ミステリー・ボーイズ

GAYA

プロローグ 謎のイケメン3人組

 都内某所。とある外資系ホテル最上階の一室にて。


 分厚い間仕切りカーテンの向こうで『マスター』と呼ばれる老人が念を押す。

『分かっているとは思うが、くれぐれも秘密裏に行動するように』


 仕切りの手前には少年が3人並んで椅子に座っている。


 彼等の側からマスターの姿は見えない。

 ちょうどカーテンを挟んで会話をする形になる。

 

 少年の一人が茶髪をサラッと、かき上げる。

「分かってますヨ。で、今度の学校は、いったいどんな状況で?」


 マスターが頷く。

『ウム。何者かが学校の運営を妨害しているようだ』


 茶髪の少年が苦笑する。

「そりゃ随分アバウトですネ。敵の正体が分かってないんですか?」


『ウム。現時点ではクライアントも敵が何者なのか把握できておらんのだよ』


 そこにメガネの少年が口を挟む。

「つまりボク達の役目は、その見えざる敵を見つけ出して排除するって事ですね?」


『ウム。その通りだ。すでに君達三人の転入手続きは済んでいる』


 そこで背の高い少年が面倒そうに口を開く。

「フン。たまには強い敵とガリガリやりあってみたいものだな。でないと腕がなまる」


 それを聞いて茶髪の少年が呆れる。

「まったく、しょうがないナ、大志たいしは。これだから格闘バカは……」


 大志と呼ばれた長身の少年は言い返す。

失敬しっけいな。勝春かつはるの方こそ、おなごしゅうに、うつつをぬかさんことだな!」


 勝春と呼ばれた茶髪少年が「プッ」と、噴き出す。

「オナゴのシュウって言い方が古いヨ!」


 メガネの少年が申し訳なさそうに言う。

「あのう二人とも……ここでケンカするのは、ちょっと頭悪くない?」


 メガネ少年の一言に長身の大志が怒る。

「うるさいぞ、カズ。お前のIQが高いことは認めるが、そうやって俺達を見下すのは鼻持ちならんな!」


 カズと呼ばれた少年が否定する。

「いや、そんなつもりじゃないよ。ボクは単に君達にお行儀よくしてもらいたいだけなんだって!」 


 そこでマスターが仲裁に入る。

『やめんか! まったく君達は。そんなコンビネーションで、よく成果が出せるな。理解に苦しむ。だが、やり方は問わん。結果がすべてだ。さしあたって最初のミッションを与えておこう』


 任務と聞いて三人の表情が引き締まる。


 一呼吸おいてマスターが続ける。

『君達に潜入してもらうのは、私立、加美村学園かみむらがくえんだ。クライアントはこの学校の経営者だ』


 初めて聞く学校名だが、三人に不安な様子は微塵も見られない。

 問題のある学校に転校生として潜入するのは慣れているのかもしれない。

 

 マスターが指令をくだす。

『この学校の柔道部が怪しいアルバイトをしているという情報が入った。君達は事実関係を究明して、しかるべき処置をしてくれたまえ』


 マスターの言葉に三人が「了解!」と、声を揃える。


 カーテンの仕切りの向こうでマスターが頷く。

『ウム。このアルバイトの件が見えざる敵に関係するかどうかは定かではないが……頼んだぞ。ミステリー・ボーイズ!』


   *   *   *


 このクラスに転校生が入るというニュースに始業式前の教室がざわめく。


 夏休みの後遺症で眠気が抜けない藤野菊乃ふじのきくのは、その話を聞いて隣席の森野美穂子もりのみほこに声を掛けた。

「2年の二学期に転校生って……ガセじゃないの?」


 美穂子が応える。

「そだね。うちは私立だけど試験ないと入れないはずだし……」


「どうせロクなもんじゃないでしょ。他の学校をクビになったとかさ……」


 しかし、そんな菊乃の予想は外れていた。


 なぜなら担任が連れてきた三人の男子を見て、女子達が一斉に感嘆の声をあげたからだ。


 女子が騒ぐのも無理はない。三人ともかなりの美形なのだ。

 このクラス、いやこの学校で一番と言われているイケメン男子でも遠く及ばない。


 まるでテレビに出ている男の子達に街中で出くわしたようなインパクトがあった。

 しかも、そんな高レベルのイケメンが一度に三人も転校してきたのだ。


「え? いっぺんに三人も?」と、さすがの菊乃も驚いた。


 ホームルームの始めに担任が三人を紹介する。

「ええ、では皆さんに紹介します。二学期から我が加美村学園に転入することになった新しい仲間です」


 まずは茶髪のさらさらヘアが良く似合う爽やか系の少年が挨拶をする。

田川勝春たがわかつはるデス! 勝春って呼んでください。よろしくネ!」


 一言でいえば綺麗な顔立ち。

 まるで、アイドルグループの真ん中で踊っていそうな正統派イケメンだ。

 だけど笑った顔は見る者をほっとさせる。


 続いて背の低い眼鏡の少年が口を開く。

「あの、岩田和成いわたかずなりと申します。皆さん、はじめまして」


 そう言って、ぴょこんとお辞儀をしたメガネの少年カズは可愛い系の美少年だ。

 目がクリッとして、まるで初恋の幼馴染がそのまま大きくなったような感じだ。

 はにかんだ表情が母性本能をくすぐる。


 最後に不愛想な少年が自己紹介する。

後藤大志ごとうたいし……以上!」


 三人目の少年は背が高くて180cm以上はありそうだ。

 短く刈った黒髪がツンツン立っている。

 すっきりとして形のいい目鼻立ちがクールな印象を与える。

 ちょっと取っ付き難い雰囲気があるが、スタイルの良い和風イケメンといえる。

 

 突如、現れた美少年三人組に女子達はすっかり圧倒されてしまった。

 そして彼女達の目は教壇に釘付けとなった。


 美穂子が興奮を抑えきれない様子で菊乃の袖を引っ張る。

「ねねね、マジ凄くない? 菊乃は誰がいい?」


「だ、誰ってアタシは別に……」


「私はやっぱ、勝春君! あの中でもダントツ! 足長いし、肩幅広いし、顔ちっちゃいし、超格好いいよねぇ」


「そっかなあ。アタシは……あの背の高い方がまだ好みかな」

「ええ? マジで? 絶対、勝春君だって!」


 あまりに美穂子が茶髪君を絶賛するので敢えて違う男子を好みだと言ってみたものの、菊乃には別世界のことのように思えた。


 周りの女子が異様に興奮しているのを見ていると逆に冷静になってしまう。


 それになぜ転校生が一度に三人も入ってきたのかという違和感の方が大きかった。


(なんか変なの……)


 どうしてなのかその理由はわからない。けれど、妙な胸騒ぎがする。

 大騒ぎする女子達を眺めながら菊乃はそんなことを考えていた。


 そして菊乃の女の勘は当たっていた。


 この学校に迫る危機。

 それに対処するために送り込まれた謎の美少年三人組。

 

 通称『ミステリー・ボーイズ』の戦いが今始まる!


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