第19話 この世界と法則の話。
「なぜ、こんなものを思いついたのか?」を話すためには、私がこの世界をどう捉えているのかを、まず説明しないといけません。
それは「私たちはどこから来て、どこへ行くのか?」という話でもあり、私たちに強く影響しているのが「死と恐怖」である、という話でもあります。
ではまず「我々はどこから来てどこへ行くのか?」から。
中二病的な疑問ですが、これに答えを出せた人はいるでしょうか?
ほとんどの人は「そんなこと、どうでも良い」という回答に行き着いたと思うんですが、本気で悩んで何らかの答を出せた人はいるでしょうか?
私の場合、まず最初に、この世界は単純なものの寄せ集めで出来ている。その単純なものが無数にあるから複雑に見えているだけであり、この世界も単純な答えの元に成立しているんじゃないか、という思いつきに行き着きました。
そして「宇宙を作った神が居るとしたら、どんな目的のために宇宙を作ったんだろう?」と。
この宇宙が単純な法則の寄せ集めで出来ている以上、その目的も単純なものに違いないと。
次に、私たち人類はこの宇宙がかなり昔に誕生し、そして遠い未来に壊れることを知っています。
誕生は良いとして、なぜ「壊れること」までこの宇宙に付け加える必要があったんでしょうか?
「壊れること」も、この宇宙を作った巨大な存在の目的の為に存在している、仕掛けの一つなのでは?
だとしたら、「壊れることが確定している宇宙」に誕生した私たちの意味とは何なのでしょうか?
宇宙に壊れることにも意味があり、その意味が悲観的なものでないとしたら?
宇宙を作った神様はいったい何を望んでいるのでしょうか?
楽観的に考えるなら答は簡単で、「宇宙が壊れても生き続けられる存在が出てきて欲しい」か、「宇宙が壊れる前に、別の宇宙に渡ることの出来る存在が出てきて欲しい」でしょう。
まあそんな強力な存在が出現する前に、宇宙が壊れて全滅してしまうという可能性は、大いにあるんですが。
ちなみに、宇宙に外に出る存在は、生物でも無生物でも、光でも記号でも良いと思います。
出られたら、たぶんそれが勝利になるはずです。
それが出来るとしたら、宇宙を作った存在の隣に行く行為であり、神様の友達になりに行く行為であると言えます。
なぜそんな風に考えるかというと、これが「宇宙が壊れても生き残る存在を見つける方法」として、一番簡単だからです。
たとえば、灼熱の溶岩の中でも生き残るモノを探し出したいとします。
私が神様なら、有機物無機物問わず、この世界にあるすべてのものを溶岩の中に放りこみます。
次に、溶岩の中をのぞき込みます。
その中で、生き残っていたモノが正解です。
「最初から知っていた」以外では、これが一番簡単な方法だと思います。
それと同じことが今の宇宙で行われている、というのが私の推測であり、「どこから来て、どこへ行くのか?」の答です。
つまり、溶岩の中ではなく、「壊れることが確定している宇宙」に放り込まれたのが、今の私たちということです。
宇宙が壊れても、生き残っていられれば私たちの勝ち、生き残れなければ負け、という話です。
ということは、「宇宙が壊れても生き残ったモノが勝ち」がこの世界の法則なのです。
仮にそれが正しいとしたら、毎日絶滅している種があることにも意味があると納得できるでしょう?
絶滅とは、勝負して負けた姿なのです。
生き残ったモノが勝ち、死んだら負けがこの世界の法則なのです。
そして私たち人類は、その法則の中で、ちょっとした時間の狭間に、奇跡のように誕生しました。
宇宙が壊れるまで人類が生き残っている可能性は、大変小さいでしょうし、今生きている人がそれを知る方法はありません。
ただ、今生きていることが勝利への道と信じて生きることしか、今の私たちには出来ません。
というか、このような宇宙が壊れるまでかかるタイムスケールの出来事は、今の私たちの生活にはほぼ関係ありません。
私たちはそんな宇宙の意味とか、人類の意味とか、我々はどこへ行くのかとは関係ないからこそ、日々楽しく生きるべきなのです。
長大な実験の過程の一つでしかない私たちには、それ以上のことは、決して出来ないでしょうから。
そんな関係ない宇宙の死も、私たちの中に「小さな死」として刻み込まれてしまいました。
そう、この宇宙と同じように、私たちも死ぬのです。
この宇宙の絶対的法則が「死んだら負け」であるように、私たち人間も死んだら負けなのです。
そして、この死という絶対的な敗北は恐怖と強く結びついて、私たちの行動を制限します。
その死という恐怖に対抗するためにやってしまう私たちの行動が、生存本能です。
それを生物として、本能的にやってしまうのが「生物としての生存本能」。
個人として、死から逃れるためにやってしまう行動が「個人の生存本能」。
集団や国の単位で、死から逃れようとする行動が「国の生存本能」。
日本人として全滅から逃れる行動が、「日本人の生存本能」ということになります。
宇宙の死はものすごく遠いですが、「死んだら負け」は身近にあります。
