身代わり

ある子どもがいた。その子は、人形が大好きで、家にあるたくさんの人形達をかわいがっていた。

とりわけ、赤ん坊の頃にもらった人形のことは妹か弟であるかのようにかわいがっていた。

とてもきれいな微笑み顔で、まるで生きているかのようにリアルな質感の人形であったが、周囲の子どもたちからはそれがかえって不気味に見えたらしかった。


その子はいつもその人形と一緒だった。家に友達が遊びに来ても、公園で遊ぶときも、学校にまでこっそりランドセルに入れて持ってきていた。

そんな溺愛ぶりを奇異に思った一部の子ども達は、やがてその子をいじめるようになった。




ある日、いじめっ子達は持ち主の子から人形を取り上げると、公園のジャングルジムのてっぺんへのぼった。

持ち主の子は高いところが怖かったから、追いかけていけなかった。


「おーい、ここまで来てみろよー! じゃないとお前の赤ちゃんこっから落としちゃうぞー!」


「いじめないで! お願い! 大事な子なんだよ!」

普段自分がからかわれたときは俯いているだけだった子は、けれど人形が傷つけられそうになったときだけは必死に反抗した。

大切にして、絶対に痛いことをしないでと、死に物狂いで訴えた。


いじめっ子たちはそんな姿を見て嘲笑い、散々持ち主の子に酷い言葉を投げつけてから「そんなに大事なら返してやるよ。ほら」と人形をあさっての方に放り投げた。

持ち主の子はひときわ甲高い叫び声を上げた。




落ちた途端、ばきっという意外なほど大きな音がして、手足と首が、ありえない方向に折れ曲がった。


人形じゃなくて、持ち主の子どもの。


折れ曲がったその子は、そのまま地面に倒れて動かなくなった。

一方の高いところから放り投げられて地面に叩きつけられた人形は、何事もなかったかのようにまったくの無傷で、相変わらずの微笑みを浮かべていた。




という昔どこかで聞いた与太話を、「人形が持ち主の身代わりになってくれた」系の話を聞くたびに思い出す。

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