あの清楚なお姫様にキスをする機会があたえられたのである。

グレイプニルの思惑は成功していた。

パーティーでおずおずとてを差し出したソフィアはグレイプニルの手へのキスにすっかり舞い上がり、悲鳴をあげた。アンドレアも負けじとキスをしたが、ソフィアはすっかりグレイプニルの逞しさに夢中になってしまったらしく、よろめくほどであった。ディアルに似てるアンドレアには目もくれないようであった。


「ねえアンドレア」

「はい」

「聞いてグレイプニル様のお父様は叔父上にそっくりなんですってきっとなんらかの縁があって似ていらっしゃるんだわ」

「は?それって俺の話じゃないか」

「グレイプニル様が嘘をいうわけありませんわ!」

ソフィアに叱咤されてアンドレアはビックリした。

グレイプニルがアンドレアの話を自分の話だといってソフィアに言いふらしていることを知ったのである。

これはどういうことなのかアンドレアには理解できなかった。


「あいつは奪おうとしている?オレの人生を?」


不気味な暗い影がアンドレアの背中を追いかけていた。

グレイプニルは、どういうつもりなのか、不信感は高まって、でもそのときのアンドレアにはそれを問い詰める勇気がなかった。なによりソフィアがそれを信じているのである。

何を言っても無駄であった。ソフィアの心をすっかり捉えたグレイプニルは、

王宮へしょっちゅう向かうようになっていた。

このままでは、本当にソフィアはグレイプニルに奪われてしまう。


「あいつはオレの人生や俺の初恋の人を奪おうとしている、なにもかも奪おうとしているんだ!盗人だ!」


「おだまりアンドレア!お前は恩を忘れたというのですか!グレイプニル様が連れ出さなければ、今もスラムにいたのでしょう!恩知らずもいいところです!」


ソフィアには何を言っても無駄であった。

ついにアンドレアは、どういうことなのかグレイプニルに問いただすことにした。


「お前のものは何もかもオレのものだ。何が間違ってる?ソフィアもそう信じている、そうだろう?お前はあの日であったときからずっとオレのものだ、人生も親も恋人もすべてな」


高らかに笑ってグレイプニルは瑪瑙の指輪を見せた。


「どうだ、見覚えがあるだろう、スラムにソフィアにそっくりな女の子がいてな」

「盗んだのか」

「もちろん、あんなところにあるようなものじゃないからな」

オレの人生が、グレイプニルのものだって?確かにそういった。

グレイプニルは立派な騎士ではなかった。グレイプニルこそ嘘つきで盗人の得体のしれない騎士だったのだ。何も言い返せず、アンドレアはあっけにとられて今にも気絶しそうなほど、怒りでどうにかなってしまいそうであった。

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