その死に対抗するために、必死に生き残ろうとしている姿が、共通の行動となり、共通の思考となり、生存本能となったものが、国の生存本能です。
その土地に生きる人間が、集団として全滅しないようにするための生存行動が、国の生存本能です。
なので、一人の人間が生き残れるかどうかではなく、集団として生き残れるかどうかの行動に、この本能は軸足を置く傾向があります。
この本能の中では「全体の生が、個人の生よりも重要視される」ことがしばしばあるということです。
国が違えば、その生存本能も違ったものになります。
そして、この国の生存本能は、個人の生を気にしませんから、個人を傷つけることがよくあります。
個人が持ち得る「国の生存本能(あるいは集団の生存本能)」は、ほとんどの場合一種類だけです。
たとえば、アメリカの「先に攻撃しないと全滅する」と、日本の「問題が起きたら全滅する」は、相反する特色を持つので、同時には成立し得ません。
日本人は、多くの場合「アメリカ人の生存本能」は持てませんし、「中国人の生存本能」も持てません。
例外として、日本人の生存本能が入る前に、アメリカ人の生存本能が入れば、アメリカ人の生存本能を育てることが出来ますが、逆に日本人の生存本能が育ちにくくなります。
空気の読めない帰国子女が、これに当たります。
国籍も、遺伝子も日本的でありながら、生存本能がアメリカ人なので、アメリカ人のように思考し、行動してしまうということです。
外見はまったくの日本人なのに、中身はアメリカ人ということです。アメリカで生活するなら、同じ生存本能を持っておいた方が得なので、これはこれは納得できるかと思います。
持てる国の生存本能が一つだけということは、逆に言うと他の国の生存本能は持てないということです。
ということは、普通に暮らしている上では、他国の生存本能は分かりません。
そして、自分が持っていない他の国の生存本能で傷つけられた場合、なぜ自分が傷つけられたのか、その理由が分からないということになります。
他国の生存本能という、大きな力で傷つけられた個人は、いつしかその原因を他国の個人や国に求めるようになります。
あの国の人の考えていることは分からないという風に。
それはいつしか誤解になり、摩擦になり、衝突となって私たちをさらに苦しめます。
最終的には、国同士の根深い争いとして広がっていくかもしれません。
それを防ぐためにも、この国の人はどのような生存本能の元に行動しているのかを、知っておくべきなのです。
なぜなら、生きようとする力、生き延びようとする力はとてつもなく強く、巨大なものだからです。
そこで折れたら、待っているのは死、あるいは全滅なのですから、生半可なことでは生存本能に裏打ちされた行動や思考は曲がりません。
まさに、命を懸けてやっているのです。
そんな命の灯火を賭けた行動と、正面から戦うことは、不毛です。
勝てたとしても、こちらも大きな痛手を負うでしょう。
では、どうすべきか?
お互いの中にある「死という恐怖」を知るべきだと思います。
互いにとって、生き残るために譲れないものは何なのか。
分かれば、摩擦を少なくして、衝突を回避する知恵も思いつくはずです。
そのためのちょっとしたテクニックが、この国の生存本能を知り、相手の思いを理解することです。
理解して、尊重すれば、今まで見えなかった、何か新しい道が開けるかもしれません。
まあ巨大な実験室に、たくさんの宇宙が並べられ、その中から出てくる存在を神様が待っているというのは、ただの個人的な妄想で全部間違っているという可能性はありますが、国の生存本能があるというのは合っていると思います。
そして、この思考法は使えます。
相手をより深く理解するために、相手との衝突を避けるために、何よりもお互いが幸せになるために。
私たちは、宇宙の誕生から死までの長大なレースの一時の参加者であり、傍観者です。
そのレースのゴールをその目で見ることは出来ませんが、そのレースのルールは私たちの中に入っています。
一時的な参加者への、参加資格と共に「生と死」とそのルールは、私たちの中に刻み込まれました。
このルールは知らなくても生きていけます。
ただ、知っている方が誤解や摩擦が減り、楽に生きられるようになるはずです。
貴方が幸せになるために、または多くの幸せにするためにこのルールを活用してください。
そしてルールが世界中に広まり、日本が外国から良い国だなと思われると、私は幸せです。
まあ日本にも、ダメなところも多々あるんですが。
もう一つ、私たちのまだ知らない、良い生存本能を持った国を発見できたらなと思っています。
そして、互いに理解し合い、手を取り合って、もう一つ上の新しい世界へ行けたらなと妄想しています。
最後に「私たちは何のために産まれてきたの?」と子供に尋ねられたら、迷わず「幸せになるためだよ」と答えてあげましょう。
「どこから来て、どこへ向かうの?」という質問には、「スタートもゴールも、遠すぎて見えないから、気にしちゃダメ」と。
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