除夜の鐘

「ねえ、訊きたいことあんだけど」


「何?」


「大晦日の除夜の鐘って、大晦日に鳴らされるのが107回で、最後の1回は新年になってから鳴らすんだよね?」


「基本はそうだな。違うところもあるらしいけど。で?それがどうしたんだ?」


「今日大晦日でしょ?」


「うん」


「鳴った数、カウントしてたのね」


そう言って、彼は「正」がたくさん書かれた紙を見せた。


「そしたら、107回目までは鳴ったの」


「うん」


「で、108回目はいつかな~って待ってたの」


「うん」


「でも鳴らないの。いつまでたっても鳴らないの。もう明らかに日付変わってる時間なのに鳴らないの」


「…」


「日付変わるどころか、もう2,3日はたってる気がするんだ。でもまだ鳴らない」


「…」


「ねえ」


「…」


「黙ってないで… 教えてよ… なんで窓の外真っ暗で何も見えないの⁉︎なんで窓もドアも鍵かけてないのに開かないの⁉︎なんで家から出れないの⁉︎なんで電話もスマホも使えなくなってるの⁉︎」


「…」


「なんで今年が終わんないの⁉︎ねえ、なんで⁉︎」


「…こっちが訊きたいよ」


きっと来年を迎えることができないのであろうこの家の中で、墨をぶっかけたかのように真っ黒な窓を見つめながら、泣きじゃくる彼にそう言うことしかできなかった。

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