宮殿で出会った少女

すっかり貴公子に化けた姿を、今では誰も嘲笑したりしない。

アンドレアが王族に完璧に化けられることに畏怖すら感じるのだろう、

みんなは今日は黙っていた。

グレイプニルは唖然とした様子でその王族に化けた少年をじっくりと見ていた。


「まあ、私の予感どおり!」

「お嬢様、今日はドナヴェル様が相手ですからくれぐれも」

「今日は何をやらかすつもりなのかしらね」


いつものことだとでも言わんばかりに爺とお嬢様はふうと溜息をついた。


「それでなくても彼女に困っているの、今日の紳士はきっと私の召使いが一番」


「お嬢様、ドナヴェル様は今夜は一体なにをやらかすでしょう」


爺が困った顔をして思わずハンカチで冷や汗を拭った。


「さすがに毎回暴れないと思うわ、もう年頃ですもの」


夜もふけて、光がぽつぽつ現れ始める時間に、どこかの大きなフロアだけが

煌いて、3人は堂々とそこに乗り込んだ。


「アンドレア様、手を引いてください」


アンドレアはもしかしたら、女性と手を繋ぐのは初めてだったかもしれない。

急激に照れて、恥ずかしくなってしまうと、お嬢様はクスクス笑った。


フロアに入場するなり、真っ青な顔をした青年が、お嬢様の姿を見つけて話しかけてきた。

「ごきげんよう」

お嬢様が挨拶したのでアンドレアも軽く頭を下げておいた。

「ど、ドナヴェル様がいないのです!どこかで見かけませんでしたか?」

「今度は逃亡ですかやれやれ」

「主役もいないんじゃ、うわっ!」

どこからか登場するはずだったその娘は、たおやかなブロンドの髪の毛を唐突に自分で切り始め、髪の毛に刺さった簪やピンを強引に引っこ抜いてさらに着衣を乱してピンヒールも脱いだ。

今にも泣き出しそうな連れの男が、やめてください!と、止める。

「うるさいな、私はこういう場で見世物のようになるのは嫌なんだよ」

アンドレアの目の前で令嬢がどんどん男性化していく。

「ねえ、これで後ろ髪を切ってくれない?」

はさみをわたされたアンドレアは驚きながら戸惑っていると、

「大丈夫」と一言言ってアンドレアに髪の毛を切らせた。

さっきまで見事な縦ロールだったとは思えないすっきりした頭髪。

「ああ、ありがとう、君には金子を」

そうやってドナヴェルがアンドレアのすがたに目を留めて

一瞬唖然として空気が止まった。


「叔父上?」


氷固まったドナヴェルは、思わず叔父上の若い日の姿を思い出していた。


「名前は?」


「アンドレア、苗字も何もないただのアンドレア」


隣にくっついてた男性がアンドレアに向かって金子を投げた。

それを受け取って、混乱した会場からドナヴェルは笑いながら立ち去った。


「ドナヴェルったら!」

「あいかわらずですねえ」


美しいドナヴェル姫は、新しいブランドドレスのモデルになるのを嫌がって、

アンドレアと一緒に星を見ていた。


「あんた、とんでもねえな」

「私は言いなりになるのが嫌でね」


だからといって逃げ出してしまったら大勢の人間に迷惑がかかる。


「冷える、戻ろう?」


「アンドレアといったな、着せ替え人形はもう御免だ

叔父上のように隠居して、滅多に姿をあらわさないように」


「せっかく美貌に恵まれた女性なら、それを生かすべきなんじゃ」


「ふむ。叔父上のような顔で親戚連中のようなことを言う」


ドナヴェルは不思議そうにアンドレアの目を見た。


「穢れなき美しい魂をかんじる眼の持ち主だ、不思議だな、

お前とは初めてあった気がしない」


ドナベル姫が共に見つかって連れ去られるまで、アンドレアはそこに

立ち尽くしていた。ずしりと思い金子が、彼女の地位を証明している。

育ちもよく、くうにこまったことなどない姫君が、一体何が悲しくて

このように暴れるのだろう。

めちゃくちゃになった会場に、ひとりきりで不安げに立っていた

パートナーを見つけ、アンドレアと従者たちはやっと帰還した。

その頃にはもう12時を過ぎていた。







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