第8話 ボクシング史に残るソウルオリンピックの判定疑惑事件

オリンピックのボクシングは、1904年から行われている。リオデジャネイロオリンピックから、プロ選手が参加できる見通しだが、いわゆるプロのボクシングとオリンピックのボクシングは似て非なる競技といっていい。オリンピックのボクシングは1ラウンド2分間の4ラウンド制を取っており、5人の審判がコンピュータのボタンを押し、正確なヒット数(得点打)を人力する電子採点装置が用いられている。正確なヒッ卜は、5人中3人の審判が同時にボタンを押した場合のみ有効とされ、ヒット数の多い選手の勝利となる。また、対戦相手は試合の当日にくじ引きにより決まり、1日に複数試合を行っている。

現在のようなシステムは、バルセロナ大会から採用されている。きっかけは、ソウル大会。この時のボクシングがトラブル続きだったのだ。

ソウルオリンピック・バンタム級2回戦、韓国の辺丁一とアレクサンダー・クリストフ(ブルガリア)の試合は4-1でクリストフの判定勝ちとなったが、韓国コーチが判定に納得せずリング内にかけ上がり、ニュージーランド人のレフェリーに激しく抗議した。ついには他のコーチも加わり20人近くの乱闘騒ぎになってしまった。さらに騒ぎを大きくしようとしたのか、静めようとしたのか、会場責任者が照明をいきなり消したのである。

これにより、後の2試合が延期となってしまった。韓国の有力二紙はこの騒ぎを社説に取り上げ、「韓国スポーツは惨めなKO負けを喫した。オリンピック主催国の体面は地に落ちた」(朝鮮日報)、「メダルより重要なものを失う」(韓国日報)と論評した。

一方、ライトミドル級決勝では、アメリカのロイ・ジョーンズ・ジュュニアと韓国の朴時憲が対戦した。ジョーンズは、プロ転向後にミドル級出身でヘビー級の王座を獲得した史上2人目の選手である。1ラウンドから、ジョーンズが的確なパンチを浴びせ、2ラウンド中盤には、スタンディングダウンを奪った。3ラウンドは打ち合いになったものの、明らかにジョーンズ優勢だったはずの試合は、なぜか3-2で朴の刊定勝ちに終わった。

観衆からもブーイングが起こり、不可解な判定に抗議した。収集に困った国際アマチュア・ボクシング連盟は、傑出した選手に贈られるバル・バーカー杯をジョーンズに贈ったものの、アメリカ側は猛抗議、これが採点方法を大きく見直す契機となったのであった。

大韓アマチュア・ボクシング連盟の金昇淵会長は、これらのボクシング不祥事の貴任をとって辞任するに至った。


翌年には、この試合の審判5人のうち3人が韓国に買収されていたことが、国際アマチュア・ボクシング連盟(AIBA)が開いた会議で暴露されている。

